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彼女は牡丹 君は椿①  作者: 汪海妹
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なっちゃんの勉強













なっちゃんの勉強













清一













「お前が結婚してから」

「うん」

「俺の弁当がなくなったな」


僕は自分の席でなつが作ってくれた弁当食べながら、コンビニのサンドイッチを食べている同僚の佐倉君を横目で見る。


「それはどうせわけてくれないんだろ?」

「米粒ひとつぶもやらない」


佐倉君の視線を横顔に感じる。


「お前、一口も食べなかったけど、彼女料理すごい上手だったぞ」

「……」

「しかも、手のかかりそうなもんばっかだった」

「……」

「罪な男だな」

「もうそのくらいにしといてくれよ。罰は十二分に受けてると思うんだけど……」


佐倉君は確かにと言って、はははと笑った。


12月に結婚して、3月末に千夏が生まれて、今4月。3人で暮らし始めてきっと人生で今が一番幸せな時期なんだろうけど、結婚式からこっち、会社の中では男性はともかく女性陣から総すかんくらっていて、仕事上の必要最低限なやり取り以外口をきいてもらっていない。しかも頼んだ仕事は自動的に一番後回しにされるようになっている。どうしても急ぐことは自分でコピーをとったり、ホチキス止めしたりしないといけない。


「女の結束って怖いな」

「いつになったら終わるんだろう?これ」


正直こんなに長引くとは思わなかった。


「倉田さんに彼氏ができたら終わるんじゃないの?」

「佐倉君どうよ。おいしかったんでしょ?弁当」

「ずっとあなたの弁当が好きでしたって、告るのか?」


くくくくく、2人で笑う。でも、こんな会話してるのばれたら、きっともっとひどいことになる。


「悪い子じゃないと思うけど、なんかちょっと重いよな」


重いというか、相手が見えてないんだと思う、たぶん。恋愛は2人でするものなのに相手がどう思ってるかとか100%無視して1人で相撲をとっている。そのうち何かきっかけがあれば、倉田さんだって変わるかもしれない。誰だって変わろうと思えば、人間は変わる。


食事に誘われて、彼女いるからって断って、そしたら(頼んでないのに)弁当作ってくるようになって、断って受け取らなかったら、デスクに置いてくようになった。それを佐倉君に横流ししていた。1か月ぐらいだったかな?結婚の案内状を配ったときにそれがぴたりと止まり、やっと収まったと思ってたら、結婚式の二次会でなつにひどいことをした。だから、はっきり言ってこっちが被害者だと思ってる。でも、それでも彼女の論理では僕のほうが悪いらしく、あることないこと社内の女子の間でしゃべった。その結果がこれだ。


「あー、早く異動したい」


思わず口に出てしまった。けど、それはできない。言ってみただけ。子供が生まれたばかりのときに、2人の両親がそろってる仙台で暮らせるなんてチャンス普通はない。神様に感謝こそすれ愚痴ってはならない。それにしてもほんと幸福と不幸で相殺して、今、俺普通の生活送ってるな。うん。地獄に毎日通って、天国に帰るような生活だ。うん。


***


夜、やっぱり遅くなって11時ごろ家へ帰ると、テーブルにつっぷしてなつが寝ていた。テーブルの上に家計簿と料理の本が何冊かおいてある。NHKのきょうの料理。


きょうの料理を見ている奥さんの横でこの前聞いたことがある。


「料理に関してはNHKなの?」


なつがNHKを見る印象があまりなかった。


「小野田家はNHKは結構大切にしてるのよ。日本国民だからさ」

「今のご時世だとその発言は物議をかもしだしそうだけど、外で言うのはやめなさいね」

「そうなの?」


僕の話にはあまり興味なさそうにして、また画面に戻る。


「君ってさ、普通では考えられな いくらいテレビ見まくる人だけど……」

「うん」

「NHK見ている印象は正直ないんだけど」


彼女はまたこっちを見た。


「小学生の頃はNHKの教育テレビ、めぼしいものは網羅していたよ。出発点と言ってもいいの、わたしのテレビの歴史の」


テレビの歴史って、おい。そしてまた画面に戻る。彼女はテレビを見て、僕は彼女を見る。小さい頃から知ってるのに、まだ知らない顔があった。


結婚してからなつは料理の勉強をしている。勉強嫌いななつが勉強している。誰がしろと言ったわけでもない。もちろん僕も言ってない。でも、している。静かにこつこつと。


この人は、自分のために勉強することはなかったけど、僕のためには結構いろいろしてくれるんだ。昔から。


「なつ」


肩をゆする。


「うん……」

「ほら、春先でも風呂上りにこんなところで寝たら風邪引くよ」

「ああ、せいちゃん。お帰り~」


彼女は起き上がってうんとのびをした。


「なんだ。寝ちゃったんだ。わたし」


そして時計を見る。


「あ、まずい」


起き上がると千夏のところへ行く。授乳の時間過ぎちゃってたんだろう。僕は上着を脱いでネクタイを外してから、そばへいく。千夏の顔が見たかった。千夏はなつの胸もとでおっぱいを飲みながら目を閉じていた。満足そうに。僕はただじっとその様子を見る。


「飽きないの?ここんとこいつもそうやって見てるけど」

「飽きない」


ほんとうにかわいい。自分の子供って。


「なぁ、なつ。君、3時間ごとの授乳で疲れてるんだから、俺の帰ってくるの待たないで眠かったら寝てろよ。先に」


なつは僕のその言葉に何か言いたそうにした。でも口を閉じた。


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