渦中
暑い日が続きますね。色々な作業効率が下がっていますが、執筆はどうにか続けていますので応援よろしくお願いします。
肌寒い季節に変わっても、日差しに暖められた昼時の空気は温かさを感じさせてくれるので、風通しの良い平地に立っていても寒さは全く感じられなかった。シディアンの住む町の前で、彼女の背後を守るように町の住人達が作る人垣を眺めるダスク達は、この場で何が起きていたのかを把握出来ていないせいで訝しげな表情になっていた。もっとも、ダスクと黒炎はアル達とは違って他の事についても気を取られているらしく、別の方向にもチラチラと視線を向けていた。
「おい、あれ」
「ん、誰だ?」
ザワザワザワッ
ダスクと黒炎が気を取られていたのと同じ方向へ視線を向けていた住人達の中の数人がダスク達に気付いたらしく、一気に全員にも伝わって大きな喧騒へと変わっていった。
「みんなの視線がキビシイような気がしない?ダスク」
「そうだな、黒炎。僕達の後ろに敵が居る気配も無いし、多分僕達が原因なんだろうな」
自分達の何倍もの人数に非友好的な視線を向けられているにも関わらず、他人事のように普段通りの調子で会話をするダスクと黒炎にアル達は苦笑させられていたが、ダスク達が武装しているのに気付いた町の住人達の表情が敵意を含むものに変わっていく。
「お前らどこから来たんだ?それに、どうやってあそこを通り抜けた?」
「えっと」
どう答えようか顔を見合わせたダスク達の様子に、何を勘違いしたのか益々険悪な様子に変わってしまう。
「また俺達の角が目的なんだな。
どうせ答えられないような手段で、たまたま外に居た同胞から聞き出したに違いないっ!」
その言葉に視線を彼等の頭へと向けると、言われるまで意識していなかったが、確かに左右の耳の上の角を確認出来た。しかし、その視線に気付いた住人達には益々それが目的だと勘違いさせてしまったようである。
「くそっ、また仲間がやられたっていうのか。相手は少数だ、全員で囲んでやっちまえっ!」
ワッ
住人達の殺気が膨らんだのを感じたダスク達は気がすすまないながらも構えを取ろうとするが、その空気を切り裂くかのように、ここまでの旅路で聞き慣れた声が上がる。
「待ちなさいっ!!」
ザワッ
声の主を昔から知っている住人達には効果的だったらしく、すぐに動きを止めて声の主へと視線を向けると、次第に人垣が割れていく。
「その人達は私の客人です。手を出す事は許しませんよ」
人垣の間を抜けてきたシディアンがそう宣言すると、渋々ながら住人達が矛先を収めていくのがダスク達にも分かった。
「済みません、お嬢さん。貴女の客人だとは知らずに失礼しました」
「いいのですよ。突然現れれば驚くのも無理はありません。
叔父上の姿を見かけて思わず飛び出してしまった事は、争いを止められたので後悔していません。
しかし、その後、気を抜いて彼等の説明をするのを忘れていた私が悪いのです」
「いえ、助かりました。あと少しで血を流すような戦いになってしまっていたかもしれなかったので」
「それなら良かったです。
それにしても、今は同族同士で争っている場合ではないというのに……」
一瞬笑みを浮かべたシディアンであったが、すぐに表情を曇らせる。それを見ていた周囲の住人達も同様に表情を曇らせたり顔を俯かせたりしていた。
「ね~、ね~、そろそろ町に入ろうよ。お腹減ってるからなにか食べたいんだけどな~」
その言葉を聞いていたのはシディアンと近くの数人であったが、シディアンの顔には笑みが浮かび、近くの数人の顔にはギョッとした表情が浮かぶ。
「そうね。約束したから手料理をご馳走するわ。
みんな~、とりあえず、この場は解散してくださ~い」
黒炎に声を掛けた後、大きく息を吸ったシディアンは周囲の住人達全員に聞こえるように声を上げる。それを聞いていた住人達は一斉に頷くと、シディアンに帰還を喜ぶ言葉を掛けたりしながら町へと戻って行く。黒炎が話すところを聞いていた数人だけは、さっきのは自分の聞き間違いかと首を捻りながらであった。
「ごめんなさいね。見苦しいところを見せてしまって」
笑顔で住人達を見送っていたシディアンが振り返えり、申し訳無さそうな表情で頭を下げてくる。それに対してダスク達は首を横に振って否定していた。
「気にしないでいいよ。それより、そろそろ僕達も町に案内してもらってもいいかな?」
「ありがとうございます。それでは町に案内しますね。
ようこそ、我らが故郷へお越し頂きまして歓迎致します、皆さん」
皆を代表して言ったアルの言葉に頷いたシディアンは、感謝の言葉を返してから表情を悪戯っぽいものに変えると、芝居がかった風に一礼して歓迎の言葉を伝えてきた。
「あははっ、おおげさだな~。そんなコトより、ごっはんっ、ごっはん~」
歩き出したシディアンの後を嬉しそうに付いて行く黒炎の姿に、ダスクやアル達は苦笑しながらそれに続いて門をくぐっていた。
ガラガラガラ
