十三話
脱衣所からタオルを巻いた姿で一気に自分の部屋に駆け上がると、急いで服に着替えた。
髪は濡れたままだけど、乾かしてる暇なんかない。
着替え終わってから、チラリと一階の方を窺った。物音がしない。たぶん、お父さんもお母さんも出てるんだ。
そっと玄関先の電話を確認するけど、大丈夫。
都会だったら携帯何かみんな小学生の頃から持ってて、こんな時不自由しないんだろうけど、ここみたいな田舎は、アンテナが立ったのがつい1ヶ月前で今はまだほとんど誰も持ってない。
おばあちゃんはもう、離れで寝ててこの母屋にはこないとは思うんだけど…。
私は最新の注意を払って、静かに電話まで忍び寄る。
古い廊下は、それでも軋んだりするけど。
雨音しかしない空気に呼吸すら殺して、そっと手を伸ばした。
その受話器に触れたとたん、電話が大きな声で怒鳴り始めた!
「っ!」
心臓が口から出るほど驚いた私は、ビックリして固まると、ナンバーディスプレイを見た。
あ、光からだ。私は盛大な溜息をついて電話に出た。
「もしもし」
何よ、脅かさないでよもう。
「あ、その可愛くない声は希だな」
可愛くなくさせてんのはお前だ。全く、本当にいつも絶妙のタイミングだ。どこかに盗聴器か隠しカメラでもしかけてるんじゃないの?
私は持って行き場のない怒りを、変な想像にぶつけると、辺りを見回した。
思いつきにしては、こいつならあり得ると思ったからだ。
「聞いたか? 梓の事」
「あ、うん」
梓の名前にきゅっと気が引き締まった。そうだ、今、こんな事心配している所じゃないんだ。梓が……。
時計を見ると、もう9時近くだった。
民家も街灯も少ないこの町じゃ、この時間はもう真っ暗で、大人ですら用事がない限りでかけない。
「ハヤテにも連絡したけど、奴も俺んちから帰る途中で別れて以来知らないって。これは…事件だな」
舌は興奮に早口になっているが、いつもの探偵ごっこと違うって言うのはわきまえてるみたい。低い声色に、心配の影が見えた。
「うん。どうしよう。大人達は……」
「梓ん家で集まってから、皆で探しに回るって。山とか川の方にも行くって兄貴が言ってた」
そうか、きっと駐在のお兄ちゃんが中心で動いてるんだ。
「私達は……」
「とりあえず、梓が行きそうな所回ろうぜ。あ、そういやお前……」
「なに?」
「自転車」
光に言われて気が付いた。
北斗君に夢中で忘れてたけど、自転車を光の家に置いたままだ。
「ごめん。北斗君に送ってもらって、忘れてた」
「……あのさ、北斗って……」
光がちょっと怒ったような口調になる。
「何?」
「いや、今はいいや。とりあえず、レインコートと懐中電灯。それでそうだな、大人に見つかると厄介だから、首なし地蔵で待ち合わせな。あそこなら町はずれだから大丈夫だろう」
勝手に話題を振って、勝手に終わらせた光はよりによって物騒な場所を指定した。
私は外を見て顔をしかめる。
「いやよ。別の場所にしようよ」
「この時間だったら、まだ夜中じゃねぇから大丈夫だって。ハヤテにももう、そう言ってるからさ。じゃ、後でな!」
そしてやっぱり勝手に電話を切った。
私は受話器を耳から話すと、虚しい音だけを鳴らす子機を見つめ溜息をついた。
別に本気で信じてるわけじゃないんだけど、気味が悪いのには変わりない。
でも、ハヤテがもう向かってるんなら……。
「行くしかないか!」
私は頬を叩いて気合いを入れると、玄関にかけてあるレインコートに手を伸ばした。




