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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
魔導の祭典〜マジックバトルカーニバル〜
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番外編 探偵シルフィ

「えーと、これとこれと・・・これですね」


透き通るような声でそう言い、置いてあった野菜を手に取っていく一人の少女。思わず数秒間目で追ってしまうほど可愛らしく、男達の中のロリコン魂を目覚めさせてしまう彼女の名は、シルフィ・パストラール。黄緑色の短い髪、長い耳が特徴だ。


そう、彼女はエルフ族という、ローレリア王国ではかなり珍しい種族である。


「すみません、会計をお願いします」

「あいよ、いつもありがとな」


今日も、彼女は最も尊敬する主人のため、こうして買い物に出掛けていた。主人は「俺も行く」と言っていたのだが、そんなことをさせるわけにはいかず・・・。


「よし、帰りましょうか」


袋に入れられた野菜を受け取り、シルフィは主人と共に住む家に向かって歩き始める。

既に太陽は沈みはじめており、自然と彼女は少し早足になった。


「・・・」


今日は、何を作りましょう。

ご主人様が好きなのはかぼちゃのスープ。でも、昨日それは作ってしまったので、今日は身体に良い料理にしましょうか。


そんなことを思いながら、角を曲がる。

そこで彼女は目撃した。


「・・・え」


シルフィの視線の先には、主人であるジークがいた。その隣には、見たことのない女性が笑顔で立っている。


「え、え・・・?」


彼女は一体誰なのだろうか。シルフィはそーっとジークと女性のやり取りを覗き見た。


「・・・います?」

「・・・い、とてもが気持ちがいい・・・・・・」

「・・し、じゃあ・・・行きま・・・」

「っ・・・!?」


どういうことだ。よく見ればあの女性は少し顔を赤らめているではないか。

これから二人でどこかに行くのだろうか。


「ご、ご主人様・・・」


まさか、付き合っているのか。これまで彼があのような女性と一緒に居るところをシルフィは見たことがない。


「・・・」


彼は、シルフィが最も尊敬し、そして愛する主人だ。そんな彼のあとをこっそりと追ってもいいのだろうかとシルフィは考える。


しかし、気になって仕方がない。


「・・・よし」


シルフィは覚悟を決めた。



まるで気分は探偵・・・である。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





(なにあれ可愛い)

(愛でたい・・・)

(肩車したい・・・)


道行く男達は、ジーク達のあとを追ってこそこそと移動し、壁から少しだけ顔を覗かせるシルフィを見てそう思った。


そう、今の彼女は愛する主人の秘密を追う探偵だ。


(うーん、今のところ変なことはしたりしていませんね・・・)


見た感じではジークは女性と仲良さげに話しているだけで、別に手を出したりは─────


(モヤっ・・・)


シルフィは、それが嫌だった。見ず知らずの人と仲良そうに話すジークを見ると、何故かモヤモヤする。


「あ、いましたよ」

「っ、やっぱり・・・」


突然ジークと女性が立ち止まった。どうやら何かを見つけたらしいが・・・。


「許せないっ・・・!!」

「と、とりあえず落ち着いて。様子を見ましょう」


何の話をしているのだろう。女性の方は顔を真っ赤にして怒っているようにも見える。


(ご主人様、まさか変なことを・・・?)


そんなことを考えてしまい、シルフィはブルブルと頭を振った。


(ご主人様は、そんなことしません)


そして、再び壁から少しだけ顔を出し、二人の様子を確認したのだが。


「え、あれ?」


いつの間にか二人はいなくなっていた。


(み、見失った!?)


最悪の事態である。これではこのあと一体何が起こるのかまったく分からない。


(落ち着いて、シルフィ・パストラール。そう遠くには行っていないはずです)


深呼吸し、シルフィはジークを追うために壁から飛び出し、駆け出した・・・のだが。


「危なかったぁ。バレる寸前でしたね!」

「な、なんで楽しそうなのよ!」

「ッ〜〜〜〜〜!?」


突然すぐ目の前の店からジークと女性が出てきたので、シルフィは叫びそうになりながらも咄嗟に看板の裏に隠れた。


(な、ななな・・・)


ジークは「バレる寸前だった」と言っていた。つまり自分の存在に気が付き、そこの店に隠れたというのか。


(さ、流石はご主人様です)


