22、電流の感覚と、忍び寄る「牙」
紅は自室のベッドに腰かけ、じっと自分の掌を見つめていた。
「アノもソラニアも凄いな……一日で感覚を掴むなんて。それに比べて私は……」
焦燥が胸を焼く。そんな時、扉が控えめにノックされた。
「紅、私です。……一人だと、また魔物に変貌しそうで落ち着かなくて」
入ってきたアノは、不安げな表情で椅子に座った。紅は自嘲気味に微笑み、アノに向き合った。
「アノ、ちょうど良かった。私も聞きたかったの。……どうして木刀を受け止められたの? どんな感覚だった?」
「感覚、ですか……? なんだろう、体にビリビリって、微かな電流が流れる感じがするんです。それに合わせて動いたら、止められました。でも、私だけの感覚かもしれません」
「電流……。私にも、いつかそんな風に感じられる日が来るのかしら」
「紅なら絶対できます! 私、信じてますから」
アノの真っ直ぐな言葉に、紅は少しだけ救われた気がした。二人は明日への活力を蓄えるべく、一緒に入浴を済ませ、部屋で静かな夕食を共にした。
一方、海を隔てたゼカルト国の王宮。
国王は、クリルトンを始末した「面」の刺客と対峙していた。
「クリルトンの研究が灰になった今、魔物化の詳細は不明だ。だが、クラリストン大陸には魔物研究の専門機関がある。そこを使い、クリルトンの手法を解明させねばならん」
「では、私めが?」
「いや、お前ではない。被害を出したあの『部隊』に、汚名返上の機会を与える」
国王が扉へ目を向けると、男女二人の将校が入室し、跪いた。
「国王様、ただいま参りました!」
「柊副隊長、それに隊長よ。クラリストンへ向かい、魔物化の術式を調査せよ。失敗は許されんぞ」
「御意。……必ずや、任務を成功させて見せます」
腹部の傷を癒した柊の瞳には、自分を敗北させた「白銀の狐」への執念が燃えていた。
その頃、宿を抜け出したテサロンは、街の外れで二人の男女と合流していた。
麗しいエルフの女性と、岩のように屈強な大男。
「わざわざ悪いな、忙しい時に」
「テサロンの頼みなら来るわよ。それで、何を鍛えるっていうの?」
テサロンが「知り合ったばかりの連中を三人を鍛えるのに、手が足りない」と告げると、二人は目を見開いた。
「貴方が人を鍛えるなんて……あの一件以来、もう二度と教壇には立たないと思っていたわ」
「珍しいのう。テサロンよ、吹っ切れたか?」
「……その話はするな!」
テサロンは荒々しく怒鳴ると、明朝地下の訓練所に来るよう言い捨て、逃げるように立ち去った。残された二人は、去りゆく友の背中を見つめる。
「……教え子が、全大陸が追う大罪人になったことは、奴の魂を今も縛っている」
「もし今回の者たちが危険な兆候を見せれば、我らが始末するまでよ。テサロンに二度も同じ悲劇は味わせん」
翌朝。紅は、隣で自分に抱きついて眠るアノの寝顔を見つめていた。
昨夜、アノは何度も酷いうなされ方をしていた。魔物化の予兆はなかったが、彼女の心が限界に近いことを紅は痛感する。
(早く、アノを救う手がかりを見つけなきゃ……。私が止まってちゃダメだ)
アノが目を覚まし、頭を撫でられている状況に顔を赤らめる。
「あの……紅。これは一体……?」
「おはよう、アノ。よく寝てたから、つい。さあ、朝食を食べたら訓練所へ行きましょう」
支度を終えた二人は、決意を胸に食堂へ、そしてテサロンの待つ地下へと向かった。
そこにはテサロンだけでなく、昨日はいなかった「二人の強者」が、値踏みするような視線で彼女たちを待ち構えていた。




