38.実践
「うむ? ちょうどいい! 実践形式で鍛錬するぞ!」
突然のシヂルドの叫び声に、リフィリーゼとイスランタは首を傾げた。
「どういうことだ?」
「なんですか?」
そんな二人の様子に、シヂルドはニヤリと笑った。
「あのような弱き波動。わざわざ探さなくとも丸わかりだ。そろそろお前たちにもわかるはずだ」
シヂルドの言葉にリフィリーゼが首を傾げていると、イスランタが声を上げる。
「いや、なんか、言葉にできねーけど、違和感みたいな感じならわかる」
「どういうこと? きちんと証拠を元に論理立てて説明してよ」
イスランタの言葉に、リフィリーゼはさらに首を傾げる。すると、光の球がふわふわと飛んできて、リフィリーゼの周りを回った。
「お師匠様……?」
光の球を受け取るように手で受け、キラキラと消えていく魔力に、リフィリーゼはそう口から溢す。
そんなリフィリーゼに、シヂルドが叫んだ。
「それだ! お前は今、ワイナーの魔力だというのを証拠もなく感じただろう? その感覚だ!」
シヂルドの言葉に、リフィリーゼはハッとして周りを見た。
「ここから500m先に。隠遁の魔法を展開しようとしていますね」
リフィリーゼの言葉に、イスランタは驚いたように目を丸くして、驚いたままシヂルドは笑った。
「はっはっは! これは驚いた。さすがはワイナー。弟子にこれほどまで仕込んでおったとは。感覚さえ掴めれば、リフィリーゼ。お前は主戦力だ。いけ! 今のお前なら倒せる。そのまま魔力をその身に纏わせて、駆けろ!」
シヂルドの言葉に、理解したようにリフィリーゼは魔力を身に纏わせる。そして、打ち出されたような速さで飛び出したリフィリーゼ。その駆けた後には土埃が舞う。
「うむ。もう少しだな」
そう言ったシヂルドがイスランタを見る。そして、まじまじと観察を終えて、真剣な面持ちでイスランタに問うた。
「お前は……封じられているな。そのお前の力を奪い返すことを、お前は本当に望んでいるのか? お前はお前自身を信じられているのか? 封じられている現状を望んでいるのではないか?」
シヂルドに言われて、イスランタが持っていた布を地面に投げ捨てて言った。
「何言ってんだよ! 俺の力を奪い返したいに決まっているだろ!?」
「すでにお前の肉体と精神なら、メルタリア程度。全てを奪い返せるはずだ。それができていないのが証拠だ。口で言うだけなら何とでもできる。」
そう言ったシヂルドが、イスランタの目を見て言った。
「お前は、本当のお前の力を手にしてもリフィリーゼに叶わないことが恐ろしいのだろう。それだけじゃない。手にしたところで、強くなれる自信がない、そうじゃないのか?」
シヂルドの言葉に、イスランタは目を逸らした。
「大丈夫だ。すでにお前には健全な肉体が宿っている」
肩を叩かれたイスランタは、その場に立ち尽くした。
「捉えました!」
ロープでぐるぐる巻きにした上で猿轡で封じた男を、リフィリーゼは浮かばせながら飛んで戻ってきた。うごうごと蠢いているが、抜け出せることはなさそうだ。
「うむ、よくやった。……む? お前、メルタリアのところで見かけたことがあるな。捨てられたのか?」
シヂルドの言葉に、リフィリーゼを睨んでいた男は、動きを止めてシヂルドに視線を向けた。そして、大きく首を張った。
「まぁ、こんなところに単体で突っ込まれる以上、捨て駒であることに違いはない」
シヂルドの言葉に、不満そうに暴れる男。リフィリーゼは思わず拘束を強める。
「リフィリーゼ。其奴は健全な肉体を持っておらん。やりすぎると簡単に死ぬぞ。お前は細かい調整を覚えろ」
シヂルドはそう言って背を向け、小屋に向かって歩き始めた。
「シヂルド様、どうすれば、」
リフィリーゼの言葉に振り返ったシヂルドがニヤリと笑った。
「失敗したっていい。どうせそれも大したことを吐かぬだろう」
シヂルドの言葉にホッとしたようにリフィリーゼは魔法の調整に集中する。拘束された男は唸り声を上げたり、息を吐いたり忙しそうだ。そんな様子を見ていたイスランタは、己の手を握ったり開いたりしながら見つめていた。シヂルドに言われた言葉を反芻するかのように。