何故か感動するシルフィ。どうやらジークは常に警戒を怠っていないと思い込んだそうです。


「さて、そろそろ行きますか」

「ええ」

そう言って再び歩き始めたジークと女性。よく見れば、女性はとても美人だ。それに、胸がでかい。


「・・・」


シルフィは自分の胸を触り、項垂れた。


(わ、私だって、いつかは・・・)


と、そんなことを思っているうちに、二人はどんどん先に進んでしまっていた。


「あ、しまった・・・」


早く追わなれば今度こそ見失ってしまう。シルフィは二人とある程度距離が空いたのを確認し、ゆっくりと尾行を再開した。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




(・・・ふぁ)


可愛らしい欠伸をするシルフィ。そんな彼女を見た男達は撫でたいという衝動を抑えるために必死だった。


尾行開始から1時間、いつもなら晩ご飯を食べる時間帯なのだが、彼女の主人であるジークはまだ女性と共に王都を歩き回っていた。


(今日は、外で晩ご飯を食べるのでしょうか・・・)


いつも自分の作った料理を心底美味そうに食べてくれるジーク。彼の足元にも及ばないと思っているが、毎日とても嬉しい気持ちになる。


しかし、今日は愛する主人に料理を食べてもらえないのだろうか。そう思うとシルフィは、少し残念な気持ちになった。


(・・・あれ?)


突然ジークが立ち止まり、隣にある場所を悲しそうな表情で見つめていることに気がついた。


(どうしたんでしょう・・・?)


しばらくしてジークと女性は再び歩き出した。それを追うためシルフィもゆっくりと壁の陰から出る。


「・・・あ」


そして、彼女も先ほどジークが立ち止まっていた場所で、同じように立ち止まる。


そこにあったのは、かつてシルフィが居た奴隷市場。今もまだたくさんの奴隷達がこの中にはいるのだろう。


「・・・」


だから、ジークは悲しそうな表情をしていたのか。

あの時、ジークが自分を買ってくれていなければ、今頃自分はどんな生活を送っていたのだろうか。確実に今のようには暮らせていないはずだ。


ジークは、シルフィをまったく奴隷扱いしていない。それは彼の仲間達も同様だ。しかし、シルフィは自分を救ってくれたジークのため、自ら率先して買い物に出掛けたり、料理を作ったりしている。


彼の役に立てることが、シルフィにとって最も嬉しいことだから。


(ご主人様・・・)


もし、ジークがシルフィのことを奴隷として扱っていたのなら、こんなことは思えなかっただろう。


けど、自分は奴隷ではないのなら・・・。


(ご主人様を、一人の女として誰にも渡したくないと思う事は、許されるはずですよね)


遠くを歩く主人の背を眺めながら、シルフィはそう思った。






その後、物陰からジークを追い続けた彼女は、ついに今回の物語の終わりを迎えることになる。


「っ!?ナターシャ!?」

「こんのっ!よくも私に黙ってそんなことを!」

「ま、待てっ!誤解だ!!」

(あ、あれ・・・?)


