第三十八話 動き出す闇
「・・・2週間ぐらいでまたどっか行くんじゃなかったんですか?」
「予定が変わってな。しばらく王都でゆっくり出来ることになったのだ」
現在イツキさんと話している俺の周りにシオン達はいない。
なんでもイツキさんから重要な話があるそうで、女子ーズには俺抜きで依頼に行ってもらった。
「それで、話とは?」
「そのことだが、もう一人聞いてもらいたい人がいるから少し場所を変えるぞ」
「あ、はい」
そう言って立ち上がり、どこかへ歩き始めたイツキのあとを追って俺も立ち上がった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あら、ジーク君。なんだかこうして会うの、久しぶりじゃない?」
「そうですね」
俺がイツキさんに連れられて向かったのは、ギルド長リリスさんの部屋だ。
リリスさんは、緩いウェーブのかかった桃色の長髪をもつ超美人さんである。
そんな彼女にも話があるらしいが。
「そういえばジーク君、最近エステリーナとはどうなのよ」
「え?」
突然リリスさんにそう言われて俺は固まった。
『ふふ、今のは助けてくれたお礼だ』
あの夜のことを思い出す。
突然俺はエステリーナに、その、キスされたのだ。
あれは照れた。
心臓が破裂するかと思った。
「ま、まあ、良き仕事仲間として共に毎日一生懸命頑張っておりますが・・・」
「貴様、エステリーナに手を出しているのか?」
今度は鬼のような形相のイツキさんが絡んできた。
この男、妹であるエステリーナのことになるととてつもなく面倒くさい。
「出してませんから」
「そうか。もし出しているのなら街の真ん中で貴様の服だけ消し炭にしてやろうと思ったんだが」
「なんて大胆な嫌がらせ!」
なんて恐ろしいことを考えてるんだこの男は。
「とまあ、その話は置いておけ。今日は話があってお前を呼んでいるのだからな」
「はあ・・・」
イツキさんは、近くにあったソファに腰掛けると、先程までとは違って真剣な表情になった。
とりあえず俺も座ろっと。
「それで、どんな内容なのかしら?」
「実は、仲間からの情報で、帝国と魔神の一人が手を組んでいる可能性が出てきましてね」
「へぇ・・・」
リリスさんが興味深そうに笑う。
「帝国・・・」
前にもイツキさんが言ってたけど、帝国ってこの国とどんな関係なんだろ。
「《シュヴァルツ帝国》・・・。この国とは昔から仲が悪い隣国よ」
俺の考えていたことが分かっているかのようにリリスさんが説明してくれた。
「帝国の魔導軍は厄介でね、五年前も一度王国に攻めてきてるの」
「そんなことが・・・」
そんな国が、魔神と手を組んだ・・・か。
「てことは、帝国は魔神の力を利用して王国を侵略しようとしてるってことですか?」
「それか帝国が魔神に利用されているかの二択だな」
「どちらにせよ、これは国王、王国軍にも報告したほうがよさそうね」
「ええ、後で俺が報告しに行きます」
「・・・私も行くわ」
おっと、国王か・・・。
そんな大物までついに出てくるというのか。
「・・・てか、なんでそんな話を俺に?」
「貴様は一応魔闘祭優勝者だろう?もしものことがあれば貴様にも手を貸してもらうかもしれんからだ」
ああ、そういうことか。
確かに俺も手を貸したほうがよさそうだし。
「その話、みんなには言っていいんですか?」
「別に構わんが、エステリーナ達以外には聞かれないようにしろよ?そのためにわざわざ少人数で会話しているのだから」
別に言ってもいいんかーい。
「さて、俺達は報告に向かうとしよう。ギルド長、行きましょう」
「ええ。ジーク君、勝手に部屋を漁っちゃだめよー?」
「しませんよ」
そして、イツキさんとリリスさんは部屋を出ていった。
「・・・帝国に、新たな魔神か」
また面倒なことになりそうだな、こりゃ。
そんなことを思いながら、俺もギルド長室をあとにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
