第48話 破綻令嬢は再び料理対決をする
「チキチキ、第一回、ロシュフォール家・神の料理対決〜〜〜!」
極寒の永久凍土に包まれた北の砦。
その中央食堂にて、今、歴史に残る(あるいは黒歴史になる)料理対決が始まろうとしていた。
「はい、全世界の皆様、奇跡のお時間です! 司会は私セイ子がお送りします」
セイ子が遠隔配信魔道具に向かって手を振っている。
「……セイ子、なんで配信してんの?」
「え……? メシ子様の神事なので……」
「これ信者の人たちどういう気持ちで見てんの?」
「伊東さん、ありがとうございます」
「投げ銭来てる!」
私の困惑をよそに、セイ子の司会は続く。
「では、審査員はこの三名!」
セイ子が指し示した審査員席には、三つの影があった。
「王国騎士団第三位、ヤッコロさん!」
「期待している」
「そのヤッコロさんを救った、白馬のゆうしゃさま!」
「ブルルヒン」
「あれちょっと待って?」
「そして、料理獣クシュビュフ!」
「ギョギョギョギョギョ」
「だからちょっと待って?!」
百歩譲って白馬のゆうしゃさまはいいとして、料理獣?! 料理長の中に眠ってんじゃないの?! 実体化してんじゃん!
「まともにしゃべれるのがヤッコロしかいないんだけど」
「失敬な。私をその辺の馬と一緒にしないでいただきたい」
「ゆうしゃさま喋った?! なんで?!」
「あの奇跡のポーションを口にして、自我に目覚めたのです」
「マジの奇跡起きてるんだけど」
「ギョギョギョギョギョ」
「あ、こっちは喋れないんだ」
私のツッコミを置き去りにして、司会進行が続く。
「ではヤッコロさん、お題発表お願いします!」
「お題は『おにぎり』だ。シンプルなだけに奥深い。それは剣も同じだ。一見なんてことのない縦振りにこそ、剣の極意が……」
「始めてください!」
ヤッコロの語りが続く中、料理対決が始まった。
料理長が上裸の筋肉をピクピクさせながら、感慨深げに語りだした。
「極東でワシが野垂れ死にそうになったとき、ミウミウがくれたおにぎり……あれが、すべての始まりだった……」
「思い出の料理じゃん。絶対私負ける流れじゃん」
「この料理対決が終わったら、ワシ、極東に戻ってミウミウにプロポーズするんだ……」
「死亡フラグ立った?! ていうかミウミウって老師の孫でしょ? 年の差すごくない?」
「愛に歳は関係ない。確かに彼女は78歳。ワシより15も歳上だが」
「料理長のほうが若いパターンの年の差だった?!」
衝撃の事実に驚く暇もなく、料理対決は始まった。
***
「では、先行は料理長!」
「フッ、味わうが良い!」
ズドン!と音を立てて審査員席に置かれたのは。
「……米粒?」
「これがおにぎり?」
ほんの小さな白い塊だった。
「ともかく、いただくとしよう」
審査員のヤッコロがそれを口に運ぶ。
「これは……ッ!」
その瞬間、ヤッコロの背後で銀河が爆発する幻覚が見えた。
「なんて重い……なんて質量の『おにぎり』なのだ!」
隣の白馬が両手(脚)を組んで語り出す。
「このようなおにぎりは、食べたことがありませんね」
「いや普通のおにぎりも食べたことないでしょ」
「これはどのように作られたのですか?」
料理長はマッスルポーズを取りながら語り出す。
「山の如き米を、我が両の腕でひたすらに凝縮したのだ。名付けて『白世界』!」
「それ米の良さ死んでない?」
「これこそが、料理の極意。すなわち『身体是道具也、道具是身体也』!」
料理長は、両腕をクロスして力強く天に掲げる。
ヤッコロが米を噛み締めながら、感涙を流し始めた。それに、他の審査員たちも続く。
「一口食べただけで、数万粒の米の質量が脳を直撃する! なんと重い! これは世界そのものだ! この世の喜びも悲しみも、すべてがこの一粒に凝縮されている……ッ!」
「ただの米だよ?」
「ええ、まるで一冊の良質な小説を読み終えたかのような、そんな感動が胸を打ちます」
「コメントこなれすぎてない?」
「ギョギョギョギョギョ」
「逆になんか安心するわ」
対して、私はといえば。
適当に炊いたご飯を、適当に手でギュッギュと握ったものを出した。
「えーと、これですわ」
「……」
あまりの普通さに、会場が静まり返る。
「うん、おにぎりだな」
「はい、おにぎりですね」
審査員たちが普通に食べる。
「うん、極めて普通の……いや、中の下くらいの……」
「微妙に形も悪いし、塩気も微妙に収まりが悪いというか……」
「ギョギョギョギョギョ」
反応がリアルすぎる!
ラップがないわりに頑張ったほうだから!
それにちゃんとお腹は膨れるんだからね!
料理長はその反応を見て、勝利を確信したように大胸筋をピクつかせた。
「では、判定です!」
「フッ、聞くまでもあるまい」
「……勝者、メシ子様!」
「えっ?!」
「なんで?!」
私もビックリだよ。
料理長が、審査員たちに食ってかかる。
「バ、バカな……! 私の『白世界』が、そんな素人の握り飯に……!? なぜだ、審査員諸君!」
ヤッコロが申し訳なさそうに口を開く。
「いや、料理長のおにぎりは確かにすごかったが、料理としておいしいかと言われると……メシ子殿のほうが、普通にパクパク食べられておいしかったな」
「ええ。正直『白世界』は量も物足りなかったですしね」
料理長がなおも納得いかないように叫ぶ。
「だが、あのようなおにぎりもどきに……っ!」
「ギョギョギョギョギョ」
そのとき、料理長の言葉を遮るように、料理獣クシュビュフが料理長になんか言った。
「な、なんだと?」
「ギョギョギョギョギョ」
「ワシが間違っていたというのか?!」
「ギョギョギョギョギョ」
「き、貴様ーッ!」
「会話するならちゃんと通訳してくれない?」
二人だけの会話のあと、クシュビュフはサァーっと消滅した。
「待て! クシュビュフッ! クシュビュフーッ!」
料理長は膝から崩れ落ち、ボロボロと涙を流し始めた。
「そんな……私の極東での死闘は、老師チャオフェンとの誓いは、一体……!」
そんな料理長に、私はそっと歩み寄り、肩をポン、と叩いた。
「料理長」
「お、恩人殿」
「普通に料理して」
「普通に、料理して……ッ?!」
ちなみに投銭はめちゃくちゃ集まった。




