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夕日

俺の侍従は帰ってきた。


10月の大舞踏会まで、まだ当分は忙しいだろう。

リーが帰ってきてくれて、執務室はスピードアップしたが、戦後処理の報告書関係が増えた。

ソリンが執務室の隅っこで、将軍とリーから上がってきた状況の報告書を、食い入るように見ている。

褒賞などの承諾が、国王から上がってくる。誰にどこの領地を、位を、いつから、、、、

やることは山のようにある。

各関係者に、経費の支払いも始まったので、、、、まあ、、、妃の心配どころではないな、、、、


「10月の大舞踏会だがな、」

「はい。」

「え、と、、、無理に出なくていいからな。戦勝祝いを兼ねるから、良い思いしないだろう?」

「いえ、、、僕は殿下の侍従ですから。御側にいますよ。」




その言葉を裏切らず、ソリンは常に俺に付き従ってくれた。


王になって、ますます雑多な所用におぼれかけても、多くの人間に媚諂われてうんざりしても、、、常に後ろに控えた。


ブラウ商会にならって、週に一度は執務室を休みにしたり、正式に秘書長官になった宰相の三男に言って、俺の休日ももぎ取ってくれた。


やれ、昼食会、お茶会、晩さん会、、、様々なご令嬢にお誘いを受けたが、まあ、なかなか忙しく、決めかねた。

・・・・・なかなか相手を決めない理由に、何度かフール国王女の名が挙がったが、いつか噂にも上がらなくなった、、、、


そして、、、眠れない夜にも、近くにいた。


ソリンは、、、短い上着から、腰が見えない、ロングコートに制服を替えた。




「レオ様も領地に向かわれて、、、リー様も国元にお帰りになってしまわれて、、、おさびしいでしょ?」


馬車で移動中に、下町への通りがちらりと見えた。随分と、、、下町にもいっていないな、、、俺の視線に気が付いたのか、ソリンが聞く。


「まあな、、、正直、寂しいかな。」


「随分、、今日は素直ですね?」


「・・・・執務室にはまた人が増えたし、総入れ替えした使用人も、若い子たちが多いし、、、カール商会も順調らしいしなあ、、、いい仕事するし。そうそう、レオのところは二人目が生まれたらしいぞ。」

「存じております。カールさん経由で、クロエ様からお手紙が届きますので。お祝いをお贈りしましょうね。・・・僕も、、、国元に帰る前に、もう一度お会いしたいですねえ、、、帰ったらもう、お会いできないでしょうから、、、」