────シュヴァルツ帝国。
ローレリア王国の隣にあるこの巨大な国は、昔から王国を支配するために何度も攻め入っていた。
しかし、その度に《英雄》と呼ばれる者達によって侵略は阻まれてきた。
「・・・よくお越しくださいました」
「あーいいよ、立たなくて。そういうの面倒だし」
帝国領にある帝都ハンニバル。
卓越した魔導師達が集う《帝国魔導軍》の本部が設置されておりそして実質帝国トップである皇帝グレン・F・フレイアが住む《皇宮フレイア》がある帝国最大の都市だ。
そしてここは帝国魔導軍本部最上階、魔導軍総司令室。
そんな場所に、黒髪の男は立っていた。
「では早速ですが、我々の計画に協力してくださるというのは本当なのですか?」
そう言ったのは《帝国魔導軍総司令官》、ランサー・ゼノブレス。
30という若さで帝国魔導軍を従える帝国最強格の一人である。
しかし、そんなランサーを前にしても、黒髪の男はニヤニヤと笑い続ける。
さらに、
「あー、だるい」
「なぁっ!?」
黒髪の男は寝転んだ。
それを見て帝国魔導軍幹部達は目を見開き、息を呑む。
「協力はするよ。その代わりそれ相応の働きはしてもらうけどねー」
「・・・」
寝転がりながらそう言った男。
それを見てランサーは額に青筋を浮かべる。
「・・・失礼ですが、その態度は我々に対する侮辱と受け取ってもよろしいか?」
ランサーが片手を挙げた。
それを見て魔導兵達が黒髪の男を取り囲む。
「・・・何のつもり?」
「我々にもプライドというものがあるという事です」
「へぇ・・・」
囲まれながらも黒髪の男は余裕の態度を崩さない。
それどころか欠伸までする始末だ。
「っ、貴様・・・」
「あんたらのプライドとかどうでもいいんだよねー。俺は動くのも面倒なのにわざわざ来てやってんだからさぁ・・・」
黒髪の男がランサーに顔を向け、そして口角を吊り上げた。
「とりあえず土下座でもしてみろよ人間共」
「やれ」
次の瞬間、魔導兵達が次々と黒髪の男に向かって魔法を放った。ランサーと魔導軍幹部達は結界を張り、余波からその身を守る。
「よろしいのですか?ランサー様」
「構わん。舐められたままでは我々の面子に関わる。別に死んではいないだろう。服従させて思う存分利用させてもらうとしよう」
そう言ってランサーは立ち上がった。
そして立ちのぼる煙に向かって歩いていく。
「・・・手を貸してやるって言ってんのに、よくそんな事が出来るもんだな」
「ッ!?」
しかし、煙の中から声を聞き、動きを止めた。
「あー面倒だ。だから俺は動きたくないんだよ」
そして、ランサーは膝をついた。
自分の意思ではない。身体が勝手に動いたのだ。
いや、何らかの力によって地面に押し付けられた・・・というべきか。
ランサーが周りを見れば、幹部達や兵士達も次々と膝をついていく。中には倒れる者もいた。
「分かるか?これが俺とお前達の差だよ」
「ぐっ・・・」
煙の中から姿を現したのは、傷一つ負っていない黒髪の男。
先程と違うのは、立ってランサー達を見下ろしていることだけだ。
「まあ、俺が動くの面倒だからお前達に働いてもらうわけだし、今回は許してやろう。ただ・・・」
黒髪の男の魔力が上昇していく。
それを感じ取ったランサーは震え上がった。
「次は無いぞ、人間共」
次の瞬間、この場にいるランサー以外の全ての人間が気絶した。
圧倒的強者の威圧。それは弱者が意識を保つことすら許さない。
「わ、分かりました・・・」
ガタガタと震えながら、ランサーは小さな声でそう言った。それを聞いて黒髪の男は振り返り、部屋の扉へと向かう。
「はあ、力を与えて、ステータス隠しまでしてやった男も即やられたらしいし、人間ってやっぱ使えないよねぇ・・・。」
そして途中で顔だけをランサーに向け、こう言った。
「そういえばまだちゃんと自己紹介してなかったっけ。俺はベルフェゴール、《絶界の十二魔神》の一人であり、《七つの大罪》の怠惰を司っている」
最強の魔神の一角が、王国に牙を剥こうとしていた。