車輪の回転する音に目をやれば、中央の大通りには農作物を満載にした台車を引く牛の姿もあり、やや狭い感のある道幅では周囲を眺めながら歩くのは多少コツが必要であった。通りの両側には食品や日用雑貨を販売している木造の店舗が軒を連ねているが、その背後に建物の姿が見えないので、この町では平屋建ての家が多いのだろう。料理屋の近くを通り抜けるたびに黒炎の歩みが遅くなり、その都度ダスクが先を促すのはお約束であった。目的の場所は大通りの突き当たり、そこだけ周囲を塀で囲まれた木造二階建ての頑丈そうな建物がそうらしい。シディアンの歩みは迷い無くその建物へと一直線に向かっていた。
「ここが私達魔族の長の館。そして、私の生家でもあるわ」
建物の正面に辿り着いてすぐに振り返ったシディアンの説明に、一同は館を見上げてフムフムと頷いていると、今は開かれている門前の両脇に立っている門衛の一人が歩み寄って来た。
「おかえりなさい、お嬢さん。そちらの方達は?」
「ただいま。彼等は私の旅の目的でもある人物なので、身元は私が保証します。
ところで、皆に変わりはありませんでしたか?」
「了解しました。
はい、住民は皆つつがなく。ですが、長は色々と悩まれている様子です……」
「そうですか……。
わかりました。後で私が話をしてみます。少しでも気分を軽く出来るとよいのですが」
「よろしくお願いします。お嬢さんの無事な姿を見るだけでも違うと思いますので」
その言葉に頷いたシディアンに連れられ、門衛に見送られてダスク達は建物へと入った。建物の入口すぐは土が固められているが全員が入ると一杯になってしまう広さしかなく、その周囲は一段高く造られており、そこから木の床が広がっている。見た事の無い造りにとまどっていると、シディアンが履物を脱いで入口脇の棚に置いているのを見て納得する。彼女に倣うように履物を脱いでいると、棚の横の籠に積んであった足先半分だけ覆う薄い履物を並べているのに気付いた。
「それは?」
「あ、みんなは内履きの習慣が無いのね。
これはこんな風に外履きの替わりに屋内で履く物なのよ」
ダスクの質問に言葉通りに足に実際に履いている様子を見せるシディアンに皆は頷くが、それに一つだけ不満の言葉が上がる。
「ボクはどうすればいいのさ?履けそうなの無いじゃんか~」
「あ、ごめんなさい、黒炎。えっと、どうしましょ……」
「足の裏を拭けばいいんじゃないか?寝る時はいつも僕がやってるし」
「お願いできる?お客様にやってもらうのも申し訳ないけれど」
「それじゃ、ダスクに任せた~」
頷いたダスクは荷物から手拭いを取り出すと、いったん外に出て水筒の水で濡らしてから戻ってきて四足全てを拭って綺麗にした。嬉しそうに廊下に足を下ろして床の感触を確かめている黒炎の姿を見て、そこでようやくダスクは自分が全身鎧を装備している事に気が付いて内心で困惑してしまう。
「ん?どうしたの?ダスク」
「えっと、僕も履き替えないと駄目だよね?」
その様子に気が付いたシディアンの質問に、困ったように自分の足元を示すダスクの答えを聞いた彼女は言いたい事が分からずに首を捻る。
「足のところだけ脱げばいいんじゃない?もしかして細かくは出来ないとか?」
「いや、出来るけど」
「んん?それなら……」
「足先だけ外すと格好悪いんだよね……」
「は?それだけ?いいから脱いで履き替えちゃって。
それと、靴くらい持ってるよね?次に外出する時に使えるようにそこの棚に置いておいていいから」
「むぅ、わかった」
「あははっ、怒られた~」
呆れたような表情のシディアンにバッサリと言い切られたダスクが肩を落として履き替えていると、傍らで見ていた黒炎はその様子が面白かったらしく尻尾を大きく振りながらからかいの言葉を飛ばしていた。履き替えて荷物から取り出した靴を棚に置いているダスクを見ていたシディアンは、グルリと皆の足元を見てから一つ頷く。
「……うん、全員準備出来たみたいね。
それじゃあまずは部屋に案内するわ。荷物を置きたいだろうし、着替えもしたいと思うから」
「それは助かる。部屋は二人部屋かな?」
話を聞いていたアルの質問に、シディアンはダスクに向けていた顔をアル達の方へと変え。
「はい。でも空いているのは二人部屋が二つだけなのですが……」
「そっか。それなら男性陣と女性陣で分ければいいだろう。
そっちはどうにかやりくりしてもらってもいいかい?ミリー」
「ええ、大丈夫よ。一つのベッドを二人で使っても良いし。
それが無理でも、旅が多くて野宿にも慣れてるからね。普通のソファとかでも充分休めるわ」
「すみません、そうしてもらえると助かります。それでは付いて来て下さい」
