番外編 おばあさまの独り言 その2
教会のバザーに出すのに、クッキーを焼いている。
部屋の隣に、小さな台所を作ってもらったのは、この屋敷に引っ越してすぐのころだ。
今日は、クルミとチョコチップのクッキー。
昨日はオレンジピールとチョコチップ。
プレーンも作った。
子どもたちが小さい頃、まあ、あの頃はこの台所じゃなかったけど、、、、クッキーを焼き始めると、、、、お父様の具合が悪いのかと、みんな静かに私のエプロンの裾を引いた。
「あら、大丈夫よ?お父様は、お母様のクッキーを食べると、お元気になられるんだから!」
仕事もきちんと休みが取れるように調整し、健康管理には気を使ったけど、やはり、年を取ってからは無理がきかなくなった。
時々、熱を出して寝込むとき、、、、人を寄せずに、二人きりで過ごした。そこは、、、地位を持ってずいぶん経ってからも変わらなかった。
息子が大きくなって、妃を娶って、、、まあ、色々あったが。
・・・・何分、うちの愚息は、自分がわかっているものだから、、、、他の人に対して言葉が足りない、、、誤解を生む元だわね、、、、
私たちはさっさと、用意していた離宮に越した。
必要最低限の使用人だけで、静かに暮らした。
あの人の体調のいい時には、遠出して、、、お友達に会いに行った。そう、、、、レオ様とクロエ様の領に。
彼らの息子さんが、トーマが、、、、、何年もかけて、ブリアとフールの間の大河に、橋を架けてくれた。あんなに嬉しかったことはないわ!
うちの愚息も、自分の偉業のように喜んでいたわ。
橋の真ん中で、フール側から来た弟夫婦に会った。こんなに、、、、両国は近かったんだ、、、、手を取り合って喜んだ。
そう、、、、弟の奥さんは、ブリアの王立学院が男女共学になった一期生。しかも、主席卒業だった、フローレンス嬢。
弟が学院の視察に来ていた時の、生徒会会長で、案内役だった。何がどうなったのかは詳しくは教えてもらえなかったが、末っ子をかわいがっていた大公殿は大泣きしていたな、、、、、、ふふっ
あら、焼けたかしら?
もう少しかな、、、、
そう、、、、あんなに近くに見えても遠かった、《《あの対岸》》に暮らして、もうずいぶん経ったわ、、、
・・・・・あの日、トーマの妻になるスイラン様が舞った、片翼の鶴の話、、、、
連れ去られた番を探して、力尽きて死んでしまった鶴。そして、、、その後に、ようやくたどり着いた番の鶴、、、、
私は、何百年、何千年たっても、あなたを探すだろう、、、、何度生まれ変わっても、あなたを探すだろう、、、私の片翼を、、、、
「・・・先に行くけど、、、探しに来てね、、、、」
握りしめた手の力が、だんだんと無くなっていく。あの人は、最後に、いたずらっぽく笑った。
あらあら、こげちゃうわね?
慌てて、オーブンからクッキーを出す。
悲しい思い出ではない。
部屋中に懐かしい匂いが立ち込める。
これにて、完です。
壺を割ってしまったナタリーから、お読みいただいた皆さん、ありがとうございました。
あとは、ぼちぼち番外編を追加するかもしれませんが、取り合えず、完。
ありがとうございました。