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第22話 男同士の話

 莉緒が乃愛ちゃんの瞳を見るアクシデントこそあったものの、その後は問題が発生する事なく晩飯が完成した。


「おぉー! こんなに唐揚げがー! 写真撮ろー!」

「いやぁ、壮観だな。俺達がリクエストしたんだけどよ」

「ホント、よくこんなに作ったよな。ありがとう乃愛ちゃん。お疲れ様」


 下準備の手伝いこそしたものの、山盛りの唐揚げを揚げるのは乃愛ちゃんに任せていた。

 材料を買い込んだ段階で大変になると思ってはいたが、相当疲れただろう。

 やはり最後まで手伝うべきだったと反省しながらも労うと、乃愛ちゃんが達成感のある笑みを浮かべた。


「疲れはしましたけど、こんなに作るのは初めてで結構楽しかったですよ」

「無理してない?」

「ふふ、瀬凪さんはいつも通り心配症ですね。大丈夫ですって。ほら、食べましょう?」


 くすくすと軽やかに笑っているので、本当に無理はしていないのだろう。

 安堵に胸を撫で下ろし、乃愛ちゃんの言う通り食べ始める。


「滅茶苦茶美味いな! 俺の親が作る唐揚げより上手いぞこれ」

「外はサクサク! でも中は肉汁たっぷり! 最高ー!」


 乃愛ちゃんの料理は翼と莉緒のお気に召したらしい。

 大絶賛しながら物凄い勢いで食べている。


「うん、いつも通り美味しいね」

「ありがとうございます。味変出来るように色々準備したので、遠慮なく使ってくださいね」


 テーブルの小皿には、レモン汁に塩胡椒、七味唐辛子入りマヨネーズ、そして柚子胡椒が置いてある。

 柚子胡椒が置いてあるのは、彩乃さんが酒のつまみに使っているからだろう。


「これぞ至れり尽くせり……!」

「こんなに美味しいご飯を食べさせてくれてありがとう、杠さん!」

「……喜んでいただけて良かったです。作ったかいがありました」


 全力で褒めちぎられ、流石に照れが出てきたのだろう。

 乃愛ちゃんの頬が赤く染まっていた。


「瀬凪はいつもこんなに美味い飯を食えてるのか。羨まし過ぎるな」

「いいなぁ、水樹さん。私も毎日食べたいなー」


 余程気に入ったのか、莉緒がちらりと乃愛ちゃんへ視線を向けた。

 表情は笑っているものの、瞳の奥が笑っていないので半分以上本気だ。

 しかし毎日ここに来る訳にもいかないし、乃愛ちゃんも困るだろう。

 その証拠に、彼女は曖昧な笑みを浮かべている。


「えっと、その」

「このペースで毎日食べると太るぞ」

「ふんぬ!」

「い゛っだぁ!?」


 乃愛ちゃんの助けになればと思ったのか、フォローを入れるのは良かった。

 しかし、デリカシーが無さ過ぎて机の下で足を蹴られたらしい。

 変な声を上げて、翼が顔をしかめている。


「乙女に体重の話は禁句だよ。……まあ、流石に毎日は無理だけど、偶には食べに来て良い?」

「そ、それくらいなら、いいですよ」


 じろりと翼に凄んだと思えば、可愛らしい笑顔で乃愛ちゃんに懇願する。

 ころころと変わる莉緒の表情に戸惑いつつも、乃愛ちゃんは自分の意思で許可を出した。


「やったー! ありがとー! さーて、改めて食べまくるぞー!」


 莉緒が止まっていた箸を再び動かし始めたので、俺達も食事に戻るのだった。





「いやー、食った食った。腹いっぱいだ」

「しあわせぇ……」


 唐揚げを綺麗に平らげた後、片付けを終えて四人で寛いでいる。

 俺と乃愛ちゃんはソファに座っているが、莉緒は翼の胡坐にすっぽりと収まっていた。

 もう慣れているので何も言わない。

 乃愛ちゃんはというと突っ込むのは野暮だと思ったのか、見て見ぬフリをしている。


「もうちょっとしたら帰るかー?」

「この良い気分のままジッとしてたいなぁ」

「流石に帰れ。何時間も居続けるなら叩き出すぞ」


 二人のいちゃつきを見るのは慣れているが、何も思わない訳じゃない。

 遠慮のない言葉を叩きつけると、二人が仕方ないなという風に頷いた。


「叩き出されちゃ堪らないな」

「冗談ですよ、冗談」

「全く……」


 本気で怒ってはいない。けれどここで甘い態度を取ると、ずるずると居座られる。

 毅然きぜんとした態度を取ると、乃愛ちゃんがそんな俺をジッと見つめていた。


「……」

「うん? どうしたの、乃愛ちゃん?」

「いえ、何でもないです」


 今日は時折乃愛ちゃんが何かを言いたそうにしていた。

 けれど、今の今まで心の内を吐き出していない。

 どうしたものかと首を捻っていると、莉緒がパンと手を叩いた。