アルとミリーの会話を聞いていて少し申し訳無さそうな表情になったシディアンだが、ミリーの優しい微笑みに表情を和らげると、皆を先導して歩き出す。ちなみに、不満そうな顔を隠そうとしないエリスについては、バーナが杖でつつく事で巧みに向きを誘導されており、彼女の視界には入ってなかった。案内に従い目の前の階段を上って行くと、直線の廊下の脇に部屋の扉がいくつか並んでいるのが見えてくる。廊下は壁に沿っているので窓からの陽光で明るいが、その窓も見慣れぬ造りで外側のガラス窓は同じだが、その内側にカーテンの代わりに木枠に薄い紙の張られたもの二枚で覆われていた。それぞれが前後にずらされ上下に彫られた溝にはめられており、カーテンと同じように左右にずらす事で外の光を直接取り入れる事も出来る便利な構造になっている。ダスク達を二つの部屋に案内したシディアンの自室は一階に有るらしく、少ししたら迎えに来ると言い残すと階段の先へと戻って行った。
「さて、僕達も部屋に入って着替えるか」
「そうね。それじゃあまた後で」
アルの言葉に答えたミリーが片手を振るのに頷いた一同は、男女それぞれの部屋へと入る。
ギシリッ
床を鳴らしながら扉を抜けたダスクの目に映る部屋は意外と広く、窓の両脇に木製のベッドが二つ備えられ、中央にテーブルとソファが配置されていた。
「心配していたけど頑丈な造りで良かった」
「あははっ、今も床が鳴ってたもんね」
「そうか、君の装備の重さは尋常じゃなかったからな」
何故か嬉しそうに尻尾を大きく振っている黒炎と苦笑するアルに頷いたダスクは、荷物を下ろして装備を壁際に少しバラけさせて置く。重さが分散するようにと工夫してみたが、床はほとんど鳴らなかったので意図した通りになってくれたようであった。ダスクとアルは身軽な服装に着替え、黒炎については毛皮を手拭いで軽く拭くだけで艶を取り戻していた。
コンコン
雑談をしながらソファに座ってくつろいでいるところに扉をノックする音が聞こえて来る。
「そろそろいいかしら?」
「は~い。準備おっけ~だよっ」
そう答えた黒炎と一緒に扉から出ると、そこには既に着替えを済ませたミリーとバーナとエリス、そしてシディアンの姿があった。ミリーとエリスは身軽な服装だけだが、バーナはいつも通りに外套を上に羽織っていた。シディアンは薄紫色の足元までの長さの上着を前で合わせて幅の広い桃色の帯で締めており、一緒に旅をしていた時のものよりも異国情緒を感じさせる服装であった。
「うわ~、綺麗だねその服」
「ふふっ、ありがとう、黒炎。家に居る時はこっちのが楽なのよ。
こういうのはどうかしら?ダスク」
一番に褒めてくれた黒炎に微笑みかけたシディアンは、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべると、広がった袖を広げるように両手を横に上げながらダスクへと問い掛ける。
「えっ、うん、良く似合ってるよ。なんだか別の人みたいだ」
「あら、別の人みたいって、私には落ち着いた服装は似合わないって言いたいのかしら」
「ええっ!?そんな事言ってないって。なんだよ、素直に褒めたらそういう事言うんだな」
「ウソウソ、からかってごめんなさい。ありがとう、褒めてくれて嬉しいわ」
口を尖らせるダスクの様子に、シディアンは手を合わせて謝罪すると、嬉しいという言葉が嘘では無いというのが分かる笑顔になっていた。誰かと親しくなった時、本人の思惑がどうであれ、からかわれるのはダスクの役目になってしまうのかもしれなかった。
「はぁ、もういいよ。それより、こんな事していていいのか?長が僕達を待っているんじゃなかっけ」
「あ、そうね。それじゃあ、案内するから付いて来て下さい」
その言葉に頷いたダスク達は、シディアンの案内で階段から一階へと下りると、そこから陽光に照らされた直線の廊下を進みながら建物の簡単な説明を受けていく。まずは食堂と厨房の扉を過ぎ、角を直角に右、少し進んで角を直角に左に曲がって更に直線の廊下を進むと途中に右に入る脇道が見えてくる。その廊下を覗き込むと左右にシディアンの部屋と長夫婦、つまりシディアンの両親の部屋が見えた。その脇道を通り過ぎ、そして更に進んだ正面に両開きの扉が見えてくる。
「あそこが会議とかをする部屋で、今は父上と母上が皆を待ってます」
「へ~、どんな顔してるんだろ。ディアに似てるのかな~」
「自分ではわからないけど、似てるって良く言われるわね」
「そっか、楽しみだな~」
その言葉通りに尻尾を踊らせながら歩く黒炎に笑みを向けていたシディアンは、扉の前で立ち止まり振り返ってダスク達に頷くと、来訪を伝える為に片手を持ち上げる。
コンコン
「皆さんをお連れしました」
「うむ、入ってもらいなさい」
扉をノックして声を掛けると、室内から間髪入れずに入室の許可が返ってくる。扉を開くシディアンに続いて室内に入ると、部屋中央の円卓の傍らに並んで立ちながらこちらを見る二人の人物の姿があった。二人共シディアンと同じ黒髪紫瞳で彼女と同じ作りの服装をしており、一方は男性で細身だが引き締まった身体に黒の上着と深い緑の帯を、もう一方はシディアンに似た面差しの女性で女性的な体型の身体に紫の上着と赤紫の帯を締めていた。もちろん二人共にシディアンとは色合いは異なるが魔族である事を表す角を耳の上、左右の側頭部にそなえている。
「ようこそ我らの町へ。娘の招きに応じてくれて感謝する。
話したい事もあるので、どこでも良いから好きな席に座ってもらってもよいかな?
