番外編 おばあさまの独り言 その1
「その角を曲がってちょうだい。」
かつて、通いなれた道だが、、、、なにせ、40年ぶりくらい?
町の雰囲気も、当然変わった。
お目当ての建物は、、、ペンキこそ塗ってあるが、たたずまいはそのままだった。
ドアを開けると、来客を知らせる小さい鈴がチリリン、と、鳴った。ああ、、、
「いらっしゃいませ、、、」
本を読んでいたのだろう。しおりを挟んで、ゆっくり立ちあがった少女は、流れるような煌めく黒髪を一本で縛っていた。瞳は、、、琥珀色ね?ふふっ
小さいベットが二つ並んでいた辺りは片づけられていた。カーテンもさすがに新しいものだ。
小さい棚と長めのテーブルが置かれ、色とりどりの石を使った小物が並べられている。
「あら、こんにちは。少し、見せていただいてもよろしいかしら?」
「どうぞ、、、、」
少女は、営業用の笑顔でそう言うと、またテーブルに戻って、本を開いた。
【近代農業の可能性と課題】
・・・うふふ、、、面白そうな本を読んでるのね、、、、
そのテーブルで、4人でご飯を食べていたのねえ、、、覚えていたより、小さいわ、、、
このお部屋も、こんなに小さかったのねえ、、、、
壁にかかったネックレスを見ながら、窓から外を眺める。その昔、窓に飾られていた木彫りのクマは、今は子だくさんになってブラウ領にいるはず。うふふ、、、
さすがに、、、、畑はもうないわね、、、、
隣の宿舎は、レオ様が爵位を得た時に、しぶしぶタウンハウスに改装したと聞いたから、、、、このお嬢さんもそちらに住んでいるのね?
開け放たれたドアから、小さな台所が見える。
そうそう、初めてあの人にクッキーを焼いたのは、ここだったわねえ、、、、
年季の入ったソファー。
よく、レオ様とあの人が、並んで座って、お酒を飲んでいた。
生きて行こうとだけ決めて、後は流されるままに暮らしていたころ、、、、新しいことはここから始まった。あの人が、何を、どう考えて、、、、私をここに連れてくることにしたのかは今はもうわからないけれど、、、、、、
「では、店主。ここにあるものすべて頂くわ。」
え?と、驚いた顔で本から目を上げた彼女は、
「いや、、、でも、、、ご婦人が身に着けるような類のアクセサリーではございませんが、、、、」
と、申し訳なさそうに言う。
「あら、、いいのよ?教会のバザーに出すの。子供でも買えるくらいのお値段で、かえって嬉しいわ。」
店主のお嬢さんは、納得したらしく、用意するまでお待ちください、と、お茶を入れてくれた。あら、、、高地のお茶ね?さすがだわ。
ソファーに座って、店主が手際よくアクセサリーを箱に詰めるのを眺める。
小柄な、、、、お母様に似たのね?
私の孫息子は、、、、おじいさまに似てしまったらしく、、、、、神経質で、人を寄せ付けない。姉たちに引けを取らないくらいの剣術も、家庭教師が要らなくなるくらいの勉学も、、、、もちろん、地位も、、、何もかも持っていたけれど。
実家ではよく眠れないからと、さっさと私の屋敷に引っ越してきて、そこから学院に通っている。何でもかんでも、一人で完璧にやることを良しとし、、、、楽しいこと好きの私の愚息は、つまんない子供だ、と、思っている節がある。母親さえ、どう接していいか思い悩んでいるようだし、、、、、
この娘がねえ、、、、
最近、孫がよく話してくれるのは、、、、学院で自分の秘書にしたという、女の子のこと。必ず最後には、変な奴なんですよ。と、続く。
うふふ、、、
お会計は10万ガルド。ストックしてあった商品を、自分からの寄付だから、と、包んでくれた。
今度の教会のバザーにお誘いして、小さなお店を後にする。
振り返ると、、、、店主がいつまでも見送ってくれていた、、、、
ああ、あの満天の星空の下でも、ああして、クロエ様が手を振って下さったなあ、、、、、あの時隣にいたあなたは、もういないけど。
いつか、私の孫にも、休めるところが出来ればいい、と、心から思う。




