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第22話 デート?

「アヌスレイヤーさん、また一人で暴れてたって? 掲示板で話題になってたよ」


 毎週金曜日恒例となったナメクジくんとのお食事会でそんなことを言われた。


「なに? 掲示板?」

「ゲームのね。前にアンタに挑んだのも、そこでやたら強いやつがいるってのを見て、勝ったらやめようかなって思ったから」

「懐かしいな、あのファンメール。保存してあるから後で送ったげよう」

「いらない。自分の黒歴史を見せられて嬉しいと思う?」

「嫌がる姿を想像するのと、見るのと。どっちも楽しいぞ」


 黒歴史と認めて不快になるなら、当時と比べて成長したということだ。もちろんいい方向に。リーダーたちの教育の賜物かな。


「ひどい!」

「ひどくない。どっちかというと、いい人だ」


 そう。雨の日に傘を忘れたJKを、見るに見かねて傘をあげるようなお人好し。完璧な善人。


「知ってるけどー」


 不満そうにアイスティーのストローに息を吹き込んでブクブク言わせてる。下品だからやめなさい、とは指摘しない。かわいいし。こんな美少女があんな暴言メッセージを送ってくるなんて思えないんだよなぁ。でも本人が認めてるから、不思議なものだ。


「そういえばさ」

「ん?」

「そーいちさんはなんでこのゲームを始めたの?」

「……一言で言えば、ロマンがあるから」


 ロボが嫌いな男の子なんていません。男の子って歳でもないけど、まあソレは置いといて。

大好きなロボットを自分で操縦して、土煙舞う荒野で仲間と肩を並べ、強敵・大軍と対峙して、ド派手に撃ち合う切り合う殴り合う。砲弾が飛び交い、爆弾が炸裂、撃破された鉄くずがゴロゴロ転がる大戦争。想像するだけで胸がすくような気持ちにならなるだろう……それがロマンだ。そこにはロマンがある。

VRという仮想現実で、安全に楽しく思う存分ロマンあふれる仮想戦争ができる。素晴らしい、最高だ。日々の些細なストレスなんて全部爆弾がふっ飛ばしてくれる……最高だ。

 熱い胸の内を「ロマン」の一言に込めて、放った。女の子に理解できるかは知らないが、理解してくれればこの上なく嬉しいことだ。


「で、そっちは? VR環境揃えるのも学生じゃ厳しいだろう。なんでまたロボゲーなんてチョイスを」

「うちは私以外皆男だから、趣味がそっちに偏るのも仕方ないじゃない。VRはお兄ち……兄さんがお古をくれたの」


 なるほど英才教育の賜物か。VRも中古をもらったならそれもわかる。勝手に失礼極まりない想像をしていたことを心の中で侘びて、タピオカミルクティーを啜る。


「買うと高い。大事に使うといい」

「同じスペックのパソコンと、VR用機材を合わせると……たしか20万くらいかな。学生には厳しいよ……」


 惜しい。あと5万ほど足りない。いや、今は少し安くなってるんだっけ。


「でもおかげで他のオンラインゲームと違って『民度』がいい。子供がいないから快適だ」


 経済的な意味で大人向け。最初のセットアップの段階で結構な手間がかかるし、説明書を読み込めない短気な馬鹿は起動にさえたどり着けない。よってマナーの悪い連中は最初の段階で弾かれる。

 万一そこを突破したとしても、マナーが悪ければ通報され、マイナススコアが蓄積するとログボちゃんが殺しに来る。そこで嫌になってやめていく。

 あとに残るのは、礼儀正しくロマンへの理解ある紳士ばかり……のはずなんだが。例外が目の前に。


「ソレはわかる気がする。FPSとかMMOとか暴言厨が多くてうんざりだったもん」

「……ファンメール」


 自分のことは棚上げして人のことか。本当に反省してるのかお前?