お前は皆にお茶を淹れてさしあげろ、ディア」
「はい、父上」
扉を抜けた所で立ち止まったダスク達へと笑みを向けながらそう伝えてくる長に、円卓に近付きつつも顔を見合わせていると、遠慮しているのを気付かれたらしく苦笑しながら先に着席してくれる。それにつられて長の正面に位置する席にダスク達は座り、黒炎は発言するのは任せるという風にダスクの座った椅子の側に伏せていた。
カチャリ
シディアンとそれを手伝う夫人がお茶の満たされた茶器を皆の前へと配り終え、黒炎の前にもシディアンが忘れずに配り、彼女達が席に着いたところで一つ頷いた長が口を開く。
「まずは自己紹介をした方がいいな。私がこの町をまとめている者で、ディアの父親だ。
彼女は私の妻で……ああ、娘の事は紹介の必要は無いな」
左右の席に座る夫人とシディアンを示しながらの言葉にダスク達は頷く。黒炎もダスクの太ももに身を乗り出して確認していた。
「僕はアルといいます。それと仲間のミリー、バーナ、エリスです」
こちらを見る長の視線に年長者であるアルが自己紹介を返して仲間達を順に指し示していく。それに従って軽く一礼するミリー達の顔を確認していく長だったが、バーナが外套のフードを被ったままだったので訝しげな表情になる。それに気付いたバーナがフードから頭を出してニヤリと口元に笑みを浮かべると、一瞬驚いた表情になった長は神妙な顔になり黙って一礼を返していた。それに満足したらしいバーナは再びフードを被り直すが、誰も注意をするような者は居なかった。
「僕はダスク・ウォールです。そして……おいっ、お前も自己紹介だよ」
「二人がディアの父ちゃんと母ちゃんなんだね。ボクが黒炎だよ。これからよろしく~」
視線で促すアルに頷いたダスクは自分の名前を名乗ると、身を乗り出している黒炎の頭を撫でながら催促をする。それに頷いた黒炎はいつも通りに気軽な調子で名前を名乗り、片方の前足を長夫婦へと振っていた。それを見たシディアンは面白そうに微笑んでいたが、長と夫人は感心した風な表情で黒炎とダスクの顔を眺めていた。
「なるほど。
会話の出来る黒き獣、黒炎という名前も容姿にしっくりとくる。
話には聞いていたが実際に見ると驚きはしても、意外とすんなり受け入れられるものだな。
そしてダスク、おぬしが対となる鍛冶師であるのだな」
「はい、そうです」
ここに来るまでの間、シディアンの反応で大丈夫だと感じていたダスクであったが、自分の家族である黒炎に対して良くない反応をされるのを危惧していた事は杞憂に終わって安堵しながら長へと頷いていた。
「色々と話を聞いてみたいところではあるが、我らにも余裕が有るわけでは無いのでな。
さっそく本題に入りたいと思う」
そう言いながら厳しい表情になった長は、その場に居る者をグルリと眺めてから話し始める。
その話を要約すると、魔族の先祖達がこの場所に町を構えたのは悪魔族の主要な通り道の一つを封じ込める為であったらしい。町の中心部、この後案内してもらう場所には封印を強化する為の黒炎鉱のプレートが設置されており、それを守護するのが魔族達の使命であり、この町の存在理由であった。
「そのプレートに少し前に亀裂が入ってから次第にその範囲が広がっている。
もしこれが破壊されれば大変な事になる。同じ物を造れる者は既に居ないのだ。
そこでダスク、おぬしにはプレートの修復を頼みたい」
ジッと長の話を聞いていたダスクは難しい顔になっており、それを見上げる黒炎の表情も普段とは違って沈んでおり、見通しの悪さを感じさせた。
「そのプレートを修復する時にはそれを動かさなければならないですが、それは可能なのですか?」
「やむをえないだろう。
その間に何が起きるか予想はしているが、そうしなければ修復出来ないのならばやるしかないのだ」
「そうですか、わかりました。
それはその時考えるとして、そのプレートを造った時の鍛冶場は残っていますか?」
「む、それはすぐに調べさせる。修復に必要な事なのか?」
「はい。鍛冶場自体はどこでも良いのですが、問題は道具ですね。
炎は用意出来ますが、そのプレートを造るのに用いた道具が無いと修復出来ない可能性もあります」
「むぅ、それは問題だな。とにかく調査は急がせる。
それでは直接実物を見てもらおう。そうすれば他にもわかる事が有るだろうからな」
「はい、お願いします」
ギィ
椅子の軋む音を立てながら、さっそくという風に立ち上がる長に続くようにダスク達も立ち上がると、部屋の出入り口に向かうその背に続く。夫人はこの場に残るようで、茶器を片付けるのを手伝おうとするシディアンの手を断って一人で円卓上の茶器を集めながらトレイに載せ始めていた。トレイ上の手拭いは卓上を拭き清める為のものだろう。