「ね、杠ちゃん。食後の運動がてら杠ちゃんの家に行ってみたいんだけど、駄目かな?」

「家、ですか? それは……」


 今日初めて会った人を家に案内するのは気が引けるのだろう。乃愛ちゃんが顔を僅かに俯けた。

 何だかんだで人に気を遣える莉緒にしては、かなり無茶な提案だ。

 というよりも、彼女は基本的にこんな無茶なお願いを口にしない。勉強会を除いてだが。

 不思議に思って取り敢えず辞めさせようと口を開くが、言葉が出る前に翼に目で制された。


(黙って見てろって事か? ……何で?)


 さっぱり状況が読めない。けれど翼の顔が真剣そのものなので、遊び半分の提案ではないようだ。

 取り敢えず状況を静観していると、莉緒が乃愛ちゃんに必死に頼み込む。


「変な事も杠さんが嫌がる事も絶対にしないから! お願い!」

「……ちょっとだけなら、いいですよ」

「ありがとう! それじゃあ早速行っていい?」

「は、はい」


 莉緒が翼の胡坐の中から立ち上がり、乃愛ちゃんと一緒に玄関に向かう。

 その際に乃愛ちゃんが不安そうな目で俺を見たので、もしもの時は助けに入るという意思を込めた笑顔を返した。

 どうやら伝わったらしく、安堵に満ちた笑顔を浮かべて去っていく。

 翼と二人きりになったので、ネタばらしはしてくれるはずだ。


「どういうつもりだよ」

「家に行くってのは建前だよ。瀬凪が警戒してるような事はしないって」

「建前? じゃあホントは何をするつもりなんだ?」

「お話だよお話。女子同士の、遠慮のないお話ってやつだ」

「……成程な」


 元恋人も莉緒と仲が良い時は内緒話をしていた。

 今回も内緒話をしたかったらしいが、乃愛ちゃんは二人と仲良くなっても俺の傍から離れようとしない。

 となると、多少強引にでも引き剥がすしかなかったのだろう。


「で、俺達は男同士の話だ。腹割って話そうぜ」

「腹割って話す程、隠してる事なんて無いぞ」

「分かってるさ。だから、話っていうよりこれからのアドバイスだな」

「アドバイス?」


 今の生活で困っている事などない。乃愛ちゃんとの関係も良好だ。

 今日はどうも話したくても話せない事があったようだが、二人になれば余程の内容でない限り話してくれるだろう。

 それくらいの信頼関係を築けているとは思っている。


「そ、アドバイス。今の瀬凪にはさっぱりだろうが、頭の片隅に入れておいて欲しい」


 恐ろしい程に真剣な瞳で見つめられた。

 今の翼には、普段の軽薄さなど微塵もない。

 聞き流す訳にはいかないと、背筋を正す。


「分かったよ」

「まず、女の成長は早いって事だ。特に精神面はな」

「乃愛ちゃんの事か? まあ、確かに乃愛ちゃんは中学生にしては落ち着いてるけど」


 俺の言葉に、翼が曖昧な笑みを浮かべる。

 この様子からすると、間違いではないが正解でもないようだ。


「そして次だ。しっかりと、杠に向き合ってやってくれ。妹のような扱いをしないでやってくれ」

「乃愛ちゃんを妹のように見てるの、バレてたのかよ。というか向き合うって?」

「バレバレだ。これからは年下だからとか、年齢がとか、そんな世間の常識を振りかざすのは辞めてやってくれって事だよ。それは、お互いにとって良くない」

「……分かった。覚えておく」


 乃愛ちゃんの事は妹のように思っているが、これまでそれを口にした事は無い。

 とはいえ、年下というフィルター越しに接していた時は多かった。

 これからは気を付けなければと思って頷くと、満足したのか翼が真面目な雰囲気を消してへらりと笑う。


「ならよし。いやー、あんなに良い子が瀬凪の傍に居てくれて良かったよ」

「それには同意だ。乃愛ちゃんには、ホントに助けられた」


 どれだけ感謝してもし足りない。

 しみじみと呟けば翼が嬉しそうに、けれど昔の事を思い出すように目を細めた。


「……振られた結果、気付かないようにしてるよなぁ。気付かないようにしてるってのは、昔の俺と同じか」

「何だよ。まだ言いたい事があるなら聞こえるように言ってくれ」


 問い詰めるが、翼は肩を竦めるだけだった。

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― 新着の感想 ―
こんなに唐揚げがー! やったー、とか美味しそーとかじゃなくて写真撮ろーなの女子高生っぽい。乃愛もあと二年もすればこんな風に……なるかなぁ。 いつも通り心配性ですね。無理をしてたら労いの意味も込めて後…
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