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銃火のオシナー  作者: べりや
終章 東方大演習
112/126

龍は舞い降りた 【オシナー】【ケヒス・クワバトラ】

 闘技場の観覧席。その一段高い所にケヒス姫様は居た。

 そして俺を冷たく笑っている。いや、嗤っている。



「中々、良い目つきになったのぅ。く、フハハ。余は今でもあの日の事を覚えているぞ。あの時のうぬは今と違い、困惑して野ネズミのようにびくびくしていたな」

「ケヒス! こんな反乱を望んでいるのはお前だけだ! すぐに投降しろ」



 最早、敬おうという気なんて潰えた。

 だから「不敬だぞ」と言う言葉が投げかけられても俺には届かない。



「フン。余一人が望んだのでは無い。民草(・・)が望むのだ。

 新しい戦が、新しい時代がやってくるぞ。

 その一端を開いてくれたうぬには感謝している。故に、楽に殺してやる」



 その言葉と共に闘技場の別の入り口が開いた。

 そしてそこからニメートルをゆうに越える筋骨隆々のオークが現れた。

 目は血走り、所々に巻かれた包帯から血が滲んでいる。



「フン。捕らえるのに苦労した」



 ジャリジャリと鎖の音が耳を犯す中、ケヒス姫様は楽しそうにそう言った。

 どうやってオークを捕まえたんだ……?

 いや、それより俺はあれと戦わなくてはいけないのか!? それもこの短剣一本で――!



「あの時はうぬの手銃にどれほどの力があるか試したくてすぐに号令を下したが、今回はしばし猶予をやろう。どうだ? 余と共に新しい王権を打ち立てようと思わぬか」

「俺に、反乱に加われと……?」



 答えの変わりに不敵な笑みが返ってきた。俺にこの王国を裏切れと言うのか?



「…………こんな反乱、成功する見込みがあると思っているのか?」

「考えた末の答えがそれか。興が冷めるぞ。まぁ良い。この反乱が成功するか? するさ」



 ケヒス姫様が合図をすると従者と思わしき騎士が羊皮紙を持ってきた。

 遠くでよく見えないが、何か、文字の下に赤黒い何かがついている。



「血判状……」



 それが騎士個人なのか、それとも騎士団なのか判断つかないが、それでも一国のクーデターとしては少ないような――。



「各公国の血判だ。大公国には声をかけていなかったが、これだけ集まったぞ」



 そう言われた顔はまさに「どうだ、頑張ったろう」とでも言いたげに紅潮していた。

 まさか――。



「ケプカルト中の公国と共謀した――!?」

「正確にはケプカルト十一公国のうちの半数しかない。だが、これだけあつまれば十分だ。いや、正しくはこれだけの国が現王に不満を募らせている。

 小銃を自作できるほどの国がケプカルトにどれほどあると思う?

 東方や西方からの奴隷で生計を立てていた国がどれほどあると思う?

 うぬの行う軍制改革に反発する国がいくつあると思う?