「私も貴方達と一緒に行くようにって」
「そっか。君のお父さんとは初見だから居てくれると助かるよ」
「確かにそうね。
後は任せた、っていうのも無責任な感じがするし、全部終わるまでは私も関わらせてもらうわ」
そんな風に会話をしながら歩いているうちに玄関まで戻って来ており、前を行く長はそのまま外に向かうようで、内履きを外履きに替えようと玄関脇の棚へと歩み寄っていた。
「あっ、すみません、少し待っていてもらっても良いですか?」
長に続いて履き替える皆の姿に慌てて声を掛けたダスクの言葉に、皆はその理由を問う視線を向けてくる。
「比較しやすいように黒炎鉱で出来た物を持って行きたいので、すぐ戻ります」
そう答えたダスクは返事を待たずに自分達にあてがわれた部屋へ向かい、すぐ近くの階段を上って行く。慌てたようなそぶりであったが、うるさく足音を立てる事も無く皆の視界から見えなくなったのはさすがと言うべきか。
タタッ
「お待たせしましたっ」
微かに重さを増したかのような足音と共に、宣言通りに少しだけ待っていただけで戻って来たダスクの背には、くすんだ黒色の大剣が革紐でタスキ掛けに背負われていた。
「では改めて行こうか」
その言葉と共に既に履き替えていた長に続いて、その場で待っていた者達も玄関から外へと出て行く。それを目にしたダスクも、ここへ来た時に出しておいた自分の靴に慌てて履き替えて皆の背を追い掛けていた。
「……」
「どうしたの?黒炎」
会議室から出たあたりから静かになっていた黒炎の様子を気にしてシディアンが声を掛けると、元気の無さが表れている伏せられた耳と振られていない大きな尻尾もそのままに黒炎は彼女の顔を見上げる。
「ごはんが食べられると思ったんだけど、まだみたいだね……」
「ぷっ、あ、ごめんなさい。もう少しだけ待っててね。これが終わったらすぐに用意するから」
「笑うなんてひどいな~。はぁ、しょうがないからガマンするよ~」
深刻そうな口調とは逆の内容だったので思わず噴出してしまったシディアンだったが、口を尖らせる黒炎の様子に慌てて謝罪して改めて約束をする。それを聞いた黒炎は、しょうがない事だと理解してもいたので、溜め息を一つしてからすぐに承諾していた。これ以上不満を続ける元気も無かったという事も理由だったかもしれなかった。
一行は館の門からは出ずに敷地をグルリと回って進み、敷地の北東、建物とは少し離れた場所に建てられた石造りの建造物へと長は近付いて行く。その建造物は一階建ての小さな小屋だが、隙間無く積まれた石で頑丈に造られたさまは、その建物を実際の大きさよりも大きく見せていた。
「ここですか?ずいぶん小さいものなんですね」
「ん?いや、これは……」
ガチャリッ
鉄製の扉を封じていた大きな鍵を開錠した長は、ダスクの質問に苦笑しつつ重そうな扉を開こうと手を掛ける。
ギギィィィッ
それを手伝おうと近寄ったアルに感謝の会釈を送りながら協力して扉を開くと、建物の内部が見える位置に身体をずらしながらダスクの質問へと答えを返してくる。
「ここはまだ入口なのだ。封印の有る場所へはここから下りる」
その言葉通り、建物の内部中央、視線の先には地面にポッカリと口を開ける洞窟らしきものの入口が黒々と一行を出迎えていた。
ヒュゥゥゥッ
「風が……この洞窟はどこか別の場所にも繋がっているんですか?」
「おそらくはそうだと思うのだが、広大で枝分かれした洞窟なのでどこに繋がっているか判明していない。
問題の封印の場所はそこまで奥には行かない。だから洞窟を隅々まで精査してはいないのだ」
「なるほど。でもこれなら呼吸が出来なくなる心配は無いから良いですね。
鉱石を掘りに行くと、そういう事が大切になってきますから」
「ふむ、そういうことか。呼吸の事は気にしていなかったが、経験からの言葉は貴重だな」
感心した風に頷く長は建物の隅に置いてあったランプへと火を灯していく。それを数人で持つと、洞窟の入口へと歩み寄っていた。
「足場となる場所は刻んであるが、足元には気を付けるのだ。
滑りやすい場所も有るし、尖っている岩も有る。転べば大怪我では済まないかもしれない」
「「わかりました」」
