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料理長は料理対決をする

 ワシは料理長。

 ロシュフォール公爵家の、誇り高き料理長だ。


 昨晩、下着姿の恩人殿――メシ子殿から「本当の破綻飯を見せてあげる」と謎の宣戦布告を受けたワシ。


 なぜか今日、恩人殿と料理対決をすることになった。


 全く意味がわからない。ワシ、これでも料理長だから結構忙しいんだけど。


 ただ、料理人としての血が騒がなかったわけではない。


 彼女は言った。「刺激が足りない」と。


 ならば見せてやろう。宮廷料理の洗練された技術と、極上のスパイスが織りなす『究極の刺激』を!


 ワシは自信作の入ったワゴンを押して、決戦の地である大食堂の扉を開けた。


「さあさあ、始まりましたわ! チキチキ、第一回、ロシュフォール家・炎の料理対決〜〜〜!」

「チキチキ……?」


 食堂に入るなり、高らかな声が響いた。


 長テーブルは審査員席のように配置換えされており、中央で恩人殿(下着姿)が木のスプーンをマイク代わりに握って司会をしている。


(ん……?)


 司会もやるの? 忙しくない?


「審査員は、この館の主である奥様! そしてヤッコロ! 最後に、メシ子でお送りいたしますわ!」

「おおーっ! 楽しみだ!」

「ですわー!」「ですわねー!」


 審査員席から歓声と拍手が上がる。

 ワシはワゴンを押しながら、その光景を見て完全に足が止まった。


(……えっ?)


 審査員席には、ドレス姿の奥様とヤツネお嬢様。そして、恩人殿(下着姿)が座っている。

 さらに、その後ろで「ですわー!」と歓声を上げながらうちわを仰いでいる恩人殿(下着姿)が二人いる。


 司会が一人。審査員が一人。ガヤが二人。

 計四人の恩人殿が、そこにいた。


(増えとる……!)


 ふと床を見ると、昨日恩人殿から出たドロドロが残っていて、そこから小さい恩人殿が生まれ出ていた。


 え、クローン?


 恩人殿、本当に人間? 屋敷に招いて大丈夫な存在?

 というか奥様とお嬢様も、なんでこの状況受け入れてるの?

 そして自分で審査員もやるってズルくない?


「それでは先行! 料理長、カモンですわ!」

「は、はいっ!」


 いかん、料理に集中せねば。ワシはプロだ。

 ワシは気を取り直し、ワゴンから料理を取り出した。


「お題である『刺激』にお応えし、ご用意いたしました。特製の熟成チーズと、西方大陸から取り寄せた十数種類のスパイスを贅沢に使用した『究極の黄金リゾット』でございます」


 蓋を開けると、芳醇なチーズの香りと、食欲をそそるスパイスの香りが大食堂いっぱいに広がった。


「おお……! 美しい黄金色だ……!」

「なんて素晴らしい香り……」


 ヤツネお嬢様と奥様が、目を閉じてうっとりと天を仰ぐ。

 そして一口スプーンで運ぶと、優雅に咀嚼し、感嘆の吐息を漏らした。


「美味い! スパイスの刺激が強烈でありながら、チーズのまろやかさがすべてを包み込んでいる! 絶品だ!」

「ええ、体が芯から温まるわ。さすがは我が家の料理長ね」

「マジでドチャメチャ美味いですわねこれ」


 分裂した恩人殿たちも「美味いですわー!」と頷いている。


 ワシは厨房の神に感謝した。勝った。この反応は、文句なしの完全勝利だ。


「さあ、後攻はメシ子さんですわ!」


 厨房からワゴンを押して、もう一人の恩人殿が出てきた。これで計5人。もう何も驚くまい。


 恩人殿は、ドンッ!とテーブルに大きな器を置いた。


 中に入っていたのは、ワシが厨房で炊き上げた、ツヤツヤの最高級白米である。

 それ使ったら、半分ワシの料理じゃない?


