その主、怒髪天を衝きにつき
「では、そろそろ・・・書き換えるとシヨウ。」
亡霊は鎖で縛られたリライアの情報を書き換えようと、一歩踏み出す。
ーガツン!ー
「・・・っと!?なんだ?こんなところに、物がアッタ・・・とは?」
「ムフ!ムフフン・・・!」
「・・・んん?猿だと?なんで、こんなトコロ二、猿が・・・。」
亡霊が足元を見ると、発情した猿がリライアの前に座り込んでいた。
心無しか、興奮状態にあるようだ。
「ムフ!ムフ!ムフフ!パンティ!黒!レース!ムフ!可愛い!可愛いよぉ!リライアちゃん!」
鎖で縛られたリライアを好き放題に、しゃがんだ発情猿は、スカートをめくったり、上着をめくって、下着を覗き込んだり、揉んだりはねたり、忙しない・・・。
「・・・ふむ?もしや、サブの情報体か?この女の情報体にエラーが出ると、それを補うために、起動したのかもにしれないな・・・。さて、これが迎撃システムなのか、はたまた、ただのオブジェなのカ・・・。」
顎に手を当て、亡霊はどうするか考えていると、猿は更にその行動は激しさを増す。
ついに、なんと、スカートのホックを外し、脱がし始めるではないか。
「ん・・・んん・・・。」
「お前・・・何が目的か知らんが、これ以上の接触は我が許さん!あまり、外部の刺激を与えると、スリープモードが解除されかネナイ!猿は大人しく、ガベージ拾いでもしているがイイ!」
亡霊は大剣を抜き出すと、無防備な猿の背中へと、振り下ろした!
キイイーン・・・!
「ナッ!?ナニイィー・・・!?素手で、大剣を弾いたダト!?」
「ウッキー・・・キぃー・・・きぃ・・・。」
猿は振りおろされた大剣を、裏拳で弾いた猿は、ゆらりと立ち上がると、口元に醜悪な笑みを浮かべながら、ギラギラと眼光鋭く目の前の【魔王の亡霊】を見つめていた・・・。
「キィー・・・キぃー・・・きぃー・・・。」
猿のモノマネをしつつ、魔王の亡霊を睨みつける俺、“栄咲遊助”はまさに怒り心頭だった。
魔王が、ズカズカと人の頭に入ってきたから?
違うなぁ。
魔王が、俺を乗っ取ろうとしたから?
違う、違うなぁ。
リライアの力に気付き、己に取り込もうとしたから?
違う違う、そうじゃない。
単純に、明確に、もっとシンプルに考えて欲しい。
そう。俺は、男が・・・大嫌いなんだ・・・。
特に、こんなふうに、女の子を利用価値で測り、一人の人間として大切に扱えない馬鹿野郎は特に・・・特に!!大嫌いだ!!
人を物としてしか思っておらず、優秀な人間を集めることに固執する『人間コレクター』みたいなヤツには、虫唾が走る。
まるで、レア度の高いカードを集めて喜ぶような子供みたいなことをいうヤツが心から大嫌いだ。
そういうヤツは、集めた瞬間は大切にしたとしても、すぐに飽きて、次を探すようになる。
集めた物を、愛でて楽しむ時間が好きなんじゃない・・・“ 集めること自体”が好きなんだ。
もっと言えば、手に入れた瞬間に味わう幸福感が好きなのだ。
自分が如何に幸運な存在か、誇示したいだけなのだ。
そんな自慰行為に、リライアを付き合わせようという・・・目の前の亡霊に俺は心底、嫌気がさした、吐き気がした、殺意が湧いた。
だから俺は拳に力を込め、魔王の亡霊を見つめる・・・見つめ続ける・・・。
今から、この“憤怒”を叩き込む相手の顔をしっかりと頭に分からせるために。
間違っても空振りしないように・・・。
全力全開全身全霊の拳を持って、目の前の天上天下唯我独尊馬鹿野郎を天地がひっくり返ってもぶっ飛ばす。
必ずだ!!
「ウッキー・・・キィ・・・。」
ここで、勘違いして欲しくないのは、この猿真似は決してふざけているわけではないということだ。
だって、目の前の亡霊は、女の子を大切にできないド畜生だぞ?