全員が頷くのを見て満足したらしい長は皆を先導するように洞窟へと足を踏み入れ、ダスク達は遅れないようにその背に続く。急角度の入口近辺はさすがに丁寧に階段状に加工されており、その階段を下っていくと次第に光が入ってこずに暗闇に包まれていった。ランプの灯りで足元を照らされながらしばらく進むと、階段の終わりには上下から鍾乳石の林立する大きな洞窟へと辿り着く。来た道を振り返れば、視線の先には小さな光の点だけが確認出来、思ったよりも下っていた事に気が付いて、初めてここに来る者は皆一様に驚いていた。
「町の地下にこんな広い空洞があるなんて、地震の時に崩れたりはしないんですか?」
「その心配は無用だ。この地域一帯は地盤がしっかりしているし、地上から空洞までは距離が有る。
過去の記録にも大きな亀裂や崩落が起きたという記述は無いのだからな」
洞窟の天井を見上げていたアルからの質問に、一行を安心させるように笑みを浮かべながら答えた長は、再び洞窟の奥を向いて歩き始める。
「さあ、急ごう。長居すればするほど確実に体温を奪われてしまう。
それに、何故かはわからないが、ここは以前と比べると居るだけで不安感が増してくるようになった」
言葉通りにその表情は不安を振り払うような厳しいものに変わっており、それにつられるようにダスク達も表情を引き締めて長の少し早めの歩きに合わせて足を動かし始めた。
足音は反響して消えたり返ってきたりと洞窟内の構造が複雑な事を示しており、地面も硬くゴツゴツした岩なので足跡も出来ず、灯りと案内が無ければ自分の位置をすぐに見失ってしまいそうであった。入る前に長はそれほど奥に行かないと言っていたが、思っていたよりも洞窟が広大だったらしく、それと比較すれば距離が長くなるのは仕方が無い事なのかもしれなかった。最初の頃は会話をしながら歩いていた一行も、次第に口数も減って黙々と歩くだけになっていた。
「みんな寒そうだね~」
「外套を持ってくれば良かったんだろうけど、ここまで気温が低いとは予想してなかったからな。
まあ僕達は寒さに慣れてるからまだまだ大丈夫だし、加えてお前は暖かそうだもんな」
最後尾を歩いていたダスクは横に並んだ黒炎のからかうような言葉に一瞬非難めいた表情を浮かべるが、今となってはどうしようもないので苦笑いに変わる。そんなダスクの視界の先を上から下へ落ちる大きめの雫が映っていたが、直撃しても問題無さそうなものは気にも留めていなかった。
ピチャンッ
「ひゃんっ!?」
その瞬間、可愛らしい声を上げたのは運悪く尖った耳に直撃してしまったエリスで、よほど冷たかったらしく涙目で恨めしそうな表情になっており、ダスクの位置からでも天井を見上げてブツブツと文句を呟いているらしき姿が見えた。
「さっさと進まぬかっ」
ダスク達が近付いていくと、エリスの次を歩いていたバーナのイライラした声が出迎える。
「なになにどうしたの?」
変化の乏しい道行きに飽きていたらしい黒炎は、何か面白いものが見れそうだと声の発信地へと駆けて行く。その姿を苦笑しながらダスクが追い掛けて行くと、案の定、エリスとバーナが言い争いをしていた。もっとも、エリスが不満をぶつけるのをバーナが聞き流しているという感じではあったが。
「寒いし冷たいし、もう帰りたいっ」
「ここまで来たからには最後まで行くしかあるまい。
そんな駄々をこねるくらいなら、さっさと進んで目的を果たした方がよっぽど建設的じゃ」
そんな二人から少し進んだ場所では、アルとミリーが長に申し訳無さそうな顔を向けており、いつもの事だから気にしないで下さい、とでも言っているのではないかとダスクは想像していた。
「バーナは外套着てるからいいけど、繊細なエリスにはキビシーのっ」
「子供ではないんじゃから、これくらい我慢せんか」
「い~もん、子供だって言われたって。そーだっ、エリスにそれ貸してよ。
大人なバーナなら貸してくれるでしょ~。それとも、もう若くないから無理なのかな?」
「……なんじゃと?」
ゾクリッ
「「っ!?」」
その瞬間、嫌な気配とは全く別物だが、バーナから物凄い圧力を感じた一行は背筋に冷たいものを感じて動けなくなる。至近距離で受けたエリスがガチガチに硬直しているのが誰の目にも明らかだった。
「妾が若くない、年寄りだと言いいたいのじゃな?」
「え、え~と、そっ、そんな事言ってないデス、ハイ。
あっ、ほらっ、アル達も待ってるし、早く行かなきゃ。エリスったら駄目だな~」
ダッ
笑顔だが頬を一筋流れる冷や汗が内心を隠せておらず、何かを言われる前にエリスは駆け足でアル達の所へと行ってしまった。
「(大人の女の人に年齢のコトを言うのは、どこでもダメなんだね~)」
「(そのようだ。僕達もこれから気を付けよう)」
