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「でも先輩はこれから大変ですね。受験勉強。少しランクが高いんでしょ?」
「ううっ…! 言わないでよ。くじけそうになるから」
「まだ時間がありますから、じっくり頑張ってください」
「う~…」
本気で落ち込みかけている彼女を見て、ちょっとかわいそうな気がした。
ちょうどそこで、あの山を通りかかった。
「先輩、気晴らしに花見しましょうか?」
「花見? あっ、この山…」
「はい、先輩とはじめて出会った山です」
まだ桜は咲き始めといったところだが、それでも屋台はもう出ている。
「何か食べましょうよ。奢りますよ?」
「ホント? じゃあクレープ食べたい! イチゴの!」
嬉しそうにオレの腕にしがみついてくる行動は、年上とは思えないな。
「はいはい。じゃあ行きましょうか」
屋台でクレープを買って、二人並んで頂上を目指して歩く。
「ここに来るのも久し振りね♪ 最後に来たのはお正月の初詣だったかしら?」
「そうですね。合格祈願参りしましたから。そこでお守りを先輩に買ってあげましたね」
「来年はわたしが買ってあげるね」
「もし先輩が合格したら、そのお守りをくださいよ」
「『もし』って何よ!」
「だってまだ、決まったわけでもないですしねぇ」
「う~! あなたってそういうとこ、イジワルよね」
「先輩があんまり可愛いから、イジメたくなるんですよ」
「…そういう恥ずかしいことは、アッサリ言うし」
「先輩の彼氏ですからね」
「ふぅ~んだ!」
彼女はむくれながらも、黙々とクレープを食べる。
やがて頂上にたどり着く頃には、2人ともクレープを食べ終えていた。
「う~ん。さすがにまだ満開まではいかないけど、コレはコレでキレイよね」
「そうですね。一斉に咲くのもキレイですけど、少しってのも良いもんですね」
彼女は駆け出し、あの木の下に立った。
そしてそっと、咲きかけの蕾に触れる。
「この分なら、あと10日ってとこかしら?」
「そしたらまた寄りましょうね」
「うん! もちろん!」
彼女が笑顔で、蕾をなでる。
その姿に、昨年の彼女の姿が重なって見えた。
―あの時、同じ学校の生徒だと分かっていても、消えてしまったことに、ひどく心が揺れ動いた。
きっとそう…あの感情は『悲しみ』。
喪失感から生まれた、負の感情。
彼女は本当に存在したのか?
もしかしたら、本当に幻だったのではなかったのか?
そんな考えが駆け巡ったから…。
思わず胸を押さえると、いきなり、あの時のように突風がふいた。
「きゃあっ…!?」
彼女は驚いて、蕾から手を離した。
乱れる黒髪で、彼女の顔が見えなくなってしまう。
オレは駆け出していた。
「先輩っ!」
突風から彼女を守るように、とっさに抱き締めていた。
消えないように、逃げないように。
強く、強く―!
…しばらくして、風はやんだ。
けれどオレは彼女から離れなかった。
「えっと…、風、やんだわよ?」
腕の中で、彼女が恐る恐る声をかけてきた。
「そう…ですね」
少し力を緩めると、彼女は顔を上げた。




