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ダンジョンは危険がいっぱいだけど、全部スルーしていきます  作者: 里和ささみ


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真銀週間(2)

 五月の連休は民主化記念日。日、というか、週間、なのである。カレンダー的には違うがゴールデンウィークみたいなもの。真銀週間(ミスリルウィーク)と言う。ミスリルのように国の平和と平等が輝きを失わず永遠に続きますように的な意味があるようだ。


 夜会は到着した翌日に行われた。上流階級は大体これが終わると旅行に出たりする。わたしがキィさんと双子コーデで現れたことは衝撃だったらしい。バルトの態度が軟化したとウーフー派にも印象付けられた。元々対立しているわけでもない。多分、バルトは派閥争いに興味がない。


「早く帰りたい。」


 わたしのセリフではない。バルトのセリフだ。


「どうしてそんなに綺麗なんだ。早く帰って美しいショウコを堪能したい。」


「バルト、人前。」


「わっかるぅ〜!綺麗に着飾った愛する人は不可侵の神聖な女神のようにも思えるのに、こう、男の性がフツフツと湧き上がってくるよね!」


「それに関しては全面的に同意する。」


 アホがいる。二人も。わたしの隣でキィさんのこめかみがぴきぴきしている。


「ショウコちゃん、二人で帰りましょ。」


「そうですね。」


 アホ二人はほっといて、本当に帰るわけにもいかないので軽食をつまみにキィさんと移動する。


「あら、ムーケイ卿の。ごきげんよう。」


 見知らぬ御婦人にチラリと見られる。


「ふふ。やはり庶民は庶民同士の方が安心するのですね。」


「おい、失礼だやめろ。」


 旦那さんかな?常識的な人っぽい。嫁の方はまともな自己紹介もないし、自己紹介をする隙もない。


「気分を害して申し訳ない、お二人とも。私は」


「いいわよ、もう。行きましょ。庶民と同じものなど食べたくないわ。」


 正式に抗議してくださってもかまいませんので、と一言残し、夫婦なのか家族なのか何なのか知らない男女は去っていった。わたしは来訪者なので総統閣下曰く一般市民でも実際は国賓級。あんな風に言われたことは初めてだが、キィさんは結婚してかなり経つのに未だにこんなことを言われるのか。そりゃ行きたくないって言うわ。

 最初は見たこともない豪華なドレスが着られると喜んでいたらしいが、浅はかだったとこぼしていた。それなら一度も顔を出さずにコートさんを矢面に立たせとけば良かったと。


「誰なんですか、今の方。」


「誰だったかしら。名前までは覚えてないのよ、面倒臭くて。」


 ソレ、分かります。顧客や仲間の名前なら頑張って覚えるが大して接点のない上に敵意剥き出しで来る人の名前なんていちいち覚えたくない。


「ただ、タブロイドでお顔を見たことが……ああ。あの方、バルトさんとお見合いしたことがあるんじゃないかしら。ようやく結婚か!?みたいな見出しであの方のお顔があったような……。」


 お見合い相手には自分に思いを寄せてくれる人もいたと言っていた。そのうちの一人かな。まだバルトが好きなのか、それともフラれたことでプライドが傷付いて八つ当たりして来たのか。あの口ぶりだと後者っぽいな。

 名前も分からない人の名前を調べ上げて抗議なんてことは面倒なので、二人には絡まれたことだけを告げた。キィさんは今後の夜会での滞在時間の短縮を申請し、見事勝ち取っていた。コートさん、夜会にキィさん連れてくの諦めればいいのに。わたしはバルトに領司任期満了まででいいと言われて、キィさんに裏切り者のレッテルを貼られてしまった。解せぬ。


「ねえ、ソヨウさんてどんな花が好きなの?」


「母の好きな花……?」


 知らないのかよ。まあ、物心ついた時にはベッドから起き上がれなくて、お母さんというよりおばあちゃんだったって言ってたからな。そういう話もしたことないのかもしれない。


「ジュンさんに聞いてくれば良かったなぁ。」


 ジュンさんなら絶対知ってるでしょ。親友兼師匠なんだし。墓前に備えるお花、何にしようかな。庭の花、好きに切って持ってっていいって言われたから。


「ソヨウ様は花をお好みではなかったように思います。」


「そうなんですか?」


「はい。〝食べられない植物に興味はない〟と。」


 ソヨウさんのイメージな。なら花は適当にして、仏教式にお供えでもするか。


「す、すまない。何というか……」


「あー、いい。いい。バルトは謝んなくていい。こっちでは故人に花を捧げるだけだけど、日本だと食べ物だの飲み物だの故人の好きだったものとか決まった定番の物とか色々お供えするんだよ。それでいく。」


「神への供物ではなく?」


「死んだら仏さまっていう神様になるんだよ、みんな。」


 仏は神じゃないけど説明が面倒臭い。解脱とか私もよく分かってないし。


「そういうことだから。わたしのマジックバッグに入ってる物お供えすればいいよ。あ、すみません。お花は適当に花束作ってもらえますか?」


 かしこまりましたと庭師が花を切り集めていくのを待って、花束を受け取り出発だ。わたしは道が分からないのでバルトの運転。上流階級の住む高級住宅街は元貴族街なだけあって一つの家がデカい割に家があんまりない。だが道が広い。よって、車で移動。