「何じゃ?」
「なんでもないよ、バーナ。
そうだ、待ってよ、エリス。ボクがくっついてれば少しは違うんじゃないかな~」
コソコソと小さな声で話していたダスクと黒炎だったが、それに気が付かないバーナではなく、エリスに向けていた表情そのままに声を掛けてきたので、とばっちりを予感した黒炎はあっさりとダスクを置いてその場を離脱してしまう。裏切り者~、そんな風に考えながら見送っていたダスクは、残っているのは自分だけなので内心の焦りを表に出さないようにしていたが、元々性格的に表情に出やすいのでバーナには見抜かれていたようであった。
ジロリ
「何かあれば遠慮無く言って良いのじゃぞ?大人な妾が話を聞いてやろう」
ブンブンッ
慌てて首を横に振るダスクの様子に少しつまらなそうな顔になったバーナだったが、すぐに普段通りの表情に戻して歩き始める。少し進んで再び立ち止まったバーナは、振り返ってダスクへ向けた顔には呆れたような表情を浮かべていた。
「いつまでそこで突っ立っておるつもりじゃ?」
「あっ、はい、今行きますっ」
そう答えたダスクは慌ててバーナの後に続き、一行は再び洞窟の奥へと歩き始める。目の合った黒炎に置いていかれた事を責める視線を向けるが、もう忘れたかのように首を傾げられただけで終わり、その黒炎は宣言通りにエリスに寄り添って歩いていた。しばらく居心地の悪い空気が続くと思われたが、それは目的地に到着する事で霧散する事になった。
「ここが……」
そう呟く誰かの声につられるように見上げる視線の先には、大人三人分の背丈を足したくらいの大きな金属製の扉が鎮座していた。両開きの扉はピタリと隙間無く閉じられており、その色は黒炎鉱のダスクの装備と同じ、くすんだ黒色のように見えたが、ランプの灯りに照らされたそれはわずかに青みがかっているように感じられた。
「……黒炎、これって」
「うん、そうだね、ダスク」
「どうかしたのかい?」
顔を見合わせて言葉を交わしていたダスクと黒炎の姿に注意を引かれたアルの質問に、ダスク達はもう一度顔を見合わせる。
「え~っと、その、ここではあれなので地上に戻ってからお話しします」
「そっか、それもそうだ。ここよりは上に戻って落ち着いて話をした方が良い」
「そうだよ。早く用事を済ませて戻らないと、ご飯がいつまで経っても食べれないじゃんか~」
少し考えてから答えたダスクの言葉にアルが頷くと、黒炎も同意するように頷きながらも自分の目的が食事に有る事を隠そうともしていなかった。それを近くで聞いていた者達は一様に苦笑していたが、そんな光景を余所に、扉の前に居た長は懐から扉と同じ材質の鍵を取り出して開錠を済ませていた。
ガゴッ、ギギギギッ
何かが外れた音の後に、どこからか複数の重い何かが動くような音が響き始める。それと同時に目前の扉がひとりでに開き始めていた。
「っ!?ダスクっ、嫌な気配を感じるよ」
「なっ」
そう注意を促した黒炎は全身の毛を軽く逆立てて見た目がふっくらとしており、それを確認したダスクは厳しい目を扉の奥の暗闇へと向ける。
ザワリッ
前触れも無く闇が膨れ上がると、腕というよりも触手といえる細長いものが生えたと思った直後、まるで物語の死神が使うような大きな鎌状で固定する。
「なんだこれはっ!?」
鎌状の闇はそう叫んだ長の頭上に振り上げられており、それが振り下ろされれば最悪の結果になる事がその場の誰にでも予想できた。
「父上っ!!」
そう口に出すだけで動けなくなっているシディアンの目の前で、事実は違うがまるでそれを合図にしたかのようなタイミングで鎌状の闇が振り下ろされる。
ズバァァァッ
「嫌ぁぁぁっ!!」
思わず目を閉じてしまったシディアンは、何かを切り裂くような音を聞いて悪い想像が現実のものとなったと思って悲しみの声を上げると、足から力が抜けてしまったようで地面にしゃがみ込んでしまった。彼女の感覚では長い時間が経過したかのように感じていたが、実際は短時間経ったところで身体の側面にホッとするような温もりが寄り添う。
「ダイジョブだよ、ディア」
安心させてくれる黒炎の明るい声に目蓋を開いたシディアンの視線の先には、長と身体を入れ替えるように前に出たダスクの背中が映っていた。
「ダスクっ」
何かを切り裂く音はダスクが大剣で動く闇をその武器ごと叩き切ったものだったらしく、わずかに残っていた闇の塊が消えていくのがシディアンにも見えた。そのまま右手に大剣を構え、左手にランプを持ったダスクは足を踏み出すと、扉の内側へと進んで行く。それに遅れないように、黒炎もシディアンの傍らから離れてダスクの隣に並んでいた。
