02 旧生徒会その1
少しだけ眠い身体を動かし、枕元にある時計を見る。
まだ起きる時間帯ではなかった。
それでもゆっくり出来る時間でもない。
「おはようございますっ!!」
挨拶?
「おはよーって、何で居るんだよっ!?」
何故か部屋の中に雪が居るのだ。
朝ご飯が用意されていた。
「早くご飯食べて下さいね?」
これが格の違いなのか!?
「食べないと成長しないですよ?」
私のまな板がある部分がやけに生暖かい。
「どこを触って…!?」
くすぐったい。
これが初めて出来た友達か…。
「このヘンタイッッ!!」
でも、ヘンタイだった。
「雛ちゃんに言われるのなら本望です。」
寒気がする。
「さて、そろそろ生徒会室に行きませんか?」
いつの間に移動したのか既に玄関に居たヘンタイを確認し私も支度をする。
「そうだね。
」
私は戸締りをしっかり確認する。
「幽霊って何だろうね。
」
不意に幽霊退治の話を思い出した。
ただの噂なら生徒会が手を焼く程の事はないはずなのに。
「幽霊さんですか、会いたいですねっ?
」
いつもこんな調子なのか、この人。
「可愛い幽霊さんにっっ!!
」
幽霊は基本的に怖いものでしょ!!
そもそも可愛いって何っ!?
「幽霊は怖いものだよ!?
」
私は相槌を打つように言った。
既にその言葉は風に流されていた。
「生徒会室でーす。
」
やる気無さそうな表情を浮かべ、
棒読みで紹介する生徒会長。
「なんで、棒読みなの?
」
何かを思い出したように不機嫌そうにする雪。
生徒会に嫌な予感しかしなかった。
私はその直感で生徒会室に入る覚悟を決めた。
「ま、待って下さいっ!!まだ心の準備が ──── 」
私がドアを強く開けると、生徒会室の中は本や資料で人が座るスペースは無かった。
「なんで部屋がぐちゃぐちゃなの?
」
私は疑問を問いかける。
「そ、それはですね。
」
まともな人達が生徒会をやってる印象がある。
その幻想は消えてしまった気がした。
「生徒会の人達と片付けたりしないの?」
それに魔法で片付ける事も出来るはずなのに。
私は生徒会長を睨み付けながら、問題点だらけの生徒会長に質問攻めをする。
「そもそも、なんで生徒会長しか居ないの?」
何かおかしい。
「今日は二人きりですよ?」
雪の顔がすぐ私の目の前にあった。
「ち、近いってば!」
ッッ〜〜!?
やりづらい。
「ちょっと…待っ、て…。」
強く私を抱き締める雪。
「逃げちゃダメ、ですよ。」
どんなに抵抗しても手が離れない。
「いつまでじゃれているんですか。」
振り向くと、椅子に少女が座っていた。
「もしかして私の読書の邪魔とか考えてないですよね?」
その顔はまるで氷のような冷たさを持っている。
「ちょ、ちょっとした冗談です。」
顔が引きつっていた。
「また来てくれて嬉しいです。」
雪は笑顔でそう言う。
刹那が指を鳴らすと、
散らばった本が勝手に本棚に入って行った。
「生徒会に関係ない人を呼んでも良いですか?」
鋭い眼で私を睨む少女。
その視線から逃げるように私は横目で視線を逸らす。
あれだけ散らかっていた部屋が綺麗になっていた。
「せっつんはつれないですぅ…。」
頬を膨らませて、資料の紙切れで風を扇ぐ。
「そろそろ本題に入りませんか?」
それを見た刹那が話を切り出した。
刹那は資料をいくつか机から引き出す。
「刹那ちゃんだっけ?よろしくね。」
私も話が始まる前に挨拶をする。
「この生徒会長が何かしたら連絡して下さい。注意しますから。」
厳しい人なのかな。
「もしかして、チョーキョしちゃうですぅ…?」
また雪がおかしな事を言う。
私は不安になって刹那の方に視線を送る。
溜め息を吐くと刹那はゆっくりと深呼吸した。
「調教じゃないです。指導です。」
言葉を正すように訂正する刹那。
「調教という単語は、元々は卑猥な言葉じゃないです。」
「あ、また流されてしまう所でした。」
ちゃんとしてくれてるみたいだ。
そこで空気が変わった気がした。
「最近噂されている話をもちろん会長は知ってますよね。」
刹那の目が一瞬だけ冷たいものになった気がする。
「いつまでじゃれているんですか。」
そういう刹那は諦めて、読書に戻ろうとしていた。
「良いではないかぁー」
良い訳ないでしょ!!