俺はそれに合わせているだけだ。
畜生には畜生で、お相手する。
それが、俺流の礼儀というものだからだ。
「お前・・・やはり、迎撃システムの一つだったか・・・。先程はただの猿と油断したが、そうと分かれば、どうということはない。疾く、お前をデリートし、その情報体を我色に染めてやる・・・。染め尽くしてやる。」
「キィキィ・・・?」
亡霊が手をかざすと、俺を捕まえるように、鎖が伸びてくる。
俺は易々と鎖を避けると、再びリライアの身 体に抱きつき、優しく胸を揉んでみる。
「ムフ・・・!ムフフ・・・!」
「ん、んん・・・。」
自身の身体に違和感を覚えたのか、僅かに瞼が揺れ、艶やかな声が漏れる。
「猿がァァァー!誰の許可を得て、“ソレ”に触っている!?」
「ソレー・・・?おいおい・・・おいおいおいおい・・・。それは、この子に言ってるのか?それとも、彼女を縛り上げてるこのクソ邪魔な鎖について言ってんのか?どっちだぁあああー・・・?」
「ナっ!?お前・・・喋っ・・・な、何者ダ!?」
俺はリライアの胸から手を離すと、腕を伸ばしてリライアを縛り上げる鎖を指で弾いた。
パキーン!ジャラジャラ・・・!
「なっ!?“凍結の鎖”が!?」
弾かれた瞬間、鎖は断ち切れ、繋がれたリライアは崩れ落ちるように倒れる。
この鎖は、元々リライアの行動を縛るために用意された物。つまり、リライアだけを拘束するための道具。
故に、その外からのアクションには、めっぽう弱いのではないか。
鎖を避けるように、リライアに触れた亡霊の動きを見て、俺はそう当たりをつけていた。
リライアがどんなに強く引こうが、ビクともしない鎖も、俺の指先の弾き程度で、切れてしまったのはそういうわけだ。
まぁ、どんなにすごい技でも、抜け道はあるってことだね。
俺はリライアをしっかりと抱きとめると、その背中を優しく叩き、一人でここまで持ち堪えたリライアの忠義を労う。
「本当、よく頑張ったよ、リライア。君の頑張りは無駄にはしない。必ず、俺がこの大馬鹿野郎をDELETEしてやる。約束だ。」
リライアを地面に横たえると、上着を脱いで、リライアにかける。
「これで、少しは温かくなるだろ?今はそのまま、おやすみ。リライア。・・・っ。」
リライアのサラサラの髪を労わるように撫でると、その額に口付けをした・・・。助けが遅れた、せめての詫びだ。これで許してくれ。
「ん・・・んん・・・。」
少しの身動ぎの後、リライアは小さく微笑み浮かべ、安らかな寝顔に変わる・・・。
あぁ・・・なんて愛おしい寝顔だろう・・・。
写真撮りたい。って、今はそんな時じゃないか・・・。
今はとりあえず・・・。
「さて・・・ド畜生様?最後に何か言い残すことはあるかい?お兄さん、なんでも聞くよ?」
「お前はなんなンダ?急に現れたかと思えば、好き勝手に暴れ回り、更には我のモノに手を出すとは・・・。」
「お前のモノ・・・?おいおいおいおい・・・違うだろぉー?彼女は彼女自身のものだ。誰でもない、彼女の持つ存在価値は彼女自身が所有すべき、大切なものだ。赤の他人が、奪っていいものじゃない。ましてや、お前のような、ゲス畜生が手にしていいもんじゃないんだよ、ガベージ野郎。」
「ぐぐぐぐっぬぬぬ!!!?この猿が!!誰に向かって口を利いている!?我は【魔王 マモン】だぞ!」
「・・・マモン?」
「そうだ!七大罪の一つを司る悪魔の中で、唯一全てを掌握せし、最強最悪の強欲の王だ!畏れよ!ひれ伏せ!全てを差し出せ!その命すらも!我こそ、この世の、ゴブッ!!ごはっ!貴様ぁ!何を・・・ごファ!?」
「いしょっしゃあぁー!ストラーイクゥッ!かーいーしんの・・・一発ううぅー!!もう!モウレツー!!」
気持ちよさそうに、自己紹介を延々と続ける魔王の亡霊に向けて、俺は特に分厚い本を数冊手にすると、顔面目掛けて投げつけた。
結果、見事にクリーンヒット!
