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「ピィィィィーー!」
「料理を終了して下さい。それでは、100名の審査員の皆さま、まずは青札を使い切ってから、赤札をお使いください。よーーい、始め!」
屋台裏にあった調理台の火口は2つ。
だけど、屋台の方には一つしかない。
何故なら、ルール上、販売の時間は調理をしないからだ。
では、何故、火口があるかというと、温め直すためだ。
ウチは、トルティージャを温め直して、肉主体のフィリングを巻いて渡すのだ。
それにはフライパンを使用するのだが、監視員からのダメ出しが……。
「すみませんが、今は調理はダメです。許されているのは温め直しだけです」
「え? これはこのパンを温め直しているだけですが?」
「ええ!? でも、フライパン……」
「ほら、良く見て下さい。もう焼いてあるでしょう? それにフライパンに載せているのも数秒ですよ?」
すわ、失格か? と肩に力が入ったが、実際に数秒しかフライパンに載せていないのを見て、漸く納得してくれたようだ。
(もう、本当に、心臓に悪いからやめてよねー!)
ここまで満点を取っている2グループの内の1つということで、最初から客が列をなしてくれている。
ナスカが札を受け取り、トルティージャを温める。
私は最初から一人分に小分けしているフィリングを温めたトルティージャで包み、最後に葉っぱで持つ部分を補強。
たったこれだけなので、何人並んでいてもスムーズに捌けている。
両隣の屋台を見ると、一方はスープ、もう片方は焼いた肉をパンで挟んだもので、実はウチより早く料理を渡している。
だけど、スープの方は木の椀と木のスプーンが一セットなので、器にペリカを使ってしまっている分、肉が少な目のよう……。
あ、ほら。今、食べた人、眉間に皺を寄せてるよ?
サンドイッチの方は黒パンに冷めたステーキを挟んでいるので、それ美味しいの? 状態。
元々並ぶ客の数は少ない。
青の札がどんどん集まってくる。
これってかなり良いんじゃない?
そう思っていたら、60分も経たずに70食完売!
最後の一つが客の手に渡った瞬間、列の空気が一気に抜けた。
「何だ……、もう売り切れかよ。並んだ時間返して欲しいよ……」
そんな愚痴が客の口から洩れていた。
隣の屋台の人達の白い目を物ともせず、完売の札を掲げ、後片付けに入る。
料理は最後の洗い物までが料理だもんね。
でも、ふと、ナスカが言った一言が気になった。
「あれ? 青の札はたくさんあるけど、赤の札は少ないですねぇ……」
赤の札を使う前に、売り切れた?
それともリピーターがいない?
審査員は100名、それぞれが5枚の札を持っている。
単純に考えれば500食。
料理をする方は21チームで、最大70食まで。
最大でも1470食。500枚の札では、どうやっても捌ききれない量だ。
それなのに、ウチは完売していた。
間違いなく、勝っている。
……のはずなのに。
……100名の審査員が一度ずつ回ったとしても、30人はどこかで取りこぼされる計算になる。
単純に、料理の“総量”が足りなかっただけ。
そう考えれば辻褄は合う。
なのに、何かが引っかかる。
落ち着かない。
ウチ担当の監視員が、完売であることを運営の方へ伝えに行っている。
周りを見ると、いくつかの屋台の前には審査員がいない。
完売か、あまり売れていないかのどっちかだ。
「お嬢様、私、パパっとどれくらいの店が完売したのか、見てきますね」
片付けも終わったので、ナスカが屋台の表側に周り、敵情視察を始めた。
それでも21の屋台を遠目に見るだけなので、直ぐに戻って来た。
「完売は、ウチを含めてたった5店舗でしたよ」
「ナスカ、『リスの宿』はどうだった?」
「えっと、完売してましたね。後、ウチの料理長の屋台もですよ」
やっぱり、『リスの宿』もなのか……。あそこの札の種類が気になって仕方がない。
それと何を売ったのだろう?
「ピィィイィィ!」
販売終了の笛が鳴った。
ウチは既に完売なので、札の数を確認することはなかったが、両隣は監視員がそのまま札を数え始める。
アナウンサー台の前に設けられている、運営のテーブルに全ての情報が集められたようだ。
その間に、審査員たちに腕に腕章を付けている人たちが話しかけながら、メモを取っている。
「あなたは何番と何番の屋台で買いましたか? 赤札はどの店に? その店を選んだ理由を教えてください」
ウチの店の近くで聞き取りをしているのが耳に入った。
中にはちゃんと答えてくれない人もいるだろうけど、無料でこれだけの食事を食べさせてもらっていることもあり、結構好意的な態度で回答しているように見えた。
「美味しかったのは11番! でも、5番では3枚使ったな」
「何故ですか?」
「美味しい上に、量があったからね」
「11番に並び直そうとは思わなかったんですか?」
「あそこは列が長いのと、量が少な目だったからねぇ。オレは並びなおすなら、5番が良いと思ったぜ」
「でも、一番美味しかったのは11番?」
「そうだな。でも、量も大切だからな」
そう小耳に挟んで、心臓を無遠慮に鷲掴みされた気がした。
思い返してみると、列に並んでいたのは成人男性が殆どだった。
稀に女性もいたけれど、子供はいなかった。
美味しさ。
スピード。
そして、量。……そこだけ、抜けていた。
でも、5番の屋台はそれをちゃんと計算していた?
5番ってどこ?
ナスカの方を向くと、申し訳なさそうな顔でこちらを見つめている。
予感がした。その5番が誰なのか……。
もう、既に予感ではない。確信だ。