人の話を聞けいっ!!
「雛先輩が可哀想です。」
流石に本題に入らないと不味いと思ったのか、刹那が加勢して来た。
「ほら、離してあげて…ください。」
刹那が私を掴んでる雪の手を離そうとする。
「嫌ですっ!!」
「痛いから離して欲しい。」
我慢するように唇を噛み締め、手を離す雪。
そこまでして、くっ付きたいのかは私には分からない。
「では、旧生徒会の噂について話をして行きたいと思います。」
そう言えば、気になってた事がある。
「そもそも旧生徒会と今の生徒会の違いって何?」
今と昔ぐらいにしか違いはないかもしれないけど。
「所詮、潰れたか潰れてないかの違いでしかない。と思ってたんですが、」
外から入る風が冷たい。
「ある研究をしていたみたいです。魔法使いを使った人体実験をです。」
刹那は苦しそうな表情を見せる。
「人体実験?」
つまり生徒会の役員を使って人体実験をした。
その結果は雪から聞いた通り、全員死んだのだった。
「何の研究だったの?」
人を犠牲にする程の実験。
それは何のために行われただろうか。
「それは、………まだ分からないんです。」
それは濁った解答だった。
「分からない事を分からないままにしてはダメになってしまいます。」
雪は楽しそうに言う。
きっと、それが今の生徒会と前の生徒会の違いなんだと私は思った。
「では、旧生徒会の最後の活動場所に行って見るのはどうです?」
楽しそうに提案する。
「あの場所は危ないじゃないですかっ!?」
それと真逆に険しい表情を浮かべる刹那。
皆を心配してるからだろう。
「それでも、行って見るしかないんでしょ?」
私はそう思った。
「分かってくれて良かったですーっ!!」
そう言いつつ、抱き着いてくる。
人を寄せ付けないと言わんばかりの森。
遠目で見ると、微かに校舎のような建物がある。
「何か出そう…。」
そんな気がする。
一歩ずつ動かす脚が重く感じた。
自分の脚や声が震えてる気がする。
「なんで弱気になってるんですか?」
強くはっきり言う刹那。
「幽霊とか曖昧なものに科学的な証明なんて、出来ないんです。」
そう自慢げに刹那は話しながら歩いていく。
「よって、幽霊は存在しません。」
口元がちょっとだけ歪んだように見えた。
その直後に木々からカラスが一斉に飛び出した。
「ひゃうんっ!!」
その声は、刹那から出た声とは思えないぐらい可愛いものだった。
「ええっと…。刹那ちゃん?」
私が気にかけると、
「べ、別に怖がってる訳じゃにゃいです。」
強気な事を言っているのか噛みまくる刹那。
「怖いなら私の制服を掴んでても良いよ?」
もっと素直になれば良いのに。
「そんな事、する訳っ…。」
手をもじもじし始めていた。
「なんで、ニヤついてるんですか。さっさと進んで下さい。」
そう言いつつ、私の制服を掴んでいた。
「え、聞こえないよっー?」
完全に悪ふざけだ。
「おー…願いします。怖いの苦手なんです。」
刹那の知らない一面を知ったのだった。
「で、話してたら着いた訳なんだけど…。」
目の前には古びた校舎が見える。
使われなくなった旧校舎だ。
「……もう帰らない?」
私の脚が震えているのが分かる。
少しだけ怖いのだ。
「もしかして怖いんですか?」
私が震えているのに気付いたのか気にかけてくれた。
「少し怖いんだ…。何か居るような…」
誰かに見張られてるような気がする。
これ以上入ってくるなと言われている気分だ。
「でも行くって言ったのは、雛ちゃんじゃないですか?」
確かに私が行くと決めてしまった事だ。
「だから雛ちゃんが帰ると言うなら、一緒に帰りますよ?」
彼女の優しさは心に染みる。
「確かに刹那をいじった方が楽しい……って、痛い痛いっ!!」
私の肉を抓る刹那。
「な、何するんだよっ!?」
あまりの痛さに暴れ回って振り解く。
「もうそんな事を思わないように痛め付…」
両手を鋏のように構える刹那。
「わーわー分かったよっ!!分かったからやめて!!」
いつの間にか震えが止まっていた。
「……行く。やっぱり知りたいんだ。皆の事、旧生徒会の事も。」
私はまだ何も知らない。
だからこそ知っていきたい。
「では、張り切って行きましょうっ!!」
そのテンションに誰も着いて行けなかった。
「とりあえず、校舎に入って見ましょう。」
それを無視して刹那が旧校舎の方へ歩いて行く。
