生活
「東雲さんのお部屋はこっちよ」
案内されたのは、恐らく京のお兄さんの部屋だった。
お兄さんはデキ婚したんだと京が言っていたことを思い出す。
「母さん、僕は東雲さんと結婚を前提にお付き合いをしているんだ。
一緒の部屋で寝ても問題はないでしょう」
京は珍しく寂しがるような声でそう言ったけど、
「だからこそ何かの間違いが起きることは避けなければならないのよ、京」
とお母さんに言われて渋々引き下がっていた。
京のお兄さんの部屋は広くてベッドも大きくてふかふかだった。
疲労困憊だった私は、お風呂に入った後、軽くベッドに沈み込んだだけで深い眠りについた。
目が覚めたのは朝で、私は持って来ていた制服に着替えた。用意された朝食を京と一緒に食べた。
「行ってきます」
と、二人で家を出た。京は大学に、私は高校に向かった。
「何かあったら連絡して」
京は昨日の喜翔のことを思い出して心配しているようだった。
「わかった」
私は頷いた。分かれ道に差し掛かった時、京はそっと私の額にキスをした。
「じゃあ、また夜に」
私は京に手を振った。
「東雲、おはよう」
「南、おはよう」
私たちは下駄箱で挨拶を交わした。
「今日小テストだってね。自信ないわ」
「南なら大丈夫よ。頭いいの、私知ってるんだから」
「やめてよ」
南は照れ臭そうに笑った。
なんでもない日常を送れていることに安心する。
喜翔のいない生活が、京のいる生活が、幸せで堪らなかった。
京が新居を探すまでに時間はそうかからなかった。
京が見つけた新居は、私の実家から徒歩五分圏内の、オートロックで監視カメラがいくつもあって、
守衛さんがロビーにいるような立派でセキュリティ万全なマンションだった。
家賃はいくらなんだろうと思ったけど、京は気にしなくていいと言った。
どうやら京はもう既に働いているようで、収入はそれなりにあるようだった。
それでもこんな立派なマンションに住めるのは京の実家からの支援ありきのようだけど。
引越しにはそう時間がかからなかった。
家具は新しく取り揃えたし、必要なものは少なく、荷物の殆どは実家に置いてきた。
それから京との同棲が始まった。一緒に暮らすと良いところも悪いところも見えてくる。
京はお酒に弱かった。何度も吐くところを見たし、何度吐いたら自分の限界を知るんだろうと呆れることもあった。
でも酔っ払った京は普段言わないことを言ってくれる。
「東雲。好きだ」
「うん、私も好きよ」
「僕の方が好きだ。誰にも渡さない。僕だけの東雲」
京は何度もキスをしてくれた。私はお酒に酔う京には呆れていたけど、それでも好きだと思えた。
好きになってよかったとも。
守衛さんからの「またあなたのお兄さんが来ていましたよ」の言葉は気にしないようにしていた。