突然ジークと共に歩いていた女性が、とある男に殴りかかったのだ。わけがわからずシルフィは混乱する。


「えー、アントンさんですね。実はこちらのナターシャさんからあなたが浮気しているかもしれないので調査してほしいとギルドに依頼がありましてですね・・・」

「なっ・・・!?」

「単刀直入に聞きます。そちらの女性は誰ですか?」


真剣な表情で男性に向かってそう言うジーク。思わずシルフィはその表情に見惚れてしまう。


そして、よく見ればアントンと呼ばれた男性の隣には、これまた見知らぬ女性が焦った表情でオロオロしている。


「・・・はあ、バレたか」


諦めたかのようにため息を吐くアントン。それを見たナターシャがさらに顔を真っ赤にして殴りかかろうとする。


「やっぱり浮気をっ・・・!」

「・・・はい」

「・・・え?」


突然アントンに何かを差し出され、ナターシャは動きを止めた。


「君、今日誕生日だろ?だから、こっそりプレゼントを選んでたんだよ。この女性は僕の友達で、プレゼント選びに協力してもらってたんだ」

「っえ、え?」

「黙っててごめんね」

「っ、でも、前からその女と一緒に・・・」

「あーもう、しょうがない。まだ心の準備が出来てないけど」


そう言うとアントンは、隣にいる女性にあることを頼む。それを聞いて女性は任せてとウィンクした。


そして─────


「みんなーー!あれ、お願いしてもいいかなーー!?」


そう叫んだ。


「ッ!?」


突然シルフィの背後の扉が開き、そこからぞろぞろと人が出てくる。びっくりしてシルフィの肩は跳ね上がった。


「はい、次!」


女性が手を叩く。すると、周囲の家々に設置されていたのであろう何か光り輝いた。


「衝光石・・・」


かつてジークが初めて迷宮に挑んだ時にも使用された、衝撃を与えると光る石だ。それがあちこちで光り輝いている。


「え、え・・・?」


一番驚いているのはナターシャだ。ジークは何かを察したのか、ナターシャのそばから離れる。


「〜〜〜♪〜〜〜♪♪」

「ちょ、どういうこと・・・」


今度は突然現れた人達が歌い始めた。もう何がなんだか分からない。


「ナターシャ」

「あ、アントン?」


ナターシャの前には、覚悟を決めたような表情のアントンが。そして─────


「ぁ────」


アントンが差し出したのは、婚約指輪。この世界も、ジークが元いた世界と同じで、サプライズプロポーズする時はこんな感じだ。


「ナターシャ、僕と結婚してくれ」

「え、ええええ!?」


ナターシャの顔がみるみる間に赤くなる。それを見ているシルフィの顔も真っ赤になった。


(け、けけけ結婚!?)


まさか、あとを追っていたらこんな場面に遭遇するとは。


「僕が彼女と一緒にいたのは、これの準備をするため。黙っててごめんね」

「あ、アントン・・・」


ナターシャの目から涙がこぼれ落ちる。


「も、もう・・・」


そして、彼女はアントンに抱きついた。それと同時に周囲の人達が歓声をあげる。


ジークはまだ状況がよく分からないような表情で手を叩いていた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





(つまり、今回ご主人様がナターシャさんと一緒に行動していた理由は、アントンさんが浮気をしているのか調査していたということで、アントンさんがこっそり女性と行動していたのは、ナターシャさんにサプライズプロポーズするためだったんですね)


その後、ナターシャとアントンのラブラブっぷりを見せつけられ、サプライズプロポーズは終了した。

シルフィはぞろぞろと帰っていく人達を眺めながら、あることに気がつく。


(あれ、ご主人様がいない?)


いつの間にかジークがいなくなっていた。


(帰ってしまったので────)

「よっ、シルフィ」

「わひゃあぁっ!?」


突然肩を叩かれ、シルフィはすごい悲鳴をあげた。そして振り返ると、そこにいたのは。


「ご、ご主人様!?」

「こそこそと何やってんだ?」


彼女がこっそりとあとを追っていたジークだ。


「なんかずーーっと後ろからついてきてたけど・・・」

「き、気づいていたのですか!?」

「おう、何やってんのかなと思ってた」


絶対にバレていないと思っていたシルフィはショックを受ける。


「その・・・ご主人様が、見たことのない女性と一緒にいたので、気になって・・・」

「なるほどなぁ、尾行しながら尾行されてたってわけね」

「も、申し訳ございませんっ!!」

「え、いや、怒ってないぞ?」


バッと頭を下げたシルフィを見てジークは焦る。


「もうこんな時間か。そろそろ帰ろう」

「は、はい・・・」

「っと、その前に・・・」


ジークはポケットから袋を取り出し、シルフィに渡す。それを受け取ったシルフィは困惑した。


「え、ええと・・・」

「まあ、開けてみてよ」

「分かりました」


そして、シルフィは袋の中に入っていたものを見て目を見開く。入っていたのは、三日月の形をした綺麗なネックレス。


「これは・・・」

「まあ、日頃のお礼だ。いつもありがとな」


そして、ジークに頭を撫でられ、シルフィの顔は真っ赤に染まる。こういうところがずるいのだ、彼は。


「い、一生大切にします!」

「お、おう」


大切そうにネックレスを手に持つシルフィにそう言われ、今度はジークが赤くなった。


「さ、帰ろ帰ろ」

「はい」


そして、二人は家に向かって夜の王都を歩き始めた。







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