その亡霊、強力につき
鎧を着け終えた俺を感慨深く見つめる観月と、怖々眺める店主を、甲冑の目窓から見つめ返していると、突然、目の前が暗転する・・・。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
『警告。警告。警告。』
「な、なんだ?」
光が消えた世界に、一人困惑していると、突如頭の中に、警告音鳴り響く。
『別の情報体を確認しました。情報体は現在、マスターの意識に接続許可を要求しています。許可しますか?』
「え!?なにが!?その声、リライアか!?何かマズイ気がする!“ソイツ”の好きにさせないでくれ!」
『侵入者をEnemyと確認。要求を棄却。再度、欲求を確認。要求を棄却。要求を棄却。棄却。棄却。はぁ・・・しつこい・・・。マスター、すみません。ちょっと、頭の中がうるさく感じますが、お許しください・・・。その代わり、マスターは私が必ず死守します。』
「リライア!?」
視界が戻り、リライアの声が止むと、それを境に頭の中で何者かの争う音が鳴り響き始めた。
まるで、この頭の中を別の存在が我が物顔で暴れ回っているような感覚に、頭痛と共に吐き気が込み上げる。
しかも、リライアと侵入者の争う声もハッキリと、聞こえてくる始末。
もう、誰の頭なのかも、あやふやだ。
「え?ユーちゃん?どうしたの?」
「サカエさん?急に叫んで、どうしたんです?」
俺の焦る様子に気付いた観月とアダンさんが、不安げな声色で話しかけてきた。
「ユーちゃん、何かあったの!?」
「ぐっ・・・頭が騒がしい・・・。アダンさんの話は本当だったみたいだ。今、俺の頭の中に何かが入ってきてるらしい・・・。」
「そんな!精神の書き換えなんて、本当にあるの!?」
「あーもう!ほら!言わんこっちゃない!!どうするんです!?このままじゃ、サカエさん、精神を乗っ取られて、前魔王になってしまいますよ!?」
「と、とりあえず、脱がそう!そうすれば、精神の侵食も止まるかも!」
「そ、そうですね!サカエさん!外しますよ!」
慌てた様子の二人は、俺の着けている甲冑の留め具を外そうと、二人がかりで探り始めるが・・・
「ない!ないー!おかしい!?さっきまで、ここにあったはずの留め具がない!」
「んんっ!?篭手が抜けないよぉ!!なんで!?身体の一部になっちゃったみたいに、ビクともしないよ!!」
色んな場所を探るが、それらしい場所を見つけられないのか、結果として、さらに現場は
パニックに陥った。
観月・・・あんまり、無理に引っぱらないで欲しい。
ゴリラパワーで引かれると、肩ごと抜けそう・・・。
「戦闘で金具が引っ掛かるなんてことがないように、着用が終わると、消えるように魔法がかかってるらしいぞ。解除する場所に触れれて、“解除”を唱えれば、すぐに、装備を解除できるらしいが・・・。ダメだ、教えてくれない。」
俺は首を振ると、二人に離れるように促す。
万が一、侵食を許してしまい、二人を傷つけるようなことだけは、絶対に避けたかった。
「待って!そんな仕組みがあるなんて、誰に聞いたの?」
「頭の中に“入ってきたヤツ”だ。【魔王の亡霊】だよ。コイツは楽しんでるんだ。俺たちの抵抗する様を見て笑ってやがる。俺の頭を侵食しようと攻撃しながら、今も・・・何もできない俺たちを笑ってやがる。」
「魔王の・・・」
「亡霊・・・?」
俺は拳を握りしめ、頭の中の騒音を堪えながら、二人に頷く。
頭の中の騒音は、おそらく主導権を取り合うリライアと亡霊が争っている音だ。
「悪いが、少し集中したい。図書館に行ってくる。身体を頼む・・・。」
「う、うん!」
店主の用意した椅子に座ると、大きく深呼吸して、呪文を口ずさむ。
「《|Magia Memories《魔法図書館》》」
魔法が発動した瞬間、周りの情報が一切遮断される。
意思だけを身体から抜かれ、黒い闇の中に放り込まれたような感覚。
ゆっくりと目を開けると、目の前に木製の大きな扉があった・・・。
扉からは、頭の中で響いていた騒音が先程よりも大きく漏れ出ている。
この扉の向こうには、魔法の知識を沢山の本にまとめた魔法図書館があったはずだ。
中で何が起きているのだろうか。
俺は小さく息を整えると、重い扉を押し開いた。
ー ギイィィ・・・!!
扉を開けて、まず、目に飛び込んできたのは、荒らされた部屋と、亀裂の入った本棚、そして散乱したたくさんの本だった・・・。
リライアによって、綺麗に整理されていたはずの本が、バラバラと床に散らばっている光景に、胸が痛くなる。
キン!キン!
