第二話 届かぬ想い
「村の方からまた上ってきたぞ!」
「東の林からも来ている、3‥いや4体!」
「取り付いてる奴には切り出した石を落とせ、足を滑らせるなよ」
「ブルーノ!来るぞ!」
「おう!手前の奴だ、掘に落ちた瞬間を狙う!一斉の声をあげろ!」
間近まで迫っていた化け物の足が掘の縁へかかる
「いち!」ひときわ大きいブルーノの声を合図に男達が武器を構える
ドスン、という鈍い音とともに地を響かせ掘へ着地する化け物
「に!」男達の気迫に満ちた声が空気を引き締める
落下による衝撃で体を縦に大きく揺らし、化け物の動きが止まった
「さん!」一斉の声とともに男達より放たれた無数の石つぶてが化け物の頭部へ襲いかかった
ボン、ボン、と布団を叩いた時のような、くぐもった破裂音が連続して響く
それが化け物の頭についてさえいなければ、美しいとも思える丁寧な造形の傘は、いびつに歪み
巨大な太い胴に、ぐるりとにじみ出た一筋の黄色い線からは、やがて樹液のように体液が溢れだし、地面を黄色く染める
巨大な体がゆっくりと傾ぎ、化け物は静かに歩みを止めた
「よし!仕留めた!」
「ハッざまぁみやがれ!」
この日何度目かになる男達の勝ちどきが上がり、その光景に岩の中心部で集まり作業をしている女達の間に安堵の声が広がる
「また倒したみたいよ」
「この分なら大丈夫そうね」
「はぁ、ブルーノさん格好いいわ」
作業の手をとめ男達に魅入っている若い女達は、この状況においても会話を楽しみたいのか緊張感のない軽口を叩きあっている
「はいはい、しゃべってないで仕事仕事」
パンパンと手を打ち鳴らし場を引き締める声に「はーい」と返し、若い女達は作業へと戻った
手に持っていたハンマーをゴトンと地におろし柄に手を置き、空いている方の手では強かに流れ落ちる汗をせわしなく拭う
『やれやれ、この子達は危機感がないのかね』
髪をまとめあげ腕まくりをした女性は、この集団の中にあって一際目立つ大きな体を反らせて伸びをすると、ふぅと息を吐き出し肉体労働で張った体から力を抜いてあたりを見渡した
岩上への登り口には10人程の男達が集まっている、手に手に武器を持つ彼らは30代を中心とした現在の狩猟において主力となっているメンバーだ
その中の1人、片手に弓を持ち皆に指示をだしている男、その姿は堂に入っており実に頼もしげである、ついでに言うと顔も良い
『ほんと、良い男になったもんだ』
いつも私のあとをチョロチョロついてきていた幼かった彼の姿が重なり、ふいに感傷めいた気持ちが心に生まれた
『らしくない』
我ながら柄にもないことをと苦笑いで頭を振り、まだ自分の中にいたらしい少女的な部分を追い出した
「さて、やるかね」
腕まくりをして気合いをいれなおした彼女がハンマーを振りかぶると、周囲にいた女達は慌てて離れ、跳ね上がる飛礫に備えて顔をそむけた
「カーン」濁りのないキレイな金属音が響きわたり、大きなトゲのように岩へ刺さっていたクサビがさらに深く埋まる
ずっとひとつであった大きな岩は、2つの姿へ分かたれた。
「ブルーノ、状況はどうかの?」
「いま8体目を倒しました、皆の意気も盛んでよくやってくれています、ですが‥」
「キリがないのう」
「はい」
村長の視線の先に目を向けると、村の方角より新手の化け物が1体、またも姿を現していた
「こんな数ははじめてです、やはり64地区の砦が陥落したのが原因でしょうか」
我々の村がある71地区は、いまや魔軍の本拠地となっている王都のあるエリア8に隣接する地域だったために、早々に魔軍の支配下へと落ちた
しかし72地区の広大な湖に囲まれる立地のおかげで、拠点は押さえられていても積極的な侵略行為にはさらされずにいた
だが先日、71地区から地続きである64地区の砦が陥落し、そこから大量の魔軍が押し寄せてくるのではないかと人々の間で危惧されていた
「それもあるじゃろう」
「それ、も?ですか?」
71地区は田舎であり、そこに住まう人の数は少ない
64地区を制圧し、眼前には多くの人々が住む未踏の地が広がっている
ケモノが目の前にぶら下がる極上のエサを無視して、わざわざ後ろにある粗末なエサに興味を示すだろうか
との村長の言葉に、なるほどと頷きを返す
「では、原因はなんでしょうか」
「‥‥」
化け物の行動理念を推し量ることなど出来ないのだろう、口をつぐんだ村長の顔をチラリと伺った
村長は、切り出された石を運んでは掘に転落した化け物に向かって投げ落としている10代の若者達を眺めていた
これからの村を背負って立つ、まだまだ未熟な彼らもまた生を勝ち穫るため必死に戦っている
村の未来そのものである彼ら子ども達は、なにがあっても守り抜かねばならない、それがお前の役目である、そう諭された気がした
「となり町で噂を聞いての」
ふいに放たれた言葉に村長へと顔を向ける