「どうするつもり?」
「僕が、僕達が中に入ったら扉を閉めて下さい」
足を止めたダスクはシディアンの質問には答えずにそう言うと、再び歩き出そうとする。
「すまない、ダスク。武器を携帯して来なかったのは僕の油断だな」
「いえ、気にするほどのものでも無いですよ。なあ?黒炎」
「うん。この感じじゃすぐに終わると思うよ」
すまなそうな顔で声を掛けてくるアルに、ダスクと黒炎はなんでもない事だという風に答えると、今度こそ足を止めずに扉の中へと入って行った。
「気を付けてねっ。
もうっ、男ってどうしてすぐに危ない事をしようとするのかしらね。
待っている人間もつらいっていうのに」
「あはは……彼等の言葉に嘘は無いと思うよ、ミリー。だから、待ってれば無事に戻ってくるさ。
長さん、早く扉を閉めて下さい。僕達にはやり方がわかりませんから」
見送っていたミリーは心配そうな表情のままアルへと不満をぶつけるが、それを聞いて困ったような顔になっていたアルは一転して笑みを浮かべて安心させるような言葉を掛けると、扉の前で呆然と立っていた長へとダスクの要求をかなえるように要請していた。
「……わかった」
少し躊躇していた長であったが、アルの真剣な目を見て決心したらしく、一つ頷いてから鍵穴に刺したままの鍵へと手を伸ばす。
「父上っ!」
まだまだ付き合いの短い、というよりも直接戦っているところを見ていないシディアンはダスクの力量を知らないので、反射的に長の行動を止めようと声を上げていた。
「大丈夫じゃ。あやつに任せておけば間違い無い」
「でもっ」
「バーナの言葉通りだよ。彼は僕と同じか、それ以上の強さなのだから」
落ち着いた様子のバーナに加え、真面目な顔のアルの言葉に、シディアンの表情は葛藤で揺れているように見えた。
「……そこまで言うのなら、もう何も言いません」
不承不承といった表情でそれだけ言った娘の姿に頷いた長は、鍵を数回まわして引き抜く。
ギギギギッ、ガゴッ
開いた時の光景を逆回しするように動いた扉は完全に閉じ、その場に残った者達は胸中でダスク達の無事を祈りつつ、無言のまま心配そうな顔を扉に向けていた。
ズバァァァッ
「これで最後かな……まだ嫌な気配は残ってるか?黒炎」
「とりあえずダイジョブみたいだよ。
すっごい薄いのは感じるけど、これはこの場所全体からみたいだし」
「そっか、それならいいや。それより……ふむ、これが僕が修復しなきゃいけないプレートか」
扉の外に残った者達の心配を余所に、ダスクは次々襲ってくる闇の塊をあっさりと殲滅していた。扉のこちら側が思ったよりも広くなかったのでランプの灯りがかろうじて隅まで届き、闇の塊の姿が暗闇に完全に隠されておらず、黒炎の指示もあって不意を打たれる事も無かったのである。外に終わった事を伝えようと扉に向かいかけたダスクであったが、ランプの灯りに照らされた封印のプレートに目を惹かれて地面にはめられたそれに近寄っていた。
「なるほど。こっちに大きな亀裂が入ってるな。……ん?この中央の窪みはなんだろう。
ここに何かがはまっていたのか?粉々になったこれがそれっぽいけど……」
「なにやってるんだよ、ダスク。早くみんなに知らせようよ」
早く戻りたそうにしている黒炎の言葉を聞いたダスクであったが、調べる為にしゃがみ込んだまま黒炎を手招きする。
「ちょっと見てくれ。扉よりも色味が濃いよな?」
「ん?そうだね。これだとキミの道具じゃ無理っぽいな~」
「やっぱりそうか。はぁ、これは面倒な事になりそうだなぁ」
「あははっ、苦労するのはいつものコトっぽいけどね~」
人事のようにあっけらかんと言う黒炎の様子に苦笑するダスクは、内心で同意しつつ、学院に戻れるのはいつになることやら、そんな事を考えながら立ち上がると、今度こそ皆と合流する為に扉へと歩み寄って行くのだった。
シディアンの住む町へと到着したダスク達であったが、彼女が叔父上と呼ぶ人物に指揮された者達と町の住人の争いのとばっちりを受けそうになる。そこはシディアンのおかげで切り抜けられたが、町の指導者である彼女の父親と母親との面会後、ダスクに修復の依頼をした問題の封印のプレートの設置された場所で謎の闇の塊に襲われてしまう。その場はダスクの活躍で事なきを得たが、これではわざわざ渦中に飛び込んできたようなものであった。果たして、ダスク達が問題を解決して王都に戻れるのはいつになるのだろうか。
楽しんで頂けたでしょうか。続きも早く読んで貰えるように頑張ります。