 その結果がこれだ」



 ケプカルトに渦巻いていた不満が書かれた血判状が高らかに掲げられる。

 元々、ケプカルトとは『亜人』の脅威に対抗するために作られた連合王国。ケプカルトを統べる王への忠誠で作られた砂上の王国。

 それが、崩れようとしている。



「うぬが望んだ自由のために不自由を強いられた者共を取り込むのはたやすかったぞ。その意味でも礼を言おう。故に余の仲間となれ」



 螺旋式小銃や東方産小銃の売買を通して作られた各国との縁をこの人は巧みに操って配下をそろえた。

 そうしてここまでやってきた。全ては己の復讐を果たすために――。



「間違っている! こんな反乱……。ヨスウズンさんだって生きておられれば止めたでしょう! 今のケヒスを見て、ヨスズンさんがなんと言うと思う!?」

「……ヨスズンか。あれなら、何も言うまい」



 そんなバカな――。



「あれはそういう物だ。計画は万端。手抜かりも無い。後は台本通りに台詞を言えば良い。

 そう、手はずを整えたのだ。ならば、あれは何も言うまい」



 最早、言葉では止められない。

 最早、言葉では抱き込めない。

 俺たちはそれを悟った。



「残念だ。うぬとケプカルトに覇を唱える未来もあったろう。だが仕方ない。言うことを聞かない猟犬はただの狼だ。

 そして狼は殺すしかない」



 ケヒス姫様が腕を振りあげた。するとオークをつないでいた鎖が「ガチャリ」と音を立てて何かから外れる音が響く。



「ウォォオオオッ!!」



 鼓膜を破らんばかりのホウコウ。アムニスでもオークとは対峙したが、あの時は知性を感じたものだが、こいつは違う気がする。まさに野獣のそれを思わせる。



「ヨスズンほどでは無いが、余も『会話術』をかじっておる。それに、こう見えて昔は宰相と仲が良くてな。それなりに魔法の研鑽もある。

 故に会話と魔法で精神を破壊するなど造作もない」



 「うぬにそれをしないのはこれまでの感謝の現れと思ってくれ」とこの上なく震え上がりそうな事を聞いた。

 くっそ。と悪態をつく前に、岩が飛んできた。



「うああッ!」



 闘技場に転がっていた壊れた建材の一部をオークが手に取ると、無造作にそれをこっちに投げてくる。

 這い蹲るようにその砲撃のような投擲を避け、岩陰に滑り込む。

 死ぬ。絶対に死ぬ。

 いや、処刑を言い渡されている身としては当然なんだけど――。

 うわッ! 遮蔽物にしていた岩が砕けた!



「ち、近い!」



 思ったよりオークが近い。足に力を入れて駆け出すと背後を風が通りすぎた。振り向かなくてもわかる。むしろ振り向くような余計な動作をすると岩にぶち当たってしまう。

 それを避けるため、前のめりに――それこそ倒れ込むように岩陰にまた隠れる。

 チラリとその陰から頭を出すと緩慢な動作でオークがこちらを向いた。

 どうする。こんな短剣で勝負になる訳がない。


 いっそのこと、投降するか?


 だが、反乱を起こしたと言っても、本当に勝ち目があると言うのか?

 それに公国の領主を抱き込む事に成功したようだが、王都に入る法衣貴族はどうするのだ?

 大公国と王領の貴族が結託してこの反乱をつぶしにかかったら戦力差からして不利じゃないか?

 まだ何か、秘策が――。

 って、また岩の雨が――!