相手を黙らせることに、成功した!!
ぐるぐると腕を回して、全身で喜びを表現する!
「き、貴様、いきなり何をスル!?」
「話が長い!声がうるさい!言っている内容が自惚れまみれで反吐が出る!そして!われわれわれわれわれ、しつこい!ナルシストですか!コノヤロー!?なんなら、鏡と一緒に、精神科の電話番号はいかがでしょうか!?魔王我好き好き様!!?」
「こっの・・・!!どこまでも、我を愚弄するか、人間風情が!?いいだろう!お前はここでデリートする!」
「やれるもんならやってみな。魔王風情が。今日の俺は・・・ちょっと、滾ってるぜ・・・?」
俺はチョイチョイッと武道家風に手首を返して手招きすると、大剣を担いでかけ出す亡霊に向けて、拳を突き出した!
大振りで振り下ろされる大剣と、それを躱しながら、カウンターでガラ空きの胸に掌底を打ち込む。
「打ッ!」
「ぐっ!?」
苦痛を受けた声が兜から漏れ聞こえた。
凹ませる、穴を開けるというイメージではなく、その中身へ、より深くへと衝撃を与えるイメージで掌底を打ち込んでいく。
「ぐっ!この!なんだコイツの戦い方は!?剣や魔法も持っていない人間に遅れを取るなど・・・!」
「分からないなら、それでいい・・・。それがお前の限界だよ。・・・・・・だっけ?亡霊?」
「こっの!?人間風情が!!」
俺は先程、リライアにかけた亡霊の言葉を借りて、そっくりそのままお返しする。
怒りが頂点に達した亡霊は、大剣を下ろし、腕を突き出して、纏わり付く俺を払おうとした。
『チャンスヨ!ユウスケ!オバケに八極拳を見せつけてやるネ!』
しゃ、シャオ先輩いぃー!!
突如、シャオ先輩の白いパンティを思い出し、俺は感動に震えながら、両手を広げる!!
『「腕と体全体を使い、大きく開いた腕を回して両腕で円を描きつつ敵の攻撃を包み込んでいく受け技“大纏”!体勢の崩れた相手に~~“貼山靠”!」』
最後に重心を落として体重を乗せた全力の体当たり!八極拳・貼山靠!
全てが、シャオ先輩と同じ動きができた気がする・・・。
『上手ネ!ユウスケ!才能あるヨ!ダイジョーブ!自分を信じる限り、どこまでも人は強くナル!私はキミの可能性を信じるネ!』
「自分の可能性を信じてくれる人がいる・・・。それだけで、こんなにも、俺は満たされてる。ありがとう、先輩。俺も・・・信じるよ!!」
まるで、シャオ先輩がこの身体に宿ったかのような感動に再び胸が熱くなる。
あぁ、そうだ。たとえ世界が変わり、離れても俺はこの出会いを忘れない・・・。
女の子達との出会いは、確かに俺に多くの財産を遺してくれている!!
女の子たちは、道具なんかじゃない。
彼女たちこそ俺にとって、最高の想い出だ!!
俺は駆け出し、よろめく相手に追い打ちをかけるように連撃を加えていく!!
「おおぉー!!はい!そら!はい!よ!もういっちょ!」
「おのれ・・・!おのれ!おのれ!おのれえぇぇー!うっ・・・!?グフッ!オォ・・・!?」
トドメとばかりに、両手を突き出し、全体重を乗せて突き飛ばす。
数メートル吹っ飛ばされ、二転三転と転がった亡霊は、勢いを殺すことができず、本棚へと激突した。
「がはッ!ぐ・・・ぅぅ・・・。」
本の中に埋もれた亡霊は、そのままぐったりと倒れたまま起き上がる様子はない。
しかし、そのままトドメまで!とは行けなかった・・・。




