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「じゃあ…よろしくね?」
「はい、よろしくお願いします」
差し出された彼女の手は、あたたかくて柔らかかった。
―その後、恋人としての付き合いが始まった。
恋人としてデートしたり、電話やメールをしたり。
彼女はとても人気のある人で、男子生徒からはふざけた様子ながらも本気でどつかれたことがあったり…。
何やかんやで、彼女と付き合って1年近く経過した。
楽しい時間はあっと言う間で、オレは先輩から図書委員の副委員長の座を譲られた。
3年になる先輩方は受験の為に、いったん身を引くからだ。
付き合ってみて知ったことだが、彼女は本当にキレイで可愛らしい。
…まあ恋人だから、夢中になっている自覚はあるけど。
だから不思議に思うこともある。
「先輩は…何でオレを選んだんです?」
「ん? 副委員長のこと?」
学校の帰り道、一緒に歩く彼女は1年前と変わらずキレイで可愛い。
「それもありますが…やっぱり恋人のこと。先輩、モテるでしょう? それこそオレという恋人ができた後にも告白されるぐらい」
「うっ! どこでその情報を…」
「入ってくるもんですよ。先輩、ウワサになりやすい人だから」
「ううっ! でっでもちゃんと断っているわよ! わたしにはあなたという恋人がいるからって!」
「『別れてからでもいい』、あるいは『二番手でも構わないから』とも言われているそうで」
「なっ何でそこまで知ってるの?」
「実は情報源、先輩のお仲間だったりしますから」
「アイツらぁ~!」
怒っていても、可愛い人。
オレはつないでいる手を少し強く握った。
「先輩、でもオレ、年下だからってワガママ言いません。受験勉強に専念したくなったら、言ってくださいね?」
「…あなたは年下だけど、わたしよりしっかりしているわね」
上目遣いに睨まれたって、怖くない。
「ええ、先輩に嫌われたくないですから」
「キライになるワケないでしょ!」
「でも不安ですよ。オレの方から先に、好きになったんですし」
「すっ好きになるのに、先も後も関係ないでしょ! あっ愛情で大事なのは、深さなんだから!」
「そうですね。オレは先輩に深く愛されていますしね」
「なっ!? あっあなたって人はー!」
ポカスカ叩かれるも、痛くない。
「んもうっ! …副委員長に任命したのは、あなたが年不相応にしっかりしているから! こっ恋人に選んだのは…」
真っ赤な顔で眉をしかめながら、彼女は言った。
「うっ運命かな?って思ったからよ」
「運命?」
「そっ。だって出会い方、ある意味フツーじゃなかったでしょう?」
「…まあそうですね」
天気が不安定な日に、普通の人は訪れないであろう山登りをして、出会ったのだから。
「出会い方もアレだけど…。次の日、同じ委員会で再会するのも、運命的でしょ? …しかも告白してくるんだから」
「告白は運命じゃないんですか?」
「…それだけは予想していなかったわ」
「ははっ」
「しかも一目惚れなんて…。逃げ出した女の子に言う言葉じゃないわよ」
「逃げられたんですか? やっぱり、アレは」
「ひっ人に見られると、マズイ現場だったから」
後から聞いた話だと、細かい打ち合わせにイヤ気がさして、ウソをついて委員会を抜け出したらしい。
なのに同じ学校の制服を着ているオレを見つけて、慌てて逃げ出したらしい。
だからオレがはじめて声をかけた時、知らぬフリをしたのだ。
「ウソはいけませんよ、先輩」
「わっ分かっているわよ! 十分に反省しました!」