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131 「全体閣議(1)」

 ・竜歴二九〇四年八月二十三日



 三日前の重臣達による閣議を踏まえ、この日の午前10時に秋津竜皇国の全ての閣僚が参加する閣議が開催された。

 議題はもちろんタルタリアとの戦争。

 特にアキツが勝利したので、戦争をこれで幕引きにできないかというのが主な議題となる。


「それでは本日の全体閣議を始めさせて頂きます」


 司会進行役の太政大輔の石見がそう切り出すと、太政官の白峰がまずは参加者全員を軽く見渡す。

 各省の長だけで13名。内務省の大きな部署の局長が4名。それに大きな総督府、自治州、保護国の長または代表が10名。これだけで閣議室の椅子はほぼ満席なので、それぞれの大輔、次官は出席していないか別室で待機している。


 全体閣議以上となると、竜皇の前で行われる御前会議しかない。

 つまり、国家としてとても重要な集まりになる。

 また資料を見つつの閣議なので、机を囲んでになる。

 上座は当然ながら太政官の白峰。彼の右横に太政大輔の石見が、左横に内務卿の伯耆が座る。

 そして他は、重要さに従って下座へと続く。人数が多いので、声を増幅する呪具(アイテム)が数箇所に置かれている。

 白峰の後ろには、太政官か大輔の補佐をする者が数名。記録は取らないので書記はいない。


「主な議題はタルタリアとの戦争をどうするのか、という事になります」


「あまりにも曖昧というか大雑把すぎないかね」


 石見の言葉に、早速口を挟んだのは対面に座る内務卿の伯耆。既にかなりの年齢の(オーガ)だが、内側から溢れる力を感じさせる。

 石見の方は能面で、全く気圧されたりはしてない。


「はい。ですが、アキツ、タルタリア双方が戦うのか停戦するのかといったところからの議論となりますと、どうしてもこのような表現となってしまいます」


「まあ、最初からケチつけんとき。まずは、戦さの流れを聞こやないか。太政大輔」

 

「ハッ。竜歴一九〇四年四月十五日に開戦。四月末、タルタリア軍が我が方の前線まで到達。五月十三日にタルタリア軍艦艇がアキツ本土を砲撃。六月中旬より大黒竜山脈要塞での本格的な攻防戦開始」


 ここまで話したところで、席の後ろの方の誰かが「最初から過ぎないか」という声。

 これに頷いた石見は、白峰に一度視線を向けてから「それでは」と言い直す。


「七月二十日、タルタリア軍は二度目の大規模な要塞攻撃開始。同月二十六日、アキツ軍は総反攻作戦を始動。二十九日に各所で大規模な戦闘開始。同日、アキツ軍は境界線を越えてタルタリア領内に逆侵攻開始。八月一日にタルタリア軍主力を包囲し、その後の戦闘で八月八日にタルタリア軍主力が降伏。現在戦線は、タルタリア極東国境から80キロメートル入った地点となっております」


「タルタリアの面子は丸潰れではないか。我が軍は敵領内に踏み込み過ぎでは?」


「丸潰れにしたんや。何せ強欲なタルタリアやで。追い返しただけやったら、簡単に矛を納めようとは考えへんやろ」


 閣僚の誰かに返事をしたのは白峰だが、話したのは説明役の石見だった。


「過去のタルタリア帝国の事例では、追い返しただけの場合に戦争が長引いた例が多い。こちらが押し出せる力を示しておく方が、今後の停戦や講和の話しが進めやすいとの判断です。この点は、既に皆様との共通認識と確認が行われているかと」


「だが連中、一向に戦争を止めようとしないではないか」


 そう言ったのは内務卿の伯耆。口を挟んできたのも、内務省内の部局の長たち。つまり伯耆の息がかかった者になる。

 そして堂々巡りしそうな気配が見えたからか、外務卿の大仙が大天狗(ハイエルフ)らしい優雅な仕草と声で注目を集める。


「よろしいですか。タルタリアの態度が頑なな理由が、ある程度ですが判明しました」


亜人(デミ)の国が相手だからと言わないでくれよ」


「まさにその点です」


「は? どういう事だね」


「我が国は亜人の国、魔物の国。彼の国ではそういう認識です。このため今回の戦いで捕虜とした多数の将兵、軍属、人夫を我々魔物が全て虐殺した、という論調が大きな盛り上がりを見せています」


