第三十九話 手を組む強敵達
「て、帝国と魔神が・・・?」
「ああ、よく分からんけどそう言ってた」
イツキさん達と別れ、家に戻った俺は、帰ってきた女子ーズにさっき聞いたことを伝えた。
案の定めっちゃ驚いている。
「ご主人様、それは他人に言ってもいい内容なのですか?」
「うん?」
「わざわざ私達が居ない場所でイツキさんはご主人様にそれを伝えたのでしょう?」
・・・確かに。
この噂が広まれば、王都は大混乱に陥るだろう。
帝国と魔神が手を組んで、王国に攻め込んでくるぞ・・・と。
でも、大丈夫だ。
「仲間にそんなことを秘密にしてはおけないだろ?」
「ジークさん・・・」
そういうことだ。
シオン達ならきっと秘密にしてくれるだろうし、別に言っても何の問題もない。
結局イツキさんも教えていいって言ってたし。
問題があるとしたら、このアホ魔神ぐらいなのだが・・・。
「・・・」
「レヴィ?」
珍しくレヴィは真剣な表情だった。
「・・・ジーク、その魔神が誰だか言ってた?」
「いや、言ってなかったけど」
「そう・・・」
え、なんだこれ。
こんなレヴィを見んのは初めてだ。
「もし、《七つの大罪》の誰かだったら、きっと大規模な戦いになるよ」
七つの大罪・・・。
この小さな魔神レヴィアタンもその一人だ。
《絶界の十二魔神》の中でも最強の7人。
そんなやつが今回王国に来るかもしれないのか。
「で、でも、ジークさんは強いですし、きっと勝てますよ」
「うん、そうかもしれない。でも、なんだか嫌な予感がするんだよねー」
おいおい、そんな事言うからみんな固まっちゃってるだろうが。
ここは空気を変えるために─────
「やっほー」
「どうわあぁぁぁっ!?」
心臓が飛び出るかと思った。
突然俺の背後にあの人が現れたからだ。
「り、リリスさん!?」
「そうよー」
「ど、どこから入ったんですか・・・」
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない」
そう言うとリリスさんはソファに座って笑った。
「新情報追加よ。絶界の十二魔神の一人が帝国と手を組んだらしいけど、もう一人動き始めたわ」
「え、誰が────」
「絶界の十二魔神がよ」
「なっ!」
レヴィが立ち上がって驚愕の表情を浮かべる。
「そんな!魔神同士が手を組んだの?」
「ううん、違うわ。帝国と手を組んだ魔神が1人、独自に動き始めた魔神が1人」
「なっ・・・」
「つまり、今回私達の敵は帝国、魔神2人ってわけ」
おいおいまじか。
でも、アルターレベルだったら普通に倒せるけど・・・。
「っ・・・!!」
突然レヴィが窓から外に飛び出した。
「おい、レヴィ!?」
「ジーク、ちょっと来て!!」
「え、お、おう」
そして、下から呼ばれて俺も窓から飛び出す。
「どうした?」
「ちょっと待ってね!」
そう言ってレヴィはエステリーナ誘拐事件の時にも行った《魔力サーチ》を使った。
彼女の膨大な魔力が全方位に向けて放たれる。
「・・・やっぱり」
「おい、何が───」
「ここから西に5kmの地点に魔神の反応」
「なにっ!?」
まじか!
そんないきなり敵が現れるとは、さすがに想定外でしたね。
「しかも・・・、最悪だよ」
「・・・?」
「とりあえず、行こう」
「おう」
何が目的かは知らねーけど、ぶっ倒してやらないとな。
珍しくレヴィも真剣だし。
「シオン!!ちょっと行ってくるから留守番よろしく!!」
「え!?じ、ジークさ────」
そして俺は窓からこちらを見下ろしているシオンにそう言って、思いっきり地面を蹴った。
俺の前を駆けるレヴィに付いていきながら、何故今魔神が現れたのかについて考えた。
王国を支配するためか、レヴィのように強いヤツと戦いに来たのか。
まあ、とっちでもいいか。
と、走り始めて数分後、レヴィは突然足を止めた。
「ちっ、わんさかいやがるな」
「・・・?魔神の気配が消えた・・・?」
「まじで?まあ、とりあえずあれ、何とかしようぜ」
「うん」
俺達の視線の先には、こちらに向かって進んでくる魔物の群れが。おそらく王都に向かっているのだろう。
「魔神があの魔物達を率いてきた・・・ってことか?」
「多分そうだと思うけど、理由が分からないよ」
「理由なんていらねー。とりあえずぶっ飛ばす!」
俺は勢いよく地面を蹴り、魔物の群れに突っ込んだ。
「っらあ!!」
そして、やたらデカイサイクロプスみたいなやつの足を掴んでブンブン振り回し、群がる魔物達を薙ぎ払っていく。
「《タイダルウェイブ》!!」
レヴィは別の場所で上位魔法を発動する。
放たれた水は魔物達を呑み込み、押し流していく。
「おっと」
そして、俺はあるものを見た。
こちらに向かって猛スピードで飛んでくる玉のようなものを。
「いや、ダンゴムシみたいなやつが跳ねながらこっちに来てんのか」
これは、あれをやれということですな。
俺は全身ボコボコになったサイクロプスを構え、片足を上げた。
「いっけえええ!!」
そして、目の前に来たダンゴムシみたいなやつをサイクロプスで思いっきり打った。
うん、野球ですね。
「おお、雲突き抜けた・・・」
ダンゴムシは、星になりました。
サイクロプスは、うん、ごめん、死んだ。
「何してんのー?」
「いや、ちょっと故郷のスポーツをな」
「あはは、なにそれ」
そして、俺とレヴィが魔物の群れを全滅させるのにそう時間は掛からなかった。




