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彼女は牡丹 君は椿①  作者: 汪海妹
1/12

マリッジブルーってなに?

本作品は 僕の、わたしの、みんなの幸せな結末と関連する作品です。上記3作をお読みいただいてなくても筋を追うのに問題はないと思いますが、読んでみておもしろいと思っていただけた方、小さなエピソードがつながってますので、あちらもよければ読んでみてください。

汪海妹


本作品の主な登場人物


メイン

 このはちゃん

 かっちゃん

サブ

 せいちゃん

 なっちゃん

 千夏ちゃん(せいちゃんの娘1歳)

 火野先生(仙台出身の小説家)

 澤田さん(火野先生の担当編集者)

 将臣さん(このはちゃんのお兄ちゃん)

 進藤君(このはちゃんの書店のお客さん高校生














マリッジブルーってなに?













このは













「わたしと新婦の夏美さんは高校一年生からのつきあいで……」


親友のなっちゃんが結婚する。わたしは友人代表のスピーチを頼まれていた。


「その頃からもう、新郎の清一さんのことが好きで……」


そのくだりで遠目からもなっちゃんがぎょっとしているのが見て取れた。かわいいな。


「まあ、あまり詳しく話すのはやめておきますが、昔から知っているお2人がとうとう結婚されることになって、そばで見ていたわたしもとても嬉しいです」


先輩が東京へ行くときに、自分も行くことなんか考えられずに、諦めることばかり口にしていたなっちゃん。懐かしい。それが、今は諦めかけていた人と結婚して、おなかには赤ちゃんがいるなんて……。


「夏美さんはいつも明るくて温かくて、周りの人にも元気をくれる人です」


わたしはなっちゃんのいくつかのエピソードをはさむ。でも、本当は東京へ行くと決心したときの彼女が潔くて一番好きだった。彼女はいつもまっすぐに1人の人を愛している。それに対して自分は・・・・・。余計なこと考えた。ぱちぱちぱち、スピーチを終えて、わたしは席に戻る。


***


「すみません。あまりお構いできないけど、今日はゆっくりしていってね」


中條先輩はわたしたちにそう声をかけると、あっちの方へ行ってしまった。


「もう、ほんと素敵。なっちゃん羨ましいなぁ」

「中條先輩って、ほんと高校の時よりずっと素敵になったね。いいなぁ」


高校の時の同級生が集まっている。みんな今日はメイクも服もばっちり。結婚式は効率のよい合コンの場だというのは通説で、実際に結婚式の二次会で出会ったカップルというのも少なくないらしい。今回は先輩の会社が大手でその同僚の人たちが来るというので、みな色めきたっていた。


「学歴よし、顔よし、性格よしで、商社マンだよ~」


しばらくいいなの嵐が続く。今日こぞってここに来た子たちは、結婚願望(他力本願ともいう)の強い子たちが多い。そして、なっちゃんのことを同類だと思ってるのかもしれない。でも、それはちょっと違うと思うけれど。


「ねぇ、結婚って連絡来たときから思ってたんだけどさ、もしかして……」


女の子たちの1人がなっちゃんのお腹のあたりを見る。


「ああ、ドレスはうまく隠してたけど、この服だとわかっちゃうよね」

「え?てことはやっぱり?」


うそーすごーいとまた盛り上がる。


「うまくやったよね」


不意にそんなことを言いだした子がいて、わたしはちょっとむっとした。たしかにみなさんは結婚するためなら手段を選ばないかもしれないけど、なっちゃんはそういう子じゃないのに。


「そうそう。いい男はさっさと確実にものにしないとね」


それに応じる子もいる。


「うん。大体、いい男はさっさと結婚させられてるよ、彼女に。わたしの会社の人もそう。素敵な人は大体売却済みよ」

「残ってるのは、普通かそれ以下だよね。急がないと焦るよね」


きゃはははは……。この子たちは、世の中の女の人はきっとみんな同じ価値観で動いていると信じている。或いは、自分の生活に人生に必死で、周りを見回すことはしていないのかも。ただ自分の周囲に一緒に泳いでくれる群れがあれば、海域全体にほかにどんな魚がいるかなんてことには、脳みそを使わない。