「お母さんとの思い出、そんなにないの?」


「ないな。歩き始めてからは日中はゼーキン邸で訓練していたし、訓練のない日は家庭教師がついていた。朝と夜のご機嫌伺いに寝室へ行く程度だ。」


「休みの日は?」


「まず休みがなかった。」


 わお。ブラック企業も真っ青。上流階級の子どもたちは息をするように勉強を三歳から十歳で学校に入学するまで行うらしい。こわ。


「そもそも余り近寄らなかったからな。」


 何で?などと聞くまでもない。決まってる。怖かったんだ。ソヨウさんに会うのが。子どもの時分なら余計思うだろう。バルトを産んだために、文字通り日に日に老いていく母を見るのが辛いと。もしかしたら周りに何か言われてたのかもしれない。

 ヨックバール総統閣下が最初の結婚をしたのはソヨウさんに人間の寿命を獲得させない為だと言った。結婚して子どもを産めば、竜人の女性は夫の種族の寿命に合うように体が作り変えられる。男はその逆らしい。番の寿命が男側に合うようになる。バルトが普通の人間と同じ成長してくれて良かった。危うく不老不死倶楽部の一員になるところだった。

 閣下も辛かっただろうな。結婚したらソヨウさんの寿命が縮まり、結婚しなかったらソヨウさんは永遠の孤独を生きなければならない。どっち取っても辛いのによく決断したよ。ソヨウさんは国防の要だったと言っていたから、もしかしたら閣下の最初の結婚は政治的思惑があったのかもしれない。まだ王政が廃止されて民主化されたばかりだったから。


「ここだよ。」


 初のゼーキン邸。派手。初代御当主様が派手好きだったらしい。これは住みたくない。リフォーム必須だ。


「ショウコの趣味に合わないだろう?だったらこの家を売って、首都に来るときはいいホテルに泊まった方が余程いい。」


 よくお分かりで。渾々とわたしの趣味趣向を説明して来た甲斐があった。嬉しいので手をつなぐとバルトは照れた。何で普通照れるとこで照れないで大したことでもないときに照れるんだコイツ。しかも、誰もいない屋敷なのに。


「みゃ!」


 ちょうちょを見つけて戯れるクロ、いや一方的な虐殺だったわ、を抱き上げ、お墓へ。

 初代当主ご夫妻は不老不死倶楽部なので、こちらにはその子どもや孫ひ孫たちが入っている。


「竜人の子孫なのにあんまり人数がいないってどういうことなの?」


「先代の子が女児ばかりだったんだ。番のあるなし含めて竜人の特性の出方はそれぞれだったが、皆、ヒューマンと結婚したからな。そのせいで期待された長命種による軍増強が叶わなくなった。母は、本当に奇跡のような確率で生まれた竜人。まあ、竜人は番に出会うまでは感情の起伏が薄いという点は全く当てはまらなかったようだが。」


 番に出会うまで、っていうか、番以外は、が正しいんじゃない?まあ、でも、コートさんやジンさんへの塩対応はまた違うのかも。領館のみんなにも好かれてるし佐山くんとは近過ぎるくらい仲良しだし。


 お墓もこれまた派手だった。ていうか、蔵?蔵よりデカいな、教会?え、どこに供えればいいの?あ、中に入るのか。

 これ、デスマスクって言うんだけっけ?それがあったりでちょっと怖いんだが。


 一番新しいお墓。これがバルトのお母さん、ソヨウさん。の、デスマスク。を元にした胸像。が乗ったお墓。お花と、食べ物と、きっと好きになったであろう日本酒一升瓶。これはジュンさんが墓にかけてやれって言ってたんだけど、いいのかな。バルトに聞いたら虫が来るかもしれないから供えるだけにしてくれと言われた。全くその通りである。コップ一杯分だけかけて、水で洗い流した。センチメンタリズムとリアリズムの狭間な行為だな。


「ちょっと見て回ってもいい?」


「もちろん。」


 竜になれる竜人が住んでたからか、広い。とにかく広い。この丘で訓練したとかそもそも家の敷地に丘があるってどういうことよ。

 クロはやっぱり虫を追いかけて走り回る。ついでに訓練するかとパパにかまわれてご満悦になった。途中で飽きて昼寝し出したけど。斜面に大の字になって寝転ぶと、五月の青空が広がっている。吹き抜ける風が気持ちいい。


「ねえ、ここ売ったらお墓はどうするの?」


「何処かに移動する。コノに土地を買って移してもいい。」


「お墓にいるのはみんな、ここで生まれた人たち?」


「そうでない者もいるが、まあ、大半はそうだな。」


「そっか。なら、売らない方がいいんじゃない?」


「気に、入ったのか?ここが。」


 おずおずとそう聞いてくるバルトは子どもみたいだった。


「うん。建物以外ね。でも、他はヨシ。ここならクロが大きくなってものびのび出来そう。家の中に丘があって林があって小川が流れてるなんて子育てにはサイコーじゃん。家は派手すぎるから、建て直すか空いてるとこにもっと小さい家を建てるかだな。どの部屋にいてもあー、家族がいるなーって思えるような、そんな家がいい。」


 わたしがそう笑うと、バルトは目を