孫と祖父の会話。
意を決してソフィアは水晶球に手を翳す。
これだけで頭で考えた相手に繋がるのだから、なかなか優秀な魔道具だ。
まぁ、その分値段も天井知らずで、正直値がつかないと言うのが現状だ。
「きっとコージならもっと凄いの作るわよね。」
ソフィアは少し微笑みながらそんな言葉を漏らす。
次の瞬間、水晶球が激しく点滅し男性の声を吐き出す。
「ソフィア!ソフィアか?暫く連絡を寄越さないから心配したぞっ!」
捲し立てるように話すこの人が現在龍種を除けば世界一強いと言われるソフィアの祖父だ。
水晶通信を始めて数秒。
まるで目の前で連絡が来るのを待っていたかのようなスピードだ。
「お元気でしたか?お爺様。私の方は変わりありません。」
「おお!そうかそうか、連絡が来なくなったから心配で心配で…!ずっと水晶球の前で待って居たんじゃよ。」
どうやら本当に水晶球の前で待っていたようだ。
「暫くって言っても、最後の通信はつい三日前ですよ?」
「ついでは無い!もう三日じゃ!だから儂はソフィアをシュレイド城にやるのは反対だったんじゃ!」
「お爺様…その件はもう済んだ話じゃありませんか。それよりも報告しなければならない事があります。」
このままでは話が進まないとソフィアが本題を切り出す。
「うむ…つれないのぉ。よろしい、聞こう。」
「…以前お話したコージの話なのですが。」
「…ふむ。ソフィアが話していた人属領から助けたハイドワーフの青年か。……まさか…ソフィア!そ奴に乱暴でもされたのか!?」
「ち、違うわよっ!…コホン、そうでは無く…彼がエルダードワーフになりました。」
祖父の突飛な発言にいつもの口調が出てしまうも、何とか思い止まる。
「……ソフィア?もう一度頼む。最近耳が遠くての。」
「…彼がエルダードワーフになりました。」
綺麗に言い直したソフィア。
「…偽りは無いな?」
空気が変わる。
「はい。人属領を襲ったリッチーを倒した際、種族進化を果たしました。」
「…リッチー?…人属領…リッチー…まさか!ギルモットか!?」
「…はい、確かその様な名だったかと。」
「…そうか…ギルモットを倒したか…」
何やら水晶球の向こうで祖父が考え込む様子が伺える。
「お爺様?」
「あぁ、すまんの。少し驚いてな。そのコージとやらは本当にドワーフか?」
「はい、間違いなくドワーフです。」
「そうか…魔力の低いドワーフでありながら…魔力の塊であるリッチー…しかもあの「生きた闇」を倒す…か。うむ!面白い!」
あ、ヤバい…ソフィアは直感した。
「ソフィア…率直に答えよ。コージは強いか?」
あぁ、やっぱり。
もう、こうなってしまったら誤魔化しは利かない。
ソフィアは覚悟を決めた。
「はい。強いです。」
「そうか。ならば確かめねばな。」
「お爺様?」
「後日…そうだの…一週間後、魔王会議を開く。」
「え?」
「儂自身がそ奴の力量と人格を確かめ、『魔王』に相応しいか決めねばならん。」
祖父の口から出た「魔王会議」と言う言葉に冷や汗が出る。
魔王会議とは、この世界に突出した力を持つ者が現れた時、世界各地の魔王が集まり話し合いを行う場だ。
その議題は
「その人物が聖か邪かを見極め、聖ならば魔王会議に引き入れ共に世界の安定を図る同志として迎える。しかし、その性質が邪ならば魔王会議の全力をもって討伐及び封印する。」
と言うものだ。
かつてリッチーであるギルモットもこの会議にかけられ邪の判定を受けた。
各魔王の攻撃をスルリスルリとくぐり抜けたギルモットは人属領に逃げ込み、そして勇者によって封印された。
その戦いにソフィアの祖父も参加していた。
ギルモットは幾多の追撃を躱し、ソフィアの祖父は数多くの同志をこの時に失った。
故の決断だ。
自らも倒す事が叶わなかった最強不死の存在。
数多くの死を撒き散らした死者の王。
かつてこの世界を力と恐怖で治めていた大魔王。
その大魔王を倒した勇者と言う存在ですら封印するに留まったと聞く。
それを倒した。
もしかしたら仲間と共に討伐したのかも知れない。
ギルモット自身が封印で弱っていた可能性もある。
それでも。
倒した事は事実。
ならば見極めなければならない。
聖ならば良し。
しかし、邪ならば…
世界を巻き込む大戦争に発展しかねない。
ソフィアの祖父も覚悟を決めていたのだ。
「お爺様っ!コージに限ってそんな事はっ!」
「分かっているよ、ソフィア。」
ソフィアの名を呼ぶ祖父の声は何処までも静かで優しさに溢れていた。
「これは彼の為でもある。早々に見極め「魔王」にしてしまえば、多少の無茶は通ろう。」
「…お爺様…分かりました。」
「では、済まぬが準備の方は任せても良いか?」
「はい。」
「うむ、では名残惜しいがそろそろかの。」
水晶球の向こうから凄く残念そうな声が聞こえる。
「はい、お爺様。次は魔王会議でお会いしましょう。」
「うむ!…それでは儂は行くぞ!色々準備せねばならんからな!…久しぶりに腕が鳴るわいっ!」
「お爺様!?」
祖父の不吉な言葉を残して水晶球から光が消えた。
水晶球をただただ見詰めていたソフィアは思い出した様に額を押える。
「…お爺様…やる気満々じゃない…」
ソフィア…彼女の悩みは尽きないようだ。
□■□■
「兄貴も遂に魔王かぁ…」
妙に嬉しそうな猛。
「…何だろ?妙に納得出来るんだけど。」
特に驚かない麗子。
「いつかなるんじゃないかなぁって思ってました。」
「お兄ちゃんだしね。」
納得顔の舞と栞。
「お兄さん凄いじゃん!」
蓮は相変わらず元気だ。
「アンタ達…」
そして、額を押さえて首を振るソフィア。
「えーと、つまりソフィアのお祖父さんに勝たなきゃ駄目なのか?」
「勝てる訳無いでしょっ!…あれ?…でも…コージだし…」
何かが揺らぐソフィア。
「何だか分からないけど、頑張ってみるよ。」
相変わらず事の重大さを今一理解していない様子だが、浩二もやる気にはなっている様だ。
この世界で龍種を除いてたった二人の最上位種。
この二人がやる気になるという事がどういう事かを皆が理解するのはまだ先のようだ。
そして止めなかった事を後悔するのも。
読んでいただきありがとうございます。