「逃げるだけではつまらんぞ。それにいつまで逃げられると余の予定に響く」



 そう言われるや、ケヒス姫様が何か、言葉を唱える。するとオークが呪詛を思わせる怒声をあげた。

 再び岩陰から顔を出すと、オークは血涙を流しながらドシン、ドシンと駆けてくるのが見えた。

 その時、脳内に何か、大質量の物が猛スピードで接近してくるイメージがわいた。

 その何かを思い出す前に脳が「逃げろ」と

警笛を鳴らす。

 だが、体は強ばって言うことを聞かない。


 これまでか……。

 今度こそ、守るために戦いたかったと思ったのに――。

 その時、オークのそれとは違う爆音が響く。

 濛々と砂塵が舞い上がり、その衝撃波で俺は打ち倒された。

 耳がキーンと甲高い音しか拾わない。視界がぐるぐる回って立ち上がれない。

 どこか、遠くから何か聞こえる。だが遠くて聞き取れない。

 周囲を見渡すと砂塵の壁が薄れて騎士達が空を指して何か口を動かしている。


 ふと、その指先に視線を向けると宙に浮く馬車が見えた。

 その馬車は銃火を煌めかせながら降下してくる。

 それをただ見つめていると、周囲の音がだんだんと近づいてきた。

 響く悲鳴。迎撃を伝える命令。そして銃声。

 混沌の鍋をあけたような騒ぎが戻ってきた時、馬車から小柄な人影が飛び出してきた。

 彼女が着地を決めると同時に腰に刺さっていた回転式拳銃を引き抜くと観覧席に次々とそれを撃ち込んだ。



「各員、牽制射撃!! 撃ち方自由!!」



 彼女はそう言うや、また腰のベルトから通常の拳銃を取り出して撃つ。



「急いでくれ! すぐに飛び立つ!!」



 その声は馬車を吊っていたドラゴンの上から響いた。

 すると、彼女は撃ち終わった拳銃を投げ捨てながらさらに腰から拳銃を引き抜く。



「助けに来ました。オシナ――」



 彼女――ユッタ・モニカ中佐はサッと青い顔を隠す様に口元を押さえた。



「……大丈夫か?」



 カラカラに乾いた声で問うと「それより立てますか」と口元を押さえたまま俺に肩を貸してくれた。



「急げ! 急げ!!」



 ヘルスト様に急かされながら馬車の荷台に体を預けた瞬間、瓦礫の仲からオークが身を起こした。



「もう少し寝てろ!」



 ヘルスト様は騎乗しながら背後に背負っていたラッパのような見た目の試作騎兵銃の撃鉄を上げた。



「あれは試作品じゃ――?」

「第三連隊の備品を借りたんです。それより、早く、うぇ」



 ユッタさん!? 大丈夫なの!? と思っていると「今度は、わたしが助けに来ましたね」と誤魔化すような、それでもイタズラのような笑みが咲いた。

 まったく。

 その時、馬車に何本か矢が刺さった。それに集合を知らせる信号ラッパも聞こえる。



「モニカ中佐! 欠員なし、いつでも飛べます!!」

「飛んでください!!」



 ユッタの声に「分かった」とヘルスト様が答えながら銃声が響いた。あの試作騎兵銃か。

 それと共にバサリ、バサリと風が立ち上る。そうして馬車が地を離れた。



「周囲を警戒! 離陸を援護して――」



 その時、馬車がグラリと揺れ、乗り込んだまま解放されていた馬車の後部にずれ落ちそうになる。



「どうしたんだ!?」



 ヘルスト様の悲鳴。斜めになった開口部の下には馬車の車輪をつかむオークが凶暴な唸り声を上げるのが見えた。

 下から巨漢のオークが馬車をつかみ、馬車とヘルスト様の愛龍であるタンニンをつなぐ荒縄が悲鳴を上げると同時に、それが食い込んだのかタンニンも怒声を上げた。

 天と地を支配する二者の咆哮に身が堅くなるが、このままじっとしていると墜落する。

 ふとユッタの腰のベルトに取り付けられた一丁の銃が見えた。

 限界まで切り詰められた太い銃身と銃床。ラッパのように広がった試作騎兵銃(そもそも彼女は何丁の銃を持ち込んでいるんだ)。



「ユッタ! 借りるぞ」



 片手で自分の身を支えながらユッタの腰に手を伸ばす。



「あ、ちょ!」



 グラリと揺れる馬車のせいで試作騎兵銃に手が届いたのは良いが、片手が滑った。落ちる。



「お、オシナーさん!!」



 たぶん、とっさの行いだったのだろう。

 ユッタは素早く両足を組んで俺の首をしめこんだ。

 な、夏用のズボンのせいで太股の柔らかさが――。



「おおおおオシナーさん! はは、はやや!!」



