13.転移室の罠
イーリアや騎士たちより先に転移したリフィリーゼが、転移室の外に現れた。転移室は各領主の屋敷の敷地内にある。転移の魔術具を使わないで、転移室への転移は結界によって禁じられているため、リフィリーゼが現れた場所は、転移室の入り口から少し離れた場所だった。
「……あの人たちは、ならず者……?」
転移室に向かって武器を構えた人々に、リフィリーゼは首を傾げて、魔力を込める。ワイナーから念の為にと教えられた拘束の魔法。それを使う時が来たと、リフィリーゼは新たに魔法を展開する。
「“拘束の魔法”」
「「「うっ!?」」」
拘束された人たちが呻き声を上げると同時に、全員まとめて魔法の袋で拘束された。声を発しているようだが、拘束の魔法をかけられた状態では、その声は誰にも届かない。抜け出そうと動いているが、うまく動けていない。リフィリーゼは彼らを一瞥した後、そぅっと転移室の扉を開いた。そして、中に誰もいないことを確認した上で、扉の外に戻り、扉を守るように立った。
「リフィリーゼ! 勝手に転移することを許したつもりは……って、なんだいそれ?」
転移室の扉を開けてリフィリーゼの姿を見るなり怒鳴ったイーリアは、リフィリーゼとその足元に転がる集団を見て、ギョッと目を剥いた。
「……転移室に向かって、転移してきた人を攻撃しようとしていたように見えたので拘束しました」
リフィリーゼの言葉に、騎士たちがざわめき立った。
「謀反か!」
「裏切りだ!」
騎士たちに身柄を渡したリフィリーゼが休憩するのに反して、イーリアが通信の魔術具を起動して、城に連絡を取る。ジュナルバの領主の謀反だ。領主は隣国に与することにしたのだろう。ということで、彼らを転移させるから尋問するようにと指示を出したイーリアが、転移陣の上に人々を転がし、転移の魔法陣を起動させた。魔力の拘束は解かれ、頑丈な枷がはめられている。
その様子を見ていたリフィリーゼが小さな声でイーリアに問うた。
「……ここから先も罠があると思うと面倒なので、手っ取り早く全員で現場に転移しますか? この距離なら、転移の魔法を全員かけても人探しの魔法はきれないと思います」
リフィリーゼの言葉に頭を抑えたイーリアが、騎士団長の方を見て了承を得たところで許可を出した途端、リフィリーゼたちは国境すぐの小屋の裏に転移したのだった。
「ここか……」
内部に入り込んだため、小さな声で話す騎士たちに、リフィリーゼが転移した小屋の裏手から正面の様子を伺う。領主の館からここまでの道に、数々の罠が仕掛けられているのが見える。転移して正解だったと頷くリフィリーゼを見て、イーリアも後ろから覗き込み、リフィリーゼの肩を叩き功績ををたたえた。
「ここまで周到とは。騎士の婚約者を誘拐したのは、騎士団が動く可能性をあげるためか……ならば、早急に戻らねば、城が危険な可能性があるかもしれないねぇ」
イーリアがそんなことを言って、自分の服の袖を捲る。身体に身につけていたジャラジャラとしたアクセサリーの中から一つを選び取って、それに魔力を込める。
「……城の防衛はひとまずこれでよし、か。あとは……」
次々と身体のあらゆる場所から外したアクセサリーに魔力を込める様子を見ていたリフィリーゼに、イーリアが思いついたように手招きした。
「リフィリーゼ。あんたには不要だろうが、念の為これを身につけておいておくれ。保険みたいな意味もある」
イーリアにイヤリング型の魔術具を手渡されたリフィリーゼは首を傾げた。
「……防御の魔術具ですか? お師匠様に与えられてますけど……」
リフィリーゼがそう言って腕を捲ると、ジャラジャラと音を立てる魔術具に、イーリアはギョッと目を剥いた。
「こ、この高品質な魔術具はなんだい!? ……あぁ、あんたのお師匠はあのワイナーだったね。なら、驚くこともないか。じゃあ、防御じゃなくて保険の意味で持っておいてくれ。あたしに何かあっても、この魔術具を身につけた人間が無事なら問題ない。そういう魔術具だよ」
イーリアの説明に納得したリフィリーゼがイヤリング型の魔術具を耳につけた。
その姿を見たイーリアがニヤリと笑って言った。
「リフィリーゼ、あんたも年頃なんだからアクセサリーの一つや二つ、身につけたほうがいい。あぁ、そのジャラジャラした奴らはカウントするな。もっとこう繊細な、ほれ。見てご覧」
リフィリーゼのボサボサに編まれた三つ編みを軽く解いて、美しくまとめてみせたイーリアが、リフィリーゼに手鏡を手渡す。髪型を整え、イヤリングをつけただけで、リフィリーゼの雰囲気はかなり変わり、野暮ったい魔女から年頃の魔女へと姿を変えた。
「……イーリア様はすごいんですね」
驚いた様子のリフィリーゼに、呆れたようにため息を落としたイーリアがリフィリーゼの背を軽く叩いた。
「その邪魔な前髪も切ったらどうだい。……あんたには心配ないだろうが、ここからは敵の本拠地に入る戦いが始まるよ。あんたもこんな血生臭いのは初めてだろう? 練習もないことが心配だが、あんたなら大丈夫だろう」
イーリアの言葉に、リフィリーゼは小さく頷く。そして、準備の終えた騎士たちに声をかけられ、光が指すコヤの中への突入を開始するのだった。