「あー……その件はごめん」

「いいよ。許す」


 カップの底に残ったつぶつぶをストローで突き回しながら、許す。

 美少女だから多少甘くなるのも仕方ないね。ドリンクも甘いし。関係ないって? まあいいじゃないか。仕事で疲れてるんだから、多少の矛盾や脱線なんて気にしない。

 それにナメクジくんは癒やしキャラなんだよ。近くにいるだけでHPとMPが回復していくんだ。現代社会という砂漠に湧いたオアシスなんだ。大事にしよう

 美少女は国の財産。紳士諸君は大事にしましょう、優しくしましょう。紳士をやめていいのは勝負事の最中だけだよ。

 もう少し大人ならベッドの上での勝負も考えるんだが、相手は子供です。犯罪はいけません。


「なにぼーっとしてるの。こんな美少女を前に考え事?」

「自分で言うことじゃないだろ。仕事疲れで変な電波を受信しただけ」

「私も勉強で疲れてるんだけど。そのうえでくたびれたオジサンとお茶してるんだけど」

「失敬な。こんなダンディなイケメンを捕まえてくたびれたオッサンとは」

「さっき私に言ったこと覚えてる?」

「もちろん。わざとだよ」

「知ってる、そういうのダブスタっていうんでしょ」

「大人は皆悪い生き物さ。覚えておくといい。ああでも俺はめったに居ないほど優しく、そして紳士的だから基準にするなら別の人のほうがいい」

「……態度はウザイけど、言ってることは事実なのがむかつく」


 辛辣かつストレートな言葉が胸に刺さる。私は悲しい。


「大体紳士的って、現実じゃソレが当たり前でしょ」

「まあな」


 しかし、アタリマエのことをアタリマエにできない人間は多い。自分も人に偉そうなことを言える立場じゃないんだけど。毎週女子高生とお茶会とかなんなの? 今流行のナントカ活ってやつなの? 全く下心はない健全な付き合いだけど、他人から見たらそうにしか見えないよね。

 もし会社の人に見られたりしたら……上司とかに話がいってみろ。絶対メンドクサイことになる。やましいことは何一つ無いが、誤解を解くのに一苦労だ。普通に仕事してるだけで疲れるのに、余計な手間を増やしたくない。


「しかし、アタリマエのことを重視するなら会うのもやめておいたほうがいいな。誤解の元だ」

「もう遅い。ちょっと面倒な誤解をされた」

「心配したとおりになったか……大人の忠告には耳を傾けるべきだとよくわかっただろう。で、解決の助けはいるか」


 場合によっては。責任ある大人として、ハッキリとなにもやましいところはないと言ってやらねばならん。学生の風評は内申点として将来に響く。

 あと仕事中に学校へ呼び出し食らったら自分のキャリアにも響く。


「犯罪を疑われたわけじゃないから安心して。自力で解消できたし」

「……ふぅ、そうか。よかったな、俺がイケメンじゃなくて汚いオッサンだったら絶対話がこじれてたぞ」

「イケメンかどうかは置いといて。いくらオッサンでもちゃんと恩は返してたから」


 なるほど。いい子じゃないか。


「俺みたいにテキトウに生きてる人間とは違うなあ。もし君がブサイクだったら傘は渡さなかったよ」

「嘘つき。あのとき顔は見てなかったでしょ」

「嘘じゃないとも」


 助けた理由の一部は見た目だった。ということにしておこう。一週間以上前の自分の考えなんて覚えちゃいない。覚えちゃいないから、嘘じゃない。


「そーゆー人じゃないでしょ。尻堀名人。私のこと嫌いなの?」

「初対面でファンメ送ってくる奴を好くと思うか?」

「ゔっ……」

「まあ、嫌いな相手と飯は食わんが」

「あ゛―……よかったー」


 ひどくオッサンみたいな声出すな。見た目は可憐な乙女なのに。


「つまり嫌いじゃないのね!」

「大声出すな。他の客の迷惑になる」

「……もしかして、好き?」

「No」

「じゃあどっち」

「どっちでもない」

「えーなにそれつまんない」

「むしろ安心しろよ。好きって言われても困るだろ」

「うん。通報する」

「そっちから聞いといて通報するのか!?」


 ちょっと理不尽すぎないかいお嬢さん。




 そんな感じで、暗くなるまで二人でのんびり駄弁って解散。次会うときはゲームの中で、と約束して別れた。うん、言い逃れのしようがなくデートだったな。まあいいや、面倒なことは考えないでおこう。


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