錆びたドアは音を立てながら開いていく。
まるで、それはパンドラの箱のように思えた。
好奇心と恐怖を抑えながら私は一歩踏み出した。
「真っ暗闇だっー!!」
きっと私を元気付けるために気持ちを上げてるんだ。
私も皆のために何かしようと思う。
そこで思い付いたのが、明かりだった。
「――――――炎よ。散りゆく前に燃えろ。」
手の平から炎が生まれる。
手が蒸し焼きになりそうで、あまり使いたくない。
「ガラスの破片があちこちに落ちていますね。」
指を指している方を見てみる。
すると、明らかに不自然に割れた窓があった。
「何者かが侵入した痕跡があります。」
わざわざドアから入らずに窓から侵入する意味はない。
「なんで、ドアから侵入しなかったんだろう?」
私が疑問に思っていると、
「せっかちさんなのかもしれないですね。」
雪が窓ガラスの破片を放り投げた。
その音に反応したのか、ネズミが逃げて行くのが見えた。
「きっと彼らの住処にちょうど良かったのかもしれませんね。」
雪の表情が歪んでいくのが分かる。
「という冗談はさて置き、」
「注意して先に進んだ方が良さそうです。」
雪が視線を前を向いたまま言った。
まるで敵が目の前にいるような感じだった。
けれども、進む先を見ても誰もいなかった。
「嫌な匂いがする。誰?」
刹那がクンクン鼻を動かす。
「あ、あー私かもしれないっ!!」
私は匂いの正体に気付いた。
「おやつにラーメン食べてたよー。」
それは昼過ぎに食べたラーメンの匂いだ。
「ラーメンはおやつじゃないですっ!!」
雪は急に振り返って、そう言った。
「突っ込む所は、そこじゃないですっっ!!」
刹那が大声で叫んだ。
「ちゃんと人の話を聞いてくまっ…」
あっ…噛んだ。
「熊さん?」
噛んだ刹那は口を開けたままになって、
「聞いて……下さい。」
真っ赤になった顔から湯気らしき物が出て来ていた。
「楽しいお話し中で申し訳ないんだけど、帰ってくれるかな?」
誰もいなかったはずの場所に少女が居た。
顔がはっきり見えない。
なぜなら仮面を付けていて顔なんて見えないのだ。
「………また噛みそうなら発声練習でもしてみませんか?。」
重い空気を読まずに雪が喋る。
「気にしたら負けだよっ!あと、ちゃんと質問してくれてるんだから答えなきゃ。」
私は刹那をフォローする。
「帰るつもりはありませんっ!!目的と理由を教えて下さいっ!!」
雪が言っちゃうのっ!?
「何も知らない無知だからって、教える訳には行かないわよ?」
少女は馬鹿にしたような喋り方をする。
「うさぎちゃん3匹殺しちゃって良いわよね?」
うさぎ3匹。
私達も3人。
それはきっと私達の事を言っているのだろうか。
もしそうだったら…。
私達は殺されるかもしれない。
「Trick or Treat。」
今まで聞いた事がない単語が聞こえた。
「その詠唱って呪文なの?」
「…ん?そうよ。」
彼女は楽しそうに言った。
仮面の下からは表情は分からない。
「なんで人殺しに魔法を使うの?」
「口封じに殺すだけよ。ただその手段が魔法だっただけ。」
気が付くと辺りが黒い霧に覆われていた。
「ゆ、雪?刹那?」
「誰の声も届かないよ。1人ずつ減らしてあげる。」
ただの霧であれば、声は届くはずだ。
だけど、何も反応がない。
「く、空間魔法!?」
別の空間を作り出す魔法。
「………違うわよ。」
仮面の奥から冷たい声で呟きが聞こえた気がした。
「息がぁ……っ!?」
「安心して良いわよ。貴女の周りの毒は弱めだから。」
「それ…って…。」
雪と刹那の周りの毒は強いってこと?
「まぁ、貴女だけは殺すなって上からの命令だからね。」
「それに他の二人はもう死んだみたいだし、君も安心して身を委ねて良いわよ。」
二人が死んだ…?
「だから、これから起きる世界平和の為に一緒に…。」
「関係ない人間を殺しておいて!?」
雪と刹那は何も悪くないはずだ。
ただ生徒会を立て直そうとしただけ。
「関係ない人間なんて居ないわ。」
「そっか。でも君達が生きてても良い理由はあるのかな?」
「言えないわよ。理由なんてないから。」
「私には生きる理由がある。だから死ぬ訳には行かない。」
私にはやるべき事があるんだ。
「あなたは、なんなの?」
「ただの忘れられた元生徒会の一人だよ。」