第46話 結婚と新たな波乱の予感
季節が巡り、王都セント・グランデはかつてないほどの熱狂と祝祭の空気に包まれていた。
澄み渡る青空の下、大聖堂の鐘が鳴り響く中、新国王ユリウスとリリアは盛大な結婚式を挙げていた。
純白のウェディングドレスに身を包んだリリアは、誰もが息を呑むほどの絶世の美しさを放っていた。その隣に立つユリウスもまた、国王としての威厳と、愛する女性を迎える一人の男性としての幸福に満ち溢れている。
祭壇の前で向かい合ったユリウスは、リリアの白い手を取り、優しく微笑みかけた。
「リリア。君がどれほどの犠牲を払い、時間を巻き戻して私を救ってくれたのか……私は一生忘れない」
彼の深い藍色の瞳が、極上の甘さを帯びてリリアを射抜く。
「君が幾度となく泡沫をやり直そうと、私が君に恋をする未来は変わらないよ」
その真っ直ぐで愛に溢れた誓いの言葉に、リリアの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
ユリウスの顔がゆっくりと近づき、二人は永遠の愛を誓う甘い口づけを交わした。
参列席の最前列では、義理の父親となったアルバートと、妹のクロエが肩を寄せ合い、顔をくしゃくしゃにして嬉し涙を流しながら二人を祝福していた。
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結婚式の後、新婚の国王と王妃を乗せた豪奢な馬車が、王都のメインストリートであるロイヤル・アベニューへと繰り出した。
沿道を埋め尽くす群衆からは、「国王陛下万歳!」「美しき王妃様に栄光あれ!」と、鼓膜を震わせるような大歓声が沸き起こっている。色とりどりの紙吹雪が空高く舞い散り、街全体が二人を祝福していた。
馬車の窓から笑顔で手を振るリリアは、ふと、沿道の人垣の隙間に視線を落とした。
幼い頃、路地の片隅から背伸びをして、雲の上の存在であったユリウスを見上げていた惨めな自分がいた。しかし今は違う。彼女は彼を見上げるのではなく、生涯を共に歩む対等のパートナーとして、すぐ横で彼を見守っているのだ。
隣に座るユリウスを見つめるリリア。
陽光を受けて輝く銀色の髪、深い知性を湛えた藍色の瞳。国王となった彼の美しさは、十年前よりもさらに神々しく、リリアの心を激しく揺さぶった。
(ああ……なんて聡明で、美しいお人なのかしら……)
リリアは、胸の高鳴りを抑えきれなくなり、彼にもっと見惚れていたくて、無意識のうちに連続で三回、マバタキをした。
パチ、パチ、パチ。――チクタクリターン。
視界が歪み、時間が十秒前に戻る。リリアは再び、彼が民衆に微笑みかけるその完璧な横顔を網膜に焼き付ける。
それでも足りず、何度も何度も能力を使い、王太子から国王へと成長した最愛の人の美しさに蕩けるように見入っていた。
かつて彼を救うため、死に物狂いで使い続けたこの能力を、今はただ彼を愛でるためだけに行使している。
しかし、限界まで時間を戻し終え、我に返ったリリアの耳元で、不意に低く涼やかな声が囁かれた。
「おや、また時間を戻して私を眺めてたのかい?」
ビクッと肩を跳ねさせたリリアが横を向くと、ユリウスが悪戯っぽく、それでいてこの世の誰よりも甘い微笑みを浮かべて彼女を見つめていた。
「で、殿下……いえ、陛下! その、これは……っ」
図星を突かれ、顔を真っ赤にして慌てふためくリリア。ユリウスはそんな愛らしい妻の腰にそっと腕を回し、優しく自分の方へと引き寄せた。
「隠さなくてもいい。君が私を愛してくれている証拠だからね。……だが、時を戻さずとも、私はこれから先、ずっと君の隣にいるよ」
耳元で意地悪く囁かれる甘い空気に、リリアは完全に降参し、幸福感に満たされながら彼の広い胸へと身を委ねた。
青空に舞う紙吹雪の中、時を駆ける令嬢の逆転シンデレラストーリーは、愛する人と共に歩む輝かしい未来へと、永遠の時を刻み始めたのである。
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その数日後。夜の静寂に包まれた王宮の執務室で、新国王ユリウスは一人、密偵から上がってきた分厚い報告書に目を通していた。
「リリアの亡き両親の素性、か……」
報告書には、彼女の両親が単なる平民ではなく、旧帝国時代に『時の遺物』を守護していた一族の末裔である可能性が示唆されていた。そして、二人が不自然な事故死を遂げた現場からは、彼らが密かに護っていた強大なアーティファクトが忽然と消え失せていたという。
ユリウスは深い藍色の瞳を細め、手元の報告書を静かに伏せた。
「彼女のあの能力は、必然的に備わっていたということか……」
王国の裏でまだ何かが蠢いている。ユリウスは窓の外の深い夜空を見上げ、新たな波乱の予感を感じていたのであった。
第1章 完
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