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拭えない不安に思わず胸元を掴んでしまう。
時間前に完売したので、10位内に入れないことはないと思う。
1位でなくとも、次の試合には出られるのだ。
それでも、そうであっても……不安は残る。
「結果が出たようですよ、お嬢様」
ナスカが鋭い目を司会者専用舞台前にある運営テーブルに向けた。
女性司会者が審査結果が書かれた板を複数枚、運営の人から渡されて、二言三言やり取りをしている。
会場は雑音が一切消え、じっとその様子を固唾を飲んで見守っている。
女性司会者は、最後に大きく頷くと、そのままの勢いで舞台に上がり、拡声器の前へ。
「皆さん、お待たせしました。結果発表でーす!」
「「「どよどよ」」」
落ちることは無い。
それは確実。
でも、一位ではない気がするのだ。
額から汗が一滴、落ちた。
「10位の発表です! 屋台番号20番『ゴンスンデの古宿』! 青札35、赤札29。おめでとうございま~す」
まずは完売できた店。その次は、完売こそできなかったものの、多くの札を勝ち取ったところで順位を決めているらしい。
「作った料理はラム肉のスープ。料理長、こちらへ来てください」
今回から、勝ち残った者は司会者の舞台まで呼ばれるようだ。
「料理長、『ゴンスンデの古宿』は名前の通り、ゴンスンデの老舗の宿ですが、今回のラム肉のスープ、どの辺りに気を配りましたか?」
痩せた老人が胸を張り、そして若干声を震わせながら答えた。
「ラム肉のスープはウチの看板メニューさね。いつもの通りに作っただけさね」
「おおおお! ご自身の店の看板メニューをそのまま! そういう戦い方もあるんですね。お店で出すのと、屋台で出すのとで、何か違いはありましたか?」
「大きな違いはないさねぇ。旨いもんを作る。それだけさねぇ」
「そうなんですね。次の試合も頑張ってくださいね」
娘くらいの司会者に向かって、ニカっと笑って見せる老人の笑顔が印象的だった。
「では第9位! ……」
その後も、完売はしていないが、多く札を集めた店が続いた。
その差は1票ということが多い。
恐らく10位までに入られなかった店も、1票の差で泣いたのかもしれない……。
「さて! 5位からは時間内に完売した店ばかり。早く完売したものが上位となります。ではっ! 第5位 屋台番号8『フローリストガーデングループ』」
流石、料理長! 完売組に入っている。
「料理はパンの肉包み!」
司会者の舞台に呼ばれた料理長。早速インタビューが始まった。
「今回の競技は、高級店には難しい課題だったと思いますが、しっかり時間内に完売しているあたり、すごいですね~」
「いやぁ~。確かにいつもと勝手が違うので戸惑いましたが、何とか皆様にご満足頂ける料理をお出しできて良かったです」
「このパンを薄切り肉で包み焼くというのは、聞いた事がないのですが、どの様にして考えたんですか?」
「あはは。最初はウチの看板メニューのポタージュスープをと思ったんですが、周りが皆、肉を使っていたので、野菜だけでは弱いと思ったんです。で、パンにポタージュを染み込ませて肉で包んで焼いてみたんです」
「でも、それでは食べる時にポタージュが染み出ませんか?」
「そこは肉の形やつなぎでしっかり工夫してありますから。あははは」
「なんと! 手が込んでますね」
「はははは。まぁ今回、材料にお金を掛けられなかったけど、手間はタダですからね。頑張りました」
料理長が口元だけじゃなく、目までやわらぐ笑顔を浮かべた。
「面白い発想で勝ち残りましたね。おめでとうございます。では、この調子で次の試合も頑張ってくださいね」
うわぁ~。ウチの料理長、思ってもみない料理を開発してた!
ナスカと二人、顔を見合わせて、思わず頷いてしまった。
司会者の結果発表はまだまだ続いている。
「第4位はぁぁ、屋台番号15番『モンテベルデ伯爵家 料理長』! 料理はコロッケです。料理長、前に出て来てくださぁい」
懐かしのルイージさんが嬉々として舞台へ向かう。
「料理長、コロッケとはここ数年、先ほどの『フローリストガーデン』のお店で出されているメニューの一つですが、どうしてそれにしようと思われたのですか?」
「ふふふん。油を使った料理は旨い! そして腹が膨らむ」
館では超絶おしゃべりなのに、今日は言葉は短めだ。両手を組んで、少し背を反らせている。
普段の噂好きな軽薄さは片鱗も見せず、厳格そうな演技?
十分、風格のある料理長に見えるよ。ふふふ。
「でも、油は高かったんじゃないですか?」
「だから、具は、ほとんどじゃがいもになったんだ。味のために玉ねぎや肉をほんの少し入れたけどな」
「これも作戦だと?」
「もちろん!」
「そうですか。時間内に完売されているので、おっしゃられることに説得力がありますね」
「ふむ」
「では、次の試合も頑張ってくださいね」
最後まで異様に背筋を反らせたまま、ルイージさんは自分の屋台に戻って行った。
まだ呼ばれていないのは、『リスの宿』とウチ。そしてあと1店舗。
ウチの順位は何番だろう?
次呼ばれなければ、1位か2位は確実。
手が俄かに湿って来た。
例え2位でも3位でも、次の試合に参加できるのに変わりはない。
だけど、何でだろう?
『リスの宿』に負けたくないと思ってしまう……。
「それでは、皆様! お待ちかね。第3位ですっ!」
「「「ザワザワ」」」
思わず、司会者を見つめる……。顔がこわばる。
みなさま、いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます!
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出版社は、あの TOブックス さんです!
以前、予約開始の御報告の時にも書いた内容ですが、
書籍版は、ネット版から “大きく”書き替えています。
・料理魔法の設定をさらに深掘り
・あらすじも要所は踏まえたまま、大胆に再構成!
・登場する料理もネット版とは大きく違うものが登場(新メニュー多数!)
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今回、担当編集さんと一緒に
「商業作品としてどう届けるか」を徹底的に練り直しました。
ネット版を読んだ方にも、
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引き続き、『小さなコックさんの異世界レシピ ~料理魔法なんてあったんだぁ、と思ったら万能スキルでした~』をよろしくお願いします!