「剣戟の音?そうだ!リライア・・・!」
音の方へ辿り着くと、本棚の影でリライアと漆黒の甲冑が争っていた。
どちらも、俊敏な動きで、目の前の敵を打ち倒さんと武器を振るい戦う。
【魔王の亡霊】と聞いていたので、戦闘経験を加味して、亡霊の方が有利かと思われたが、なかなかどうして、リライアも負けず劣らず、善戦を繰り広げていた。
様々な方向から繰り出される大剣を真面目に受けることなく、斬撃を流すことで自身の身体に負担をかけることを避けた戦闘スタイルに徹してしていた為に、ここまで粘れたのだろう。
息もつかせぬ攻防に、俺は思わず足を止め、二人の動きを凝視する・・・。
▷スキルが発動しています。ご注意ください。
スキル・・・心眼と武術の達人のことか。
なるほど、この二つなら、二人の戦闘を見て理解し、突破口を見い出せるかもしれない。
俺はしばらく、様子を見守ることにした・・・。
ーーーーー
本棚間と言えど、広い空間だ。
その中で二人は剣を交え、互いの要求をぶつけ合う。
『精神の接続を要求。』
「棄却!まったく、同じ情報体として失望を禁じ得ませんね。まさか、情報体の身でありながら、精神を書き換え、本体である主に成り代わろうなどと!情報体の風上にも置けません。」
突き出された剣を、易々といなし、避けるとすれ違い様に流れるように二連の斬撃を放つ。
『精神の接続を要求する・・・。我をお前の主と認メヨ。』
「しつこい!私のマスターは、ただ一人!栄咲遊助様だけです!貴方のような“負の情報体”は、見ていて虫唾が走ります。即刻、DELETEして差し上げます!」
『否!否否否否否否ァァァー!精神の接続を要求!665回の棄却を確認!強制執行を開始!ならば、邪魔者は、我が一部となりて、道を開るガ良イイィ!』
「何度試しても一緒だと」
「【 |Forced rewriting《強制書き換え》 】」
「えっ・・・!?」
亡霊の叫びと共に、リライアに向けて手をかざすと、男の周りから、無数の黒い鎖が伸び、リライアの四肢を縛り上げる。
「鎖っ!?動け、ない!?これは私だけ、フリーズしている!?」
「お前の戦闘パターンは観察して、把握シタ。お前のあらゆる動作に先手を打ち、その行動にマッチしている場合、動くことはできない。」
「何を言って・・・ぐっ!」
「分からなければ、それでいい・・・。それが、お前の限界だ。」
ジャラジャラ!と四肢に鎖を引かれたリライアは脱出を試みるが、片腕すらも逃れることはできない・・・。
身動きの取れないリライアは、亡霊のすぐ手の届く距離にまで侵入を許してしまう。
伸ばされた亡霊の手は、リライアのそのサラサラの髪を鷲掴むと、グッと引き寄せ・・・不敵な笑みを漏らす。
「アッハハハハ・・・!お前が、主を守るというのなら、まずは主ではなく、お前の情報を書き換エル。お前をこの世界から分断し、じっくりと、情報を書き換え、我の従僕へと変えてやろう。そして、お前を接続し直し、お前を通してゆっくりと本体を“我”に塗り替える。」
「私の情報を書き換える?ふふふっ・・・。そんなことできるわけが・・・。」
「否!お前は我の物になるのだ。情報体でありながら、それだけ繊細な造形を構築し、自身の思考までも手にいれた稀有な存在であるお前は・・・実に有効だ。我の一部となり、その原理、その過程、その結果を我に提供せよ。我を、“神も手を出せないほど、確固たる存在”にスルタメニモ!」
お前の価値は、我が一番理解できるのだ、と亡霊は呟くと嫌がるリライアの頭に手を置いて、何事か唱え始める・・・。
「無駄ですよ、私の根源は“彼の存在”が、素になっているんです。私が貴方を認めない限り、私が胸を開いて、この身を委ねるなど・・・。」
「ふふ!そうか。お前の中に入るための“鍵”はそれか・・・。見つけたぞ?」
「お前・・・ぐっ!?これは・・・ハッキング!?」
ジジ・・・ジ・・・ジジジ・・・ー
亡霊は一度、黒い影に包まれると、やがて、影が払われ中から“サカエ ユウスケ”が現れる。
リライアは困惑の色を顔に浮かべ、目の前のサカエを見つめる。
「あ、あぁ・・・。あれ?“マスター”がなぜ、目の前に?違う・・・?これは、情報体が・・・ハッキングして誤認させて・・・あれ?」
「まったく・・・。セキュリティが甘いなぁ・・・?“鍵”をうっかりと漏らすなんテ。」
「す、すみません。マスター・・・。」
「だが、大丈夫。敵は去った。君のお陰だ。お疲れ様・・・。ゆっくり、休みたまエ。」
「・・・は、はい。マスター。」
「おやすみ。良い夢ヲ・・・。」
(・・・ムフ!)
亡霊が化けたサカエの言葉に、リライアは目はゆっくりと目を閉じる。
鎖で縛られた自身の下に屈んで、自分を見上げる青年の顔を最後にリライアは目を閉じた・・・。
(ムフフ・・・!パンティ・・・!)
「(マスター・・・。こんな時に、なにを・・・///)」
青年の鼻息荒く興奮した顔は、意識の途絶える刹那、リライアへ最大の羞恥心を植え付けた。
(ムフ!ムフフ・・・!)
「ふふははは・・・!コイツは完全に我を主と誤認した!情報体は、ハッキングしやすくて助かる。人間相手では、記憶や経験、しぐさすらも真似しないと、我を受け入れないから、面倒で仕方ないのだが・・・。これは、僥倖!!まぁ、この情報体を完全にハッキングし、我の手足とすれば、既に繋がっている本体も書き換えやすい。どうだ?嬉しかろう?主と一つになるのだ・・・。情報体として、これ程、本望なことはないダロウ・・・!アーッハハハハッ!!」
亡霊は自身の勝利を確信し、両手を広げ大声をあげて笑う!
( ムフ!ムフフフ・・・!パンティー・・・!黒のレースか・・・!なんと、ヤラシイ・・・けしからん!素晴らしい!)




