第二話 落ちゆく
彼の化け物を見て真っ先に思うところは、茶色の巨大なキノコ、おそらく誰に聞いてもそう答えるだろう
巨大な切り株が傘をかぶり足というにはおこがましいほどに不恰好な2つのだんご足を器用に引きずって歩く、知能は皆無に等しく、たったひとつ与えられた自我である「食欲」を満たすために、死ぬまで歩き続ける生物、人々に化け物と呼ばれ忌み嫌われるその存在をこの世に産み落としたのは神なのか悪魔なのか、それを知るすべはないがこれだけははっきりと言える、どちらにせよ、ろくでもない奴に違いない。
「マリー!どこにいるのマリー!」
「ここよ、お母さん」
「早く来なさい、避難するのよ!」
「うん、わかった」
慌てる母は、緊急時の備えとして常備している保存の利く食料をこれでもかと詰めこんだ麻袋を肩に担ぎあげ、娘をグイグイと引っ張って走る。
まだ走りはじめたばかりだというのに母の額には大粒の汗が浮かび、向かいに住んでいるジョンのように、せわしなく空気を吸っては吐いている
『ジョンもちゃんと逃げてるかしら』
こっそりと”死んだふりを”を仕込んでいる勝手知ったるよその犬のことを考える、しかしそれもつかの間
『うーん、ジョンよりお母さんが心配になってきたわ』
食料でパンパンになった袋を担いでいるせいなのか、それともドングリでパンパンになったポケットの娘を引っ張っているせいなのか、はたまたひと月は食べなくても大丈夫そうなパンパンのお腹のせいなのか、最近では「同じ物を食べてるのになんで私だけ!」が口癖になってきた取組後の力士、あ間違えた、うつろな目でスリ足の稽古中のお母さんを引っ張る
「お母さん、がんばって」
「メニューじゃないよ、量が問題だと思うの」
おかわり3杯目からが食事のはじまりよ!が信条の母は、どさくさに紛れて発射された娘の真理に耳を傾ける余力すら残っていなかった
その後、一緒になって避難していた村の若い男の人が母の運搬を手伝ってくれて、なんとか避難所まで無事たどり着くことができた
『すまん、若者よ』
最初、荷物を持ってあげようと麻袋に手をかけ母の盛大な威嚇を受けた青年は、疲れきった背中を見せて去っていった
「お母さん、やせなきゃダメだよ、私ちょっと恥ずかしいよ」
「ぜぇ‥う‥ぜぇ‥うん‥ぜぇ‥ごめ‥ね‥ぜぇ‥」
これで少しやせたかな、息も絶え絶えな母をハンカチでぱたぱたと扇ぎながら、お母さん頑張ったねと心の中で褒めてあげた
「ぜぇ‥マ‥ぜぇ‥マリー‥」
「え?なぁに、お母さん」
「ぜぇ‥おなか‥ぜぇ‥すいた‥」
そして私は扇いでいたハンカチをそっと母の顔にかけた
巨大な一枚岩、高さは5メートルほどだが、上部は切り取ったかのようになだらかにひらけており、ゆうに数百人は乗れるであろうその岩の上には、実際に300人程の村の人達が避難している、私はその岩の際に立って下を覗きこんだ、岩の外周に沿って掘られた穴の深さは2メートルくらいだろうか、穴の底から見上げれば岩の高さは7~8メートルにもなるだろう、空堀の存在がただの岩をちょっとした砦のように変身させるから、たいしたものだと思う
ひとり「うんうん」と頷いていると、ふと視線を感じてふり返る、一匹の犬がこちらを見ていた
「あ、ジョンだ」
そうつぶやいた瞬間ジョンはダッシュした、私の逆方向へ
「チッ逃げられたか」
まだまだ調教不足ね、新たな決意と目標を手にいれた私は緩む口元に笑みを浮かべて大人達が集まる場所へと足を向けた
大人達、それも男の大人達が岩の隅に寄り集まっているのは私達がこの岩へと登ってきた位置、堀には人ひとりがギリギリ渡れるだけの意図的に小さく作られた吊り橋架けられている、そこを渡り下から縄梯子を使ってこの岩へと登ってきた、その際の母の姿といったら‥荷揚げ?わかんない、私こどもだもん
「おや、マリーちゃん、なにか用かい?」
「キノコお化け来た?」
「いや、まだ来てないよ」
話しかけてきたオジサンの手には大きな弓が握られている、普通の獣の狩りではまず使用することはない無駄と思えるほどに大きな弓、村は生計の大半を狩猟でまかなっているため、男達は皆ひとしく屈強な体つきをしている、しかしそれでもなお、オジサンが手にする弓を引くことのできる男は数人しかいないらしい、以前得意気に語っているのを聞いたことがある、男はいくつになってもこどもだ
なぜそれほどまでに強い大弓が必要なのか、その理由は私の足もと、ムシロに包まれた矢束にある、樫の木より削りだされた矢は長大なスリコギ棒と表現した方が似つかわしく、その太い胴体の先には人の握り拳大の丸い石が矢尻として取り付けられている、幼いころより弓に慣れ親しんできた男達が作った対化け物用の武器だ
化け物に効果のある唯一にして必殺の方法、それは頭頂部へ強い打撃を与えること、ただ並みの衝撃では倒すに至ることはできないために、大弓や、投擲に使用するスリングという武器を使い石を飛ばして化け物の頭頂部に集中砲火を浴びせ続け、ようやく倒すことができるらしい
ざっと辺りを見渡すと岩上のあちこちに、投擲用の丸みを帯びた石が小山を作っていた
「正直に言えば来て欲しくないんだけどね」
「そりゃそうだ、戦わずにすむのなら、それがいちばんだ」
彼らの名誉のために言う、決しておびえているのではない、彼らはすでに何体もの化け物を倒してきた実績を持っている、しかしだからこそ相手の怖さを深く理解できているのだ
「一匹来ると十匹は来るからな、ゴキブリみたいなヤツらだぜ」
忌々しげに男が吐き捨てた
「ああ、撃退できるだけの数で収まってくれればいいが‥」
オジサンのつぶやきにも似たその言葉に、男達は一様に不安な顔をのぞかせた
改めて序盤の話を読み返したのですが、良いものを書きたいという気持ちだけが空回って結果灰汁が強くなってるというか‥。
書き直そうかと考えましたが、気持ちが萎えてしまいそうなので、ひとまず完結まで書いてしまうことにしました。
今回の話は肩の力を抜いて書いたつもりです、そのへんが伝わってくれると嬉しい。
だらだらとした文章になってるうえに、話変わってんじゃん!と思うかもしれませんが勘弁です。
なんとか上手くつなげていきますゆえ‥。