「あのう……」


中條先輩がいつのまにかまた来ていた。女の子たちは顔が切り替わった。彼女たちは野生の本能で知っている。さっきまでしていたようなぶっちゃけガールズトークは男子に聞かせてはならないことを。


「うちの会社の先輩が、よければこっちに来て一緒に飲みませんかって言ってるんだけど……」


ちょっと離れたテーブルから、にこやかに手を振る男性陣が見える。え~、どうしよう。かわいい声がみなさんから出る。でも、それはもちろんふりで、ほんの一瞬の躊躇のあとに、みんなぞろぞろといざ出陣という感じで去っていく。かつての同級生たちの背中を見て思う。わたしは結婚のためにあそこまでがむしゃらにはなれないな。


「もうちょっといる?もう部屋戻る?」


先輩がなっちゃんに聞いている。


「どうしよっか?もうちょっとしたら部屋にこない?ここうるさいし」


なっちゃんがわたしに聞く。


「うん。いいよ」


それだけ聞くと、先輩はまた向こうへ行った。


「なんかさ、競走馬を買い付けに来ている馬主さんみたいだよね。みんな」


また、言いえて妙な表現を……。なっちゃんたら。


「うん」

「結婚は女の子の人生決める最大のイベントだからさ。本腰入れる子はもう今が正念場なんだよ」


正直、あそこまであからさまなの見ちゃうとひく。ひくけれど、でも、彼女たちに一目おいているとこもある。自分に何が必要で、何が欲しくて何がしたいか、どう生きたいかちゃんとわかっている。そして、迷っていなくて、まっすぐなんだ。まっすぐってとこだけみれば、なっちゃんと彼女たちは同じ。わたしは違う。


「このはちゃんは?あっち行かないでいいの?」

「わたし、彼氏いるしさ」


わたしにはかっちゃんがいる。高校の時からずっとつきあっている、勝也くんが。


「やっぱり、なっちゃんはさ、マリッジブルーとかなかったんでしょ?」

「ん?マリッジブルーってなに?」


きょとんと聞き返された。そうだった。しばらく仙台と東京で離れていてゆっくり会っていなかったけど、なっちゃんはこういう子だった。


「やっぱり、ことばすら知らないんだね。すごいなぁ」


高校のあの先輩を追って東京へ行くと決めた時から、なっちゃんは自分の人生の真ん中に先輩をおいていて、きっと一秒も迷ったことなんてない。


「あの子たちちょっとついていけないとこあるけどさ。でも、わたしなんて高校のときからずっと同じ人とつきあっててさ、そういう自分もちょっと、どうなのかなって、正直最近思っちゃうな」

「どうして?」

「人生でたった一人の人しか知らないって、現代ではちょっと化石みたいかなって、はは」

「え?そうなの?」


なっちゃんは相変わらず天然で、わたしが周りと自分を比べて感じているような違和感なんて露とも思っておらず、


「もうなっちゃんたら」


わたしは笑った。この子は本当に珍しい子だと思う。すごく純粋。年を取って人が身に着けてしまうほこりみたいなものが、この子にはくっつかない。


「本当にそういうところ、かわいいね」


しかもなっちゃんは自分で自分が無垢であるということを知らない。そこが魅力的で、先輩もきっとそういうところが好きなんだと思うけど。そしてそういう魅力をさっきまでここでぶっちゃけガールズトークをぶちまけていた歴々の方々は三回転生しても身につけることはないだろう。


「あの子たちはああやって彼女たちなりにがんばってるけどさ。でも、ああいう子をきっと中條先輩は好きだって思わないだろうな。やっぱりなっちゃんみたいな子じゃないと……」

「そうなの、かな?」


なっちゃんは半信半疑で、でもちょっと照れてる。


「なんか久しぶりに会って話せてよかったよ。自分は自分って思っててもさ、なんかときどき迷っちゃうからさ。周りの子に流されちゃうっていうか」


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