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友達の訪問


私が病院で関わる人が一人増えたのは八月の特別暑い日のことだった。


その日は「おい」でも「起きてんのか」でもなく、「しのちゃん」という女の子の声だった。


その子はカーテンの隙間からそっとベッドを覗き込み、「ああ良かった、起きてた」と安堵していた。


髪は短く、背は高く、利発そうな子だという印象を持った。


「お邪魔するわね。目を覚ましたってのは本当だったんだ。良かった……」


「あなただぁれ?」


「覚えてないの?私、ニア。同じ小学校の」


そういえばそんな名前のお友達がいたような気がする。


でもニアも成長して大人っぽくなっているせいか、小学校の時にどんな顔だったか思い出せずにいた。


そんな私にニアは小学校の卒業アルバムを見せてくれた。


「これが私」


ニアは習志野ニアと書かれている顔写真を指差した。


その時、何かがパアッと開けた。


「ニア……ニア!思い出したわ!毎日一緒に給食を食べたし体育でペアになってたよね。


私が男子たちと打ち解けずにいた時に助けてくれたよね。


移動教室の時は一緒に手を繋いで歩いたよね」


思い出は咲き乱れる花のように頭の中でぱあっと咲いて、いっぱいになった。


「毎日一緒に帰ったよね。


あの、止まれの標識がある交差点まで。


止まれの線まで一緒に歩いたよね」


「そう、そうよ!しのちゃん、やっと思い出した?」


ニアは泣いていた。


「しのちゃんが学校に来なくなってから私寂しくて、何度もここに通ったのだけどしのちゃんは起きなかった。


死んじゃったのかと思ってた。


そのうち私は中学生、高校生になってしのちゃんのところに来ることもなくなったのだけど、


この間しのちゃんのママに偶然会って、しのちゃんが目を覚ました事を聞いて、


居ても立っても居られなくて来ちゃった」


「ありがとう、ニア」


私はニアを抱きしめた。ニアも私の背中に手を回してくれた。


「ところで、お兄さんは元気なの?」


「お兄さん……?」


「しのちゃん、お兄さんがいたでしょ?あら、それは思い出せないのかしら」


ニアは驚いたような表情で首を傾げた。


「私、お兄ちゃんがいるの?」


「そうよ、名前はねーー」


ニアが言いかけた時、「失礼するよ」と病室のカーテンが開いた。


「あら、お客さんかい」


そこには主治医が立っていた。回診の時間だった。


「先生!この子はニア。小学生の頃の仲良しさんなの。


ニアと話してるとなんだか全部思い出せそうな気がするのよ」


「そうかい。それは良かった。けど一気に思い出そうとしなくて良いんだよ。ゆっくりでいい」


「そうね。わかったわ」


「ニアちゃんと言ったね?ごめんよ、東雲ちゃんは今から診察なんだ。席を外してくれるかい?」


「わかりました、先生。しのちゃんをよろしくお願いします」


「ああ、わかったよ。東雲ちゃん、診察室に来れるかい?」


「ええ、行けるわ」


私はベッドから降りて先生の後ろをついていくことにした。


ニアは卒業アルバムを片付けて一緒に病室を出て、診察室の前まで歩くのを手伝ってくれた。


そして「また来るね」と言って小さく手を振った。





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