返還
「イリアの王から、フールの独立祝賀祭に王女を連れて出席するとご返事がありました。」
「・・・そうか。」
「これで、決まりですかね?王女は18歳。まあ、年頃的にもちょうどいいですね。わざわざフールにまで連れてくるということは、、、お判りでしょう?公の場で、しかもブリア国にとっても輝かしい日に、、、、慶事が重なる日になりますかね?国王陛下?」
「・・・・・」
宰相は、すっかり薄くなった金髪をかきあげながら言う。
「まあ、そろそろお決めあそばせ。国の安泰のためにも。」
そうか、、、そうなんだろうな、、、
「貴方は、輝かしいブリアの国王なんですよ?貴方がご命令なされば、否と言えるものはおりません。私の言っていることがお判りいただけますか?」
*****
フール新王の戴冠式を兼ねた独立祝賀祭に向かう。
宰相と、将軍が付いてきた。もちろん、正規軍が500ほど。別に必要ではないが、国力の誇示のために、と、将軍が言うので。
ブリア国の旗がたなびく。
臙脂の地に、青い花と王の証の剣が交差されたもの。
馬車に揺られながら、復興の進むフールを縦断する。
国民は作業の手を止めて、深々と頭を下げる。
「ああ、、、ブリアに対しての反感はあまり大きくないようだね?」
「ええ、どちらかと言うと、感謝、ですかね。陛下が指示した、フールの兵の埋葬の行為が、いまだに語り継がれております。」
「・・・・・そうか。」
「あとは、、非正規軍の兵士が多数、復興作業や農作業に従事しました。そのまま、家庭を持って永住したものもおります。国民の感情はかなり良いものかと。」
「・・・そうか。」
「その後、武器を生活用品に作り替えて、配布いたしましたでしょ?フール国民は、ブリアのために何かできないか、そんなことを考えるほどです。教会の再興に力を入れて、幼少児教育も始まりました。もちろん、ご指示の通り、フール語を自国語として残しつつ、ブリア語を公用語で教えています。反発はございません。」
将軍が、事細かに説明してくれる。
終戦直後に王女・王子と回った荒れ切った国内の面影はない。
俺は、、、、あの小さい、何も知らなかった子供たちに、現実を見せた。そうする必要があったから。・・・・間違っていたとは思っていない。
畑では、夏まきの麦が育っている。柵の向こうには、牛が草を食んでいる、、、、
あちこちで、新しい家を建てているようだ。
走り回る子供の姿も見える、、、、
「そうか、、、、」
*****
予定より早めに着いた。
新王に挨拶をした。
フールの宰相の娘と結婚したチャールズにも会う。日に焼けて、良い顔になっていた。深々と頭を下げている。もう、ブリアには帰らないという。それもいいと思う。
このたった一人の弟を大事にしたかった。小さい頃から俺になついてくれた。まあ、、、うまくはいかなかったが、、、
リーも早めに王城に入っていて、我が家のようにくつろいでいた。相変わらずだ。
「ああ、姉上を呼びに行かせましょう。国王陛下が早めについたのをご存じではないので。」
ポールに、、、、新国王に、王女のいる場所を聞いて、自分で迎えに行きたいがいいか、と、
*****
フールの王城は、ブリアとの間を流れる大河を背にして作られている。
天然の要塞なのだ。
今は、裏庭に作り替えられ、塀が回されて、大河が見える。
ちょうど胸ぐらいの高さの塀にもたれかかるように、一人の髪の短い少女が大河を見ているところだった。薄いブルーのワンピースを風に揺らしている。
「・・・ポール?見て、今日はブリアが綺麗に見えるわ。あのあたりにねえ、クロエ様の領があるのですって。お元気かしらねえ、、、」
髪が風に吹かれている。振り返らず、対岸を眺めながら、少女が話す。
「クロエ様は凄いのよ!教育はやはり大事よね?ブリアでは、学院で女の子も同じように学べるように制度を改める手続き中だけど、フールにも必要ね。そう思うでしょ?」
はるか下の川面から、涼しい風が吹きあがってくる。
ああ、、、本当に、ブリアが良く見える。
「・・・・・フィリップ様も、、、フールがすっかり緑になって、驚かれているわねえ、きっと。どのあたりまでいらしたかしらね?
私も、、、、最後にご挨拶出来て嬉しいわ、、、、お元気かしらね?ちゃんと、眠れているかしらね?ふふっ、、、」
思わず、、、後ろから抱きしめる。泣きそうだ、、、
「・・・最後とか、、、言うな。お前がいないと、、眠れないんだ、、、」
*****
「しかし、、、、びっくりしましたよ」
ポールが、そそくさと出て行ったフィリップの後姿を見送って、リーに話しかける。
「僕に、、、膝をつきましたからね??ブリアの国王が??ご命令なさればいいのに、、、」
「・・・・・ああ、お前の姉のことだろう?」
「なんというか、、、、あの方のああいうところが、、、人を引き付けるんでしょうね?」
「・・・・不器用なんだろう?政務以外は。5年も一緒にいたんだから、手を出しとけば済むのにな?な?」
「・・・リーさん、、、弟にそれ、、、同意を求めるのは、、、、でも、まあ、、、そうですね、、、。姉は、、戦死した国民を弔うために修道院に入ると言っていましたが、、、ブリアの兵が、亡くなった兵の数だけ弔ってくれているんです。充分ですよね?
・・・・あの二人、、、大丈夫ですかね?」
「・・・大丈夫だヨ。」
リーは何事もなかったかのように、出されたお茶に手を伸ばす。
フールの新王の戴冠式と独立祝賀祭は盛大に執り行われた。
7月上旬、澄み渡ったいいお天気だった。
各国の要人や、取り囲むようにたくさんの国民も集まった。
フールと、ブリアをほめたたえる歓声が鳴りやまなかった。
預かっていた王冠を、フールの新国王の頭上に戻したブリア王は、あわせて、フールの王女を娶ることを宣した。青い、ブリア王の瞳の色を身に着けた王女は、ブリア王の手をとった。大きな歓声が広場を埋め尽くし、祝賀会は夜まで続いた。
「さて、そろそろかな?」
リーがいたずらっぽく笑うと、将軍に目配せする。
ドドーーン、と、夜空に花火が上がった。
「レオからのお祝いだよ!独立と、フィルの婚約の、な?」
いくつもいくつも、夜空に花が咲いた。
大河の対岸で、レオ達がこの花火を眺めているだろうな、、、、リーは愉快そうに笑った。