「とある1人の男がおってな、凄腕の配管工である男の技術は、それは素晴らしいものだそうじゃ」
なにを言い出したのだろうか、唐突にはじまった内容の掴めない話に疑念を感じつつも、黙って次の言葉を待った
「その男がのう、協力しておるらしいのじゃ、魔王に」
別にめずらしいことではない、命惜しさに自ら魔軍の奴隷へと身を落とした人間は大勢いる
なにを選択するかは個人の自由だ、俺は狩猟の際に皆を指揮する狩長役を村長から譲渡されたときに、村のために死ぬ覚悟を自らに誓っている
協力するならすればいい、それがそいつの選択した命の使い方なのだろうから
「早すぎると思ったこと、あるじゃろ?」
いまだ要領を得ない話に少し語気が荒れる
「なにがでしょうか」
「魔軍の進攻が、じゃ」
ハッとして村長へ顔を向けた、それは以前から思っていたことだ
王都を落とした魔軍はその勢いのままにエリア8全域へと戦いの場を広げた、そしておよそ3ヶ月、魔軍がエリア8を支配下に置くまでにかかった日数である
にもかかわらず、エリア7へと戦いの場を移した魔軍は、わずかひと月足らずでエリア7の全てを支配したのだ
確かにエリア8には王都が存在することもありそこに住む人の数は多い、激しい抵抗に合い制圧に時間がかかったとも考えられる、しかし実に3倍もの差を埋める理由にしては弱いと思わざるをえない
急激に上昇した魔軍の進攻速度、その背景にあるモノはなんなのか、以前から人々の疑惑の対象として議論に上っていた懸案が、まさか1人の人間が引き起こしているなどとは、まるで夢物語のようで一概には信じることができなかった
「ですが‥まさかそんな、1人の人間の仕業とは‥」
「まぁそうじゃろうの、ワシとてすべてを信じているわけではない」
だがな、戸惑う私に村長はさらに続ける
「男の技を目にした者は、一様にして同じ感想を持つらしい、まるで魔法を見ているようだった、とな」
村長は言葉を失った私へとゆっくり顔を向けて、はじめて正面から私の目を見据えた
「ワシに何かあった時は村はお主に任せる、皆の良き導き手となってくれ」
「なにを‥‥」重大すぎる言葉に、もう何が起きているのかわけが分からなくなる
グッと村長の顔が息のかかる距離まで近づく
「この村にその男が現れることがあれば‥」
本能が聞くなと叫んだ気がした
「ワシが殺す」
ひどく小さいしゃがれた声でささやかれた言葉に、奈落の底へと突き落とされた恐怖を感じた
その後、何かを伝えるように、だが何を語ることもなく村長は俺の目を見つめ続けた
そして、ふっと顔を離すと俺の肩にポンと手を置き
「ま、当座の問題は今のこの状況じゃがの、なんとかせいブルーノ」
普段の語調に戻った村長は、好好爺全開の笑顔を俺に向けた
この人にかかっては俺はいくつになろうとも子どものままだろうな
村長に聞かせようと、わざとらしく大きな溜め息をついた
俺の反応に満足したのかホッホッと笑い、どれワシもキノコ狩りをしようかの、と言い残すと若者達の集まっている場所へと歩いていった
「ブルーノ来てくれ!また取りつかれた!」
戦いはまだまだ終わる気配を見せない
「おう!」
仲間のもとへと走る
「ちょ、村長!?」
「危ないですから、さがってください!」
「ホッホッホ」
若者達の集団は岩下へと取りついた化け物へ石を落としていた、しかし戦い慣れてない未熟な彼らは互いに連携を取ることを知らず、それは自らの立ち位置を計ることができないことに繋がった
投石ばかりに意識が集中する彼らは、互いに押し合うようにして石を拾っては投げている
岩上の縁で行われるその光景は、いつか味方に押しだされて落下する人間がでるのではないかと容易に思わせるものであった
だが突然の珍入者により若者達は攻撃の手を止めた、両手で石を抱えてヨタヨタと歩き廻る村長にぶつかって倒しでもしたら一大事と、ワイワイと騒ぎながら距離をとる
村長がひとつ足をだすごとに密集していた若者達がひとつ広がった
横目で見るその光景
『かくあるべし』
あなたの代わりなど俺には出来ません、俺達にはあなたが必要なんです
だから、もしその時があるなら、それは俺の役目だと思うのです
幼い頃よりずっと見てきた年老いた指導者、尊敬してやまないその人の背中に、俺は心の中で決して許されないであろう許しを乞うた。
書いているうちに止まらなくなったというか‥
脱線したまま爆走中というか‥
すっかり本線から外れてしまいました(遠い目)
ですが、書くことには慣れてきました、少しは読み易くなっているのではないかと思っています。コレ書きたい、アレも書きたいと、その場の勢いで加筆しているワガママ状況なので、かなり散らかった文章になっていますが(汗)それを纏める力がないことを痛感して四苦八苦です
第二話は、もう少し続きます、だらけた文章にならないよう頑張ります




