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それでも化物にならなかった  作者: ひろろん
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13話

 


 紅は、その後も何度も、何度も、何度も――

 扉があったはずの場所を叩き続けていた。


 拳が壁に当たるたび、鈍い音が部屋に響く。

 やがて手の皮は裂け、血が流れ、白い壁は赤く染まっていった。それでも紅は、叩くのをやめなかった。


「アノ……」


 掠れた声で名前を呼ぶ。


「絶対に……どうにかしてみせるから……」


 その瞬間だった。

 何もないはずの壁に、ふっと歪みが生まれ、扉が出現する。


 紅は息を呑み、反射的に扉へと駆け出した。

 ――今度こそ、外へ。


 だが、扉を開こうとしたその時。


「させないよ!!」


 鋭い声が響いた。


 少し離れた場所に、少年が立っていた。まだ幼さの残る顔で、紅に向かって手を突き出している。


「父ちゃんが言ってたんだ。必ず、扉を作れば……そこから出てくるって。だから、ごめんね」


 次の瞬間、紅の腹部に強烈な衝撃が走った。


「――がっ……!」


 体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。肺の空気が一気に吐き出され、紅は床に崩れ落ちた。


「なに……? どうして……」


 理解が追いつかないまま、紅は荒い息を吐く。


 扉から中へ入ってきた人物を、紅は睨みつけた。


「そんな目で睨まないでよ。ほら、食事を持ってきただけなんだからさ」


 そう言って、その人物は机に食事を置く。そして立ち去ろうとした、その時――

 血で赤く染まった壁に気づき、足を止めた。


「……ねぇ」


 振り返り、紅を見る。


「どうして、あの“化け物”をそこまで庇うの? どうして、自分の手がボロボロになるまで壁を叩き続けたの?」


 床に倒れたままの紅は、震える声で答える。


「……アノのことを、化け物って呼ばないで」


「……あの子は、人間よ」


 その言葉に、相手は鼻で笑った。


「人間? 冗談でしょ。連れて来た時、全身が爛れてて、正直見るに耐えなかった。それが治療する前に、勝手に治ったんだよ? そんなの、人間にできるわけない」


 一歩近づき、言葉を重ねる。


「根拠を言ってみなよ。あの化け物が人間だって、信じられる理由を」


 紅は、言葉を失った。


「ほらね。何も言えない」


 その人物は、勝ち誇ったように言う。


「君も本当は分かってるんでしょ? あれは化け物だって」


「違う……私は……」


 声が詰まる。


「うん? 私は何?早く答えてよ。答えられないよね?」


 冷たい声が続く。


「いいよ。あの化け物が処分されるのを、ここで大人しく待ちなよ。その後なら、君は自由にしてあげる」


 そう言い残し、人物は扉の外へ出て行った。

 扉は再び消え、部屋には沈黙だけが残された。


 紅は何も言えず、ただその場に座り込んだまま、時間だけが過ぎていった。



 ---


 一方その頃――

 集落の長たちが集まる場所では、激しい議論が交わされていた。


「今すぐ始末するべきです!!」


「そうだ、何か起きてからでは遅い!」


「いや、その治癒能力……実験する価値がある。人体実験を――」


 様々な声が飛び交う中、黙っていた長が、静かに口を開いた。


「……我は、今回の処分は見送ると決めた」


 場が一瞬でざわつく。


「長! 正気ですか!?」


「危険すぎる!」


「もし被害が出たらどう責任を取る!」


 怒号の中、長は一歩も退かず言い切る。


「責任は、我が取る。誰かが死ねば、我が生き返らせよう。集落が壊れれば、我が元に戻す」


「……それで問題なかろう」


 そして命じた。


「あの女を地下牢から解放し、もう一人の女の元へ連れて行け」


 最終的に、監視下に置くことを条件に決定が下される。



 ---


 地下牢。


 拘束されたままのアノは、暗闇の中で震えていた。


(……処分されるんだ)


(死にたくない……)


 牢の扉が開く音が響き、拘束が外される。


「お前の処分はなくなった。愚かな長に感謝しろ」


 荒々しく言われ、アノは再び手を縛られ、口枷をつけられたまま歩かされる。


 地上に出ると、小さな家々と、木の上に作られた住居が目に入った。


 やがて一軒の家の前で、扉が出現する。


 背後から蹴られ、アノは体勢を崩しながら中へ――

 扉は消えた。



 ---


 床に倒れたアノの視界に、紅の姿が映る。


 口枷を外され、拘束を解かれる。


「アノ……! 良かった……! 大丈夫? 酷いことはされなかった?」


「……はい。拘束されていただけです」


 安堵したように答えながら、アノは紅を見る。


「紅は……大丈夫ですか?」


 紅は咄嗟に、腫れ上がった手を背中に隠した。


「私は……大丈夫」


 だが、アノは見逃さなかった。

 壁に染みついた血。紅の手の傷。


「……壁を、殴り続けてたんですね」


 紅は小さく頷く。


「それしか、できなかったから……。いつか壊れるかもしれないって……アノを助けたかった」


 アノは、紅の手を強く掴む。


「馬鹿……! そんなことしなくてよかった……!」


 震える声で続ける。


「私は……化け物なんだから……」


「違う!」


 紅は即座に否定する。


「アノは人間よ」


 アノは俯き、静かに言った。


「……でも、聞いたんです。全身が爛れて、それが勝手に治ったって‥‥そんなの、人間じゃない……」


 紅は、答えられなかった。


 その沈黙が、全てを語ってしまったかのように――

 部屋は、重い静けさに包まれのであった。


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