 伯耆の要点を得ないという表情と声に、大仙は相手の目を見つつ言葉を重ねる。


「我が国から、多数の捕虜を得て軍人以外は返したいとまで、第三国経由で話しを持って行っているのではなかったか?」


「はい。ですが、向こうは聞く耳持たず。我が国への先入観から、生かしておく筈がないと考えたようです。しかも、捕虜とした将校の中に多数貴族や騎士階級がいましたが、彼らの親族というよりタルタリアの支配層がその話を広めているようです」


「何故? 我々を本当に魔物や蛮族と思っているのか? 貴族や騎士は、知識階級でもあるだろう」


「簡単です。内務卿もご存知でしょう。我が国の上流階層は魔人(デーモン)が中心で、彼らは大天狗以外の魔人は皆殺しが基本です。我々も適用すると見ているのです」


「では、今回の議題の一つが捕虜の問題かね?」


 少しは得心いったという表情になると、大仙も少し笑みを浮かべる。


「そうなります。太政官」


「うん。先に話そか。急いだ方がええしな」


 それで話が始まったが、海外に対して働きかけが出来るのは人員を派遣している外務省、兵部省しかない。他は、他国と接する場合のある拓殖省、アルビオンとの電信網を共有し、管理運営を行う逓信(郵政)省が限定的に動けるくらいだ。

 国内の省庁ではどうにもならない。精々、海外貿易に関わる商務省くらいとなる。


「結局は、外務省中心やな。で、具体的にはどないする?」


 白峰の質問に、既に用意してあった紙面を大仙は取り出す。


「外務省では、既に幾つか素案をまとめています。まず、兵部省、軍と密接に協力して、捕虜の様子を写真、写憶機(メモリー)、実用化が始まったばかりの映写機(ムービー)で詳細に記録。これを各国に配布。タルタリアに対しても、各国を経由して渡して頂きます。この件については一部で、既に開始しています」


 そこで叢雲が頷くのを確認して、さらに続ける。


「並行して我が国が国際法、戦争協定に則って捕虜を扱っていると世界に文書などを含めて伝えます。この点に関しては、既にアルビオン外務省と連携を始めており、軍の関わらないところでの大使館員、海外記者に公開し始めています」


「アルビオンが協力的なのか。何を企んでいる?」


 伯耆の言葉に大仙は笑みを返す。


「アルビオンは、二つの大きな国の戦争は早期に収める事が、世界の安定に寄与すると考えています。勾玉(ジュエル)の市場が気になるご様子」


「一日も早い停戦は、陛下の御心にも叶います。是非に進めていただきたい」


 それまで沈黙していた神祇卿の東雲が、目を閉じたまま独白するように、それでいてかなり大きな声で割り込む。それに伯耆は視線だけ向けるが、陛下と言ったにも関わらず好意的とは言えなかった。

 そしてそのまま大仙へと視線を向ける。


「他の列強、ガリアやゲルマンは? タルタリアに働きかけるのなら、あの国の友好国の方が都合がよかろう」


「外務省も同様の考えですが、どちらも歴史的な亜人への感情からタルタリアに同調しています。現地に観戦武官と従軍記者を派遣しているのに、あまり重視していません。各国の論調もタルタリアに非常に同情的で、我が国に強い警戒感を見せています。亜人が勝ち過ぎた、警戒するべきだ、と」


 明確に全員に伝える為、大山は言葉の最後をあえてゆっくり語り言葉を途切らせる。

 しかしそれは、過剰に反応する者から何かしらの強い発言を引き出す為だった。



______________________


https://kakuyomu.jp/works/16818622174259842756

カクヨムでの転載も始めました。

 

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― 新着の感想 ―
同じ生物内での人種ならなんとかなるとしても 現状寿命も身体能力も魔法も完全に上位種族だからなあ わかり合うなんて未来永劫不可能でしょ
こちらの世界の黄禍論より拙いよなぁ 人類種に比べて明確に力もってるし ガンダムSEEDのナチュラルとコーディネイターみたいな関係と歴史を連想してしまう 根本的には絶対分かり合えない…
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