11.人探しの魔法
「仕事終わりなのに、すみません。リフィリーゼさん」
「いえ。早く探しましょう」
ワイナーを探すのは、ジョセフの依頼が終わってから、イーリアの立ち会いのもとでという約束をさせられたリフィリーゼは、その日の仕事終わりにジョセフと会う約束を取り付けていた。
先輩たちから押し付けられた仕事は、魔力量が必要なものが多かったが、魔力の多いリフィリーゼにとって負担なものは少なかった。
「では、ここで人探しの魔法を使いましょう」
城門を出てすぐのところで、リフィリーゼがそう言った。
「え、こんなところで魔法を使っていいんですか?! 人通りも多いですし、なにより城の前ですよ!?」
ジョセフの言葉を無視して、リフィリーゼは杖を取り出し、覚えた魔法を展開する。貴族令嬢として生きていた時には、必要な言い回しや家々の爵位など、覚えることができなくて間違えてばかりだったリフィリーゼは、魔法に関することならスルスルと覚えられた。昼に覚えた人探しの魔法を展開しようとしながら、リフィリーゼは答えた。
「少しでも早く見つけたいので」
誰が、という頭言葉がつかなかったからか、ジョセフは感動したように黙った。一方で、リフィリーゼは魔力を集め、魔法を唱える。
「“人探しの魔法”」
リフィリーゼの唱えた言葉に反応するように、杖が輝く。飛び出した光は、杖から一点に向かって伸びていった。城の門の前で魔法を展開する姿に、門を守る騎士たちがギョッとした顔で警戒したが、横にジョセフがいたから事情を察したのだろう。同僚に必死に害意のないアピールをするジョセフに同情的な視線が集まる。一方で、市民たちは見たことの少ない魔法に、びっくりして逃げる者、興味深そうに遠くから見ている者。さまざまな反応だ。
「……遠いですね」
リフィリーゼの言葉に、ジョセフがギョッとしたように光の先を見る。
「……あれって国境の街、ジュナルバに向かってないか?」
騎士の一人の言葉に、他の騎士たちがざわめいた。意味がわからず、しかし、リフィリーゼは役目を終えたと言わんばかりの寮に戻ろうとする。そこへ、門前の転移陣に次々と宮廷魔法使いたちが飛んできた。
「各員防衛につき、ただちに結界魔法を展開せよ!」
いつもよりもしゃんとした声で宮廷魔法使いたちに指示を飛ばすイーリアが、門の外を見てリフィリーゼと目が合い、そのまま頭を抱えた。そして、そのまま小さな声でつぶやいた。
「……各員、仕事に戻れ」
イーリアの様子とリフィリーゼの杖を持つ姿から事情を察した宮廷魔法使いたちが再び転移陣に戻り、次々と転移していく。そんな様子に首を傾げていたリフィリーゼが、イーリアの姿を見て、ハッとしたように駆け寄った。
「イーリア様! ジョセフさんの依頼を終えました! 付き合ってもらっていいですか?」
「リフィリーゼ……あんたって子は本当に。今あたしたちが何しにきたのかわかっているのかい?」
イーリアの怒声に、リフィリーゼは首を傾げた。ジョセフさんの依頼が終わって、イーリア立ち会いのもとなら、お師匠様を探していいって、と小さく呟く。一方で、ジョセフたち騎士は騎士で忙しそうだ。
「リフィリーゼ。ジョセフっていう男の婚約者は見つかったのかい? まだだろう? そんな状態であんたがワイナーのために魔法を展開したらどうなる?」
イーリアがひとつひとつ噛み砕くように説明する。
「ジョセフさんの婚約者を探す光が消えます?」
「そうだろう? じゃ、ジョセフっていう男の依頼を終えたことになるのかい?」
「なりません……じゃあ、イーリア様! 騎士たちをまとめて光の先に転移させたらいいですか!?」
リフィリーゼの言葉にギョッとしたイーリアが、魔力をこめようとするリフィリーゼの杖を奪い取り、リフィリーゼに言った。
「騎士が門から全員いなくなったら困るだろう? まずは、その辺りを彼らが調整を終えるのを待つんだ。リフィリーゼ。あんたのお師匠様は、そんなやわな奴かい?」
「……お師匠様は強いです」
リフィリーゼの言葉に小さく頷いたイーリアが、少し表情を暗くして、リフィリーゼに言った。
「じゃあ、彼らを待つんだよ。……人探しの魔法で見つかるといいんだが」
後半の独り言はリフィリーゼの耳に届かず、暗闇に落ちたのだった。




