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十四話

 春といっても夜はまだまだ肌寒い。

 吐く息さえ白く、細かな雨に溶けて行く。

 目を凝らすと、小さな光がいくつも飛び交っていて、大人たちの梓を呼ぶ声が聞えた。

 梓……どこに行っちゃったの?

 こんな暗い夜、雨の中。泣いてないかな? 寒くて震えてないかな?

 そんな事を考えると、1秒でも早く見つけてあげないとって気になって来た。


「梓、無事でいてね」


 私の呟きは祈りとなって、湿った夜空に上って行った。

 泥をはねながら、土がむき出しの道を走って行く。

 走りながら、梓の行きそうな場所を考えた。

 でも、梓は本当に甘えん坊で、あんまり一人でいる所を見た事がない。


 舞姫桜は見ごろで、梓も好きだけど、あの石段を一人で登るのは考えにくいし。2年前に駄菓子屋から姿を変えた、町の唯一のコンビニも好きだけど、そこならとっくに見つかってるはずだ。

 梓の家はおばあちゃん、おじいちゃんと一緒に暮らしてるから、その家に行くって事もないし。


 そう思いながら、本当に真っ暗になって先が良く見えなくなってきたから懐中電灯をつけた。

 闇を切り取る光の楕円が、もうすぐ首なし地蔵だと教えた。

 気温差のせいか白い靄が立ち込めていて、不気味な空気が雨に濡れたレインコートと一緒に肌に貼りついてきた。


 やだ……光とハヤテはまだなの?

 後ろを振り返るけど、まだ誰の光りも見当たらない。

 まぁ、ここには私が一番近いから仕方ないんだけど。

 そう溜息をついて振り返った時だった。


 その光りの道の先に、何かが見えた。


「?!」


 白い……手?

 凍りつく心臓に全身の鳥肌が立ち、手元がぶれる。

 そのせいで光が揺れてその白いものは再び闇に飲まれてしまった。

 なんとか懐中電灯を取り落とさずには済んだけど、思わず立ちすくんだ足は、もう動かない。


「今の……何?」


 凍りついたはずの心臓が、今度はどくどくと違う生き物のように音を立て、全身の血を逆流させながら警鐘をかき鳴らす。

 こうなったらさっきの白い物の確認するしかない。

 そうじゃないと余計に怖い。よく言うじゃない。幽霊の正体見たり枯れ尾花って。きっと誰かが落とした手袋とかなのよ。


 私はそう自分に言い聞かせ、逃げ腰になる上背の前で空いた手を握りしめて光の先に目を凝らした。

 ごくり。生唾を飲み込なんとか動く手首をひねり電灯を上に向ける。

 一瞬ドキリとしたそこには、首なし地蔵が雨に濡れて立っていた。

 その様子は、闇にぼんやり浮かび上がり気味が悪いがいつもと変わらないし、当然白いものなんてない。


 じゃ……今のは?

 ゆるゆると光を下の方に移動させる。


「!!!」


 息を飲んだ。

 だってそこには!


「梓!」


 梓がうつぶせに倒れていた。

 さっきの白い手は梓の手だったのだ。

 慌ててもつれそうになる足で駆け寄り抱き起して電灯を向ける。

 真っ青を通り越して白い顔の梓は、ぴくりとも動かない。

 冷たい頬に濡れた髪がかかって、泥ごと私はそれを払うと、梓を思いっきりゆすった。

 でも、反応しない小さな体は揺さぶられるままだ。

 揺らすのを止めると、力ない腕がだらんと垂れて、まるで重い重い人形のようだった。


 体中が泡立って、頭が真っ白になる。

 上の歯と下の歯がかみ合わない。

 え? 何? どういう事?

 どうしていいかわからない。

 嫌だ……どうして?

 嫌っ怖い!

 梓!!


「希?!」


 私を誰かが照らした。

 見上げると光とハヤテだ。

 私はいつの間にか涙でぐしょぐしょになっていた顔をあげると、ぎゅっと梓を抱きしめた。

 でも、腕の中の梓は信じられないくらいグッタリしていて、冷たい。


 嘘よ……嘘に決まってる……。

 だって、ついさっきまであんなに笑ってたのよ?!

 今日、一緒にここに来て、小学校楽しみだって話してたのよ?!

 赤いリボンを自慢げに見せて……赤?

 梓の名前を叫んで駆け寄る光達から視線を展開させた。

 見ると梓の首に、その赤いリボンが巻かれていた。


 誰かが彼女に何かした証拠がそこにあったのだ。


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