19.イーリア主催反省会
「いったい、何があってこんなことになったんだい?」
イスランタを医務室のベッドで寝かせ、イーリアに促されて椅子に腰掛けたリフィリーゼが俯いたまま恐る恐る口を開いた。
「……イスランタさんが水魔法以外使えないと聞いて……そんなことは魔法の理論上ありえないと思ったんです」
リフィリーゼの答えに、眉間に皺を寄せたイーリアがメガネを指で押し上げて問うた。
「……それはいったいどういう意味だい?」
イーリアの言葉に、リフィリーゼは素直に語った。ワイナーが水魔法が全ての魔法の起源と言った話。まず魔法をあれだけ使えているのに、他の魔法が使えないなんておかしいという持論。リフィリーゼが語るにつれ、イーリアの眉間のシワは深くなっていく。
「……リフィリーゼ。言っておくが、自力でその理論に辿り着いたワイナーはやはり天才だ。……それを弟子に惜しげもなく語るところも天才所以だろう。だからこそはっきり言っておく。リフィリーゼ。ワイナーのその持論はおそらく正しい。だが、魔法界を揺るがしかねない事実も孕んでいる。気軽に口にしては、ならない」
リフィリーゼに厳しい目でそう言ったイーリアがチラリとイスランタの姿を見る。目を閉じ、スースーと穏やかな寝息を立てる様子に安堵したように。そんなイーリアの様子を見て、リフィリーゼは問うた。
「……お師匠様の理論が正しいとすると、イスランタさんの場合はどういうことになるんですか? 魔法で探ってみて……まるで、魔力を根こそぎ奪い取られているような、封じられているような違和感を感じました」
リフィリーゼの言葉に、鎮痛な面持ちを浮かべたイーリアが、恐る恐ると言ったようすで口を開いた。
「……あんたは存在すら聞いたことがないようだが、魔法使いのなかでも有名なものが何人かいる。その中の一人で大魔法使い、魔法使いの中の天才、魔法使いの中の奇人。そんな異名を取るのがあんたのお師匠ワイナーだ。……一方、道を踏み外した大魔法使いと言われるのが、イスランタの父親。メルタリア・ジョセフィーングだ。我が国メルリア王国の名家、ジョセフィーング家の当主であり……ワイナーを深く憎んでいる男だよ」
イーリアの言葉に、リフィリーゼの目が見開く。メルリアに行け、その意味はこの男の父親につながっているのか。この男を人質にしたら、ワイナーの復讐に役立つ? そんな計算がリフィリーゼの頭で繰り広げられているのに、気づいてか、イーリアがリフィリーゼに言った。
「メルタリア・ジョセフィーング。異様なほどの魔力を持つ男。まるで、強い魔力を持つ人間二人分くらいね」
イーリアの言葉に、リフィリーゼが動きを止めた。ゆったりとイスランタの方を見る。そして、すぐにイーリアに視線を戻し、目で問うた。それに答えるようにイーリアが頷き、言った。
「そうさ。あんたの予想通りだろう。メルタリア・ジョセフィーングは、実の息子イスランタの魔力を奪ったんだ。生命に基づく水魔法以外を。そして、封じた。イスランタが間違っても自分の魔力を取り戻さないように」
イーリアの言葉に、リフィリーゼは納得した表情を浮かべた。そして、イスランタの方を向こうとした瞬間、イスランタがベッドから飛び上がった。
「……今の話、事実か!?」
イーリアに詰め寄り、今にも飛びかかりそうなイスランタの様子に、リフィリーゼは首を傾げた。親が子を使うなんて当然だろう、と。不思議そうになりゆきを見守っている。
「イスランタ!? お前、起きていたのかい? 聞いちまったもんはしょうがないね。……あくまであたしの予想だ。事実とは限らないが……リフィリーゼが納得したことから、魔法であんたを調べた結果そうだったんだろうよ」
イーリアの言葉に、イスランタは吠えた。
「くそ! 今までの人生、なんだったんだよ! 親父の搾りかす、無能、実の子か? 今まで言われてきた言葉はなんだったんだよ! 自分が俺から奪ったんじゃねーかよ! 俺なんて、実際、親父に全て奪い取られた残り滓じゃねーか! くそが! みんなくたばっちまえ!」
頭を掻きむしったままそう叫んだイスランタは、叫びながら医務室を飛び出して行った。
「……イスランタ! ……いっちまったか。まぁいい。今メルタリア・ジョセフィーングは不在だ。殺しに行くことなどできぬだろう」
イーリアがそう言って腰掛けた。そして、薬草茶を一口飲み、リフィリーゼに言った。
「ところでリフィリーゼ。魔法を使って他人を調べると、どんなことになるかわかっているかい?」
イーリアの問いに、リフィリーゼは顎に手を置いて少し考えてから答えた。
「……多少、気分が悪くなる程度でしょうか?」
「……あんた、いったい誰にされたんだい?」
「お師匠様ですが?」
イーリアはため息をついてリフィリーゼに言った。
「他人の異質なものが入ってくる感覚は拷問ものだよ。あんたとワイナーは魔力量も似ているのだろうし、質も似ているのだろうが、水魔法しかないイスランタにとって、あんたの魔力を入れられる行為が命の危険のある行動だとわかっているかい? それも一瞬じゃなくてあんたが納得いくまで調べようとしたら、命がいくつあっても足りないよ。わかるかい?」
イーリアの言葉に、驚くリフィリーゼは、先ほどイスランタの魔力が奪われていることを聞いたときよりもはるかに驚いていた。イーリアがため息を落として、魔力の理論から語り始めるのだった。