 当のユッタもテンパっているが、俺はそれ以上だった。

 いくら引鉄を引いても弾が出ない。いや、撃鉄あげてないじゃん。

 それにチャンスはこの一回切り。いくら装填しやすいように銃口が広がっていると言っても限度がある。



「オシナーさん!」

「オシナー! 早く!」



 撃鉄を起こし、オークの眉間にそれの照準をあわせ、撃つ。

 馬車に轟音と硝煙が漂う。そしてオークは崩れ落ちるように手を離した。

 地上からの抵抗がなくなり、タンニンは力強く舞い上がる。

 その時になって散発的な銃声が響いてきた。連隊の迎撃準備が整ったのだろう。


 だが弾丸はなかなか馬車に当たらない。まあ空にある敵を撃つのは限りなく難しい。

 そしてその弾幕を避けるようにタンニンは上昇していく。その時、開口部から闘技場の一段高くなった観覧席が見えた。そこで未だに笑いを湛える冷血姫も。



「ユッタ!」

「分かりました!」



 俺たちはそれだけで通じた。この反乱を終わらせる。

 そのためにユッタは背後に背負っていた螺旋式小銃に火薬と弾丸を手早く込める。

 その間にも地上からの射撃が迫りくる。周囲から空気を裂くような音が近づいてくるようだ。



「風と木の神様。わたしに力を……!」



 短い祝詞と共に撃鉄が落ちる。



「……?」



 撃鉄が落ちるが、火口から薄く煙りがあがるだけだった。

 その煙はすぐに濃くなって銃口から弾丸が飛び出す。

 その間、それこそ一瞬。その一瞬がケヒス姫様を、助けた。



「遅発!?」



 なんらかの原因で撃鉄からの着火が遅れ、自身のタイミングを逸して撃たれた弾丸が目標に命中するのは奇跡の話だ。

 正確なチャンスを逸した弾丸はケヒス姫様の頬に一線の傷を残して飛び去ってしまった。



「も、もう一度!」

「何を言ってるんだ!? 離脱する!!」



 ヘルスト様の声と共にタンニンが動き出す。すでに何発か、馬車に銃弾がかすっている。

 そうして俺は囚われの身を脱する事が出来た。





「お怪我はございませんか!?」

「……バアルか」



 未だに虚空に向かって銃弾が放たれているが、あれでは当たらないだろう。



「総員に撃ち方やめを伝えよ。これからは持久戦ぞ。無駄弾を使わせるな」

「御意に――。殿下、お顔が……」



 ふと、右の頬をなぞると赤い液体が指についた。

 割れながらに強運だと呆れる。



「撃たれたな」

「何を悠長な!? お手当をお受けください!」

「……いや、それでは予定に障る。布はあるか?」



 バアルはさらに何かを言いたげだったが、黙って懐から白地の布を取り出した。



「モニカ支隊の支隊長を知っておるな」

「ユッタ・モニカ中佐ですね」

「あいつに撃たれた」



 「射撃の名手に狙われて生きておられるとは……」とバアルも呆れた声で答えた。

 それよりも「ですからこのような危険な場所に出向かわれるのは――」と続いて辟易してしまった。

 騎士団に入団したての頃はヨスズンに学ぶよう言いつけたが、この部分は学んでほしくなかった。



「あの亜人、遅発しておった」



 火薬の質が悪いと遅発が起きやすい。だが、天才射手(やつ)に限ってそんな物を使うとは思えない。



「余は運が良いようだ」

「いつまで続くか分からぬ運に頼るのはどうかと思います」



 バアルの言ももっともだ。運のような不確定な物に頼るつもりはない。つもりはないが――。



「バアル。余は思う。余の戦いに天が味方しているのだと。天が味方をするなら、我らに大儀があると言うことでは無いか?」



 バアルは困惑したように「はぁ」とか「いや、しかし――」と言葉を濁すだけだったが、これは使える。

 使えるものは全て使う。籠城に限らず戦とは使える物を全て使わなくてはならない。



「皆に伝えよ。天運は我にあり。父なる主が我らにケプカルトを守護せよと仰せなのだ。そう伝えろ。兵達は迷信が好きだからな」

「御意に」

「それでは、余は王都に行こう。いつまでも船を待たせておくわけには行かぬ」



 これからだ。これから、全てが始まる。

 く、フハハ。


これが最終回だと思った? 残念! まだ続きます。



ちなみにサブタイは龍は舞い降りたにしようか悩みました。

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