あんまりソリンが淡々というので、なんかな、、、

目線の先には、レオの家に向かう路地。


来年の夏には、、、フール国の独立祝賀祭の予定だ。


復興はみんなの手を借りて、順調に進んだ。

次期国王のポールを中心に、フール国の宰相と、俺の弟チャールズと、、レオの姉上と、途中で帰国したレオの師匠も、、、なにより、、国民が頑張ったのだろう。


リーは独立祝賀祭に参加すると言ってきた。

ついでに、、、ソフィア王女へ、上物の絹の反物を送ってきた。きれいなブルーだった。この間、カール商会にドレスに仕上げるように頼んできた。


こいつももうすぐいなくなるんだな、、、


ソリンの視線の先を俺もぼんやりと眺める。

ソリンは、、、相変わらず短い髪で、すっと背筋を伸ばし、、、、街並みを眺めていた。


夕方の柔らかい光の中で、俺の侍従は、、、、綺麗だった。




*****


「お前、、、もう《《殿下》》じゃないんだからさあ、、、こんなあばら家に来ちゃまずくね?」


久々にレオが王都に来ていたので、元の家に遊びに行った。もちろん、お忍びだ。いつもレオの家に来ていたころのような、ブラウスとスラックス、、、、


少し埃っぽい。カーテンも心なし、日に焼けている、、、


「まあ、酒でも飲む?」

「ああ。」


ごそごそと、グラスとつまみを用意してくれた。


「どうした?お前、、、まさか、、、寂しいんだろう??ふふっ」


グラスを傾けながら、レオが言う。


「何を無理して早く返したのさ?一緒に独立祝賀祭に出掛ければよかったのに?」

「・・・別に、、、寂しくもなければ、無理もしていない。あっちでいろいろ準備もあるだろう?弟も待ってるし、、、」


今年の3月に、雪が解けるとすぐに、、、ソリンを解雇して、国元に戻した。


ソリンはにっこりと笑って、ありがとうございます、とだけ言った。

将軍が送って行った。


クロエに会いたがっていたのに、機会は作ってあげれなかった。

俺の仕事が忙しかったから、、、、、、、ブラウ領に行ってくる長い休みは難しかった。


「クロエに会いたがっていたんだけどなあ、、、」

「ああ、クロエも今、子育て忙しくて、、、領地の管理もしてるし、、、また会えるだろ?かわいいぞ、二番目も女の子なんだけど、、、お前の嫁にはやらないぞ?」

「ああ、、、おめでとう。」

「お前、、、大丈夫?なんか、、おとなしくて怖いんだけど、、、」

「は?」

「まあ、飲め。」



宿舎に寝かしてあったワインを何本か開けた。

宿舎は、一応貴族になったのでタウンハウスとして直しておくらしい。だんだんいろいろ変わっていくのは、仕方がないんだろうな、、、、、、



「何だかさあ、、、最後まで、淡々としてて、、、俺だけ?なあ?俺だけ寂しいの?」

「おま、、、、酒癖悪くなった?」

「何だかさ、、、、5年だよ?5年も一緒にいたのに??泣きもしないんだよ?」

「そりゃあ、、、、お前は《《従属させた》》王だからなあ、、、何も言えないさ。あの子もよく仕えたな、、、、」

「・・・・・」


「俺が、クロエに落ちたのは、あいつがまだ13歳の時なんだけどな、、、、」


突然レオが、、、のろけ?グラスを傾けて、遠くを見るような目で言う。


「私のことを、要るのか、要らないのか。って選択させられたんだよ。あの時、、、私のことを、好きか、嫌いか、って聞かれてたら、こうはならなかったなあ、、、」

「・・・・・」

「そんなの一緒だ、と思ってるでしょ?まだまだお子様だなあ、フィルは。なんでこっち方面はだめなのかなあ、、、、」

「・・・・・」

「なあ、お前、《《侍従の》》ソリンがいなくて寂しいと思ってるなら、、、余計なこと言うなよ?」




次の日、目が覚めると、日が傾いていた。


「な、、、、」

慌てて起きると、ばあやが洗面用のお湯を持ってきた所だった。

「おはようございます、陛下。今日はお休みでございますよ?」


着替えを終える頃、ばあやがレモン水と、パン粥を運んできた。


「まあ、、、、、同じようには作れませんがね、、坊ちゃまが昼過ぎまで寝ているときには、こうしてほしいと。はい、召し上がれ。」


レモン水にははちみつと少しの塩が入っていて、二日酔いの朝にちょうどいい。いつもそうだったので、普通に飲んだし、普通に食べた。


ばあやが食後に薄めの紅茶を入れてもってくる。

お皿に何時ものようにクッキーが添えられている。

・・・・今日は俺の好きなクルミとチョコチップだな、、、そう思ってから、、、


「ばあや?、、、これは?ばあやが?」


「・・・・いいえ、ソリン様が、、、瓶に詰めたのを、預かっております。坊ちゃまが元気がない時に、紅茶に添えてくださいと。もちろん、作り方も書いていきましたよ。」

「・・・・」

「坊ちゃま!」

「・・・・なんだ?」

「なぜお戻しになったのですか?なぜ手を御放しに?お約束もなく?」

「・・・・あれの弟君と、約束しているからな。返す、と。それに、、、あいつも、わりと淡々と、帰って行ったぞ、、、」


ばあやは、控室から、ばあや宛ての封筒を取ってきて、俺に差し出す。

「読んでみてください。」


それだけ言って、部屋を出て行ってしまった。


ばあやの開けて行った窓から、風が入る。随分暖かくなってきた。

紅茶を飲みながら、ばあや宛ての手紙を広げてみる。



何度も読んだ。



優しい文面だった。まるで、年の離れた弟を、一人残していく姉のような、、、



レモン水の作り方から始まって、、、風邪を引いたら秘書官に言って、必ず休みを入れてくださいね、

すぐに無理をするので、宰相殿に言って、仕事を振って下さいね、、、、なんだ、そりゃ?ふふっ


クルミとチョコチップのクッキーを瓶に詰めておきますが、瓶ごと渡すと食べてしまいますから、お皿に3枚くらい上げてくださいね、、、、具合が悪いと、寂しがりますから、側にいてあげてくださいね、、、、そして、



「陛下に婚約者がお決まりになったら、必ず暖炉で燃してくださいね。」


最後の一文を、声に出して読んでみる。



夕日が差し込んでいる部屋で、、、、、いつか見たあいつの横顔を思い出す。


























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