「出すのはこれ! 『背徳の白銀マヨジンジャー丼』ですわ!」


 恩人殿は、懐から面妖な半液体と、昨日奥様を蘇生させたという「おろしショウガチューブ」という代物を取り出した。


 そして、純白の白米の上に、これまた謎の乳白色の物体を親の仇のように大量に絞り出し、さらにショウガチューブをドバドバと投下した。


 最後に、それをスプーンでぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


(ひぃっ……! ワシの炊いた極上の白米が……ヘドロみたいに……!)


 あまりの冒涜的行為に、ワシは卒倒しそうになった。


「さあ、おあがりなさいませ!」


 恩人殿が、その白と黄色のドロドロの物体(丼)を奥様とお嬢様に差し出す。


「ごくり……」


 ヤツネお嬢様と奥様が、喉を鳴らした。

 そして、スプーンを手に取ると、一気に口の中へとかき込んだ。


 瞬間。

 二人の目が見開き、血走った。


「これだァァァァッ!!」

「はしたないッ! なんてはしたない味なのッ!!」


 上品にリゾットを味わっていた先ほどまでの貴族の顔は、そこにはなかった。


 理性を失った獣のように、器に顔を近づけ、無言で丼を貪り食っている。


「強烈なショウガの刺激! それを無理やり油分でねじ伏せるマヨネーズの暴力! 米が進む! 無限に米が食えるぞ!!」


「ダメよ! こんなの公爵家の人間が食べちゃダメなのに! 背徳感が……背徳感がスパイスになって手が止まらないわァァァ!」


 ガツガツガツ! ムシャムシャ! おかわり!


 なんというテンションだ。ワシの究極のリゾットの時とは、熱狂の度合いが桁違いではないか。


 ワシは敗北を悟り、ガックリと膝をついた。


 これが、人間の業。


 どんなに高級な料理を極めても、人は理不尽な刺激には勝てないのだ。


「ふぅーっ! 食べた食べた!」

「満足だわ」

「もう食べられないですわ」


 やがて、空になった丼を前に、全員が腹をさすって息をついた。


「それでは、判定にまいりますわ!」


 司会の恩人殿が宣言する。

 ワシは目を閉じた。負けた。ワシの料理人人生はここで終わりだ。


「勝者は……料理長!!」

「えっ」


 ワシは目を開けた。


 見れば、奥様も、ヤツネお嬢様も、そして審査員席のメシ子殿も、全員が「料理長」の札を上げているではないか。


 満場一致。ワシの完全勝利であった。


「まあ、そりゃそうですわ」


 恩人殿が、口についた汚れを上品に拭き取りながら鼻で笑った。


「料理長の作ったリゾット、ドチャメチャに美味かったですし。私のやつ、ただご飯に調味料ぶっかけただけですし」

「ええ。冷静に考えなくても、あんなドロドロの得体のしれない米より、料理長のリゾットの方が圧倒的に美味しいに決まってるわ」

「うむ。比べるまでもない勝負だった」


 ……。


「そりゃそうですわ……?!」


 ワシの魂の叫びが、大食堂に虚しく響き渡った。


 じゃあ、さっきまでワシの米を獣のように貪り食ってたあの熱狂はなんだったのだ。


 ワシはもう、何もわからなくなっていた。


***


【今日の破綻飯】


 やあみんな! メシ子だよ!

 鍋の締めは直飲み派だよ!


 今日のメニューはこれ!


 テッテレー!


★No.0013『背徳の白銀マヨジンジャー丼』

 材料: 白米、マヨネーズ、生姜チューブ

 調理時間:10秒

 破綻度: ★☆☆☆☆(うまい)


 丁寧な料理を食べたあと、口の中をグチャグチャにしたくなるときってあるよね!

 そんなときはこれ!

 白米にマヨネーズと生姜を混ぜるだけ!

 コクと刺激が味覚を最高に導くよ!

 でも人んちではやるなよ!


 それじゃあ、またね!

 「高評価」と「胃薬(お気に入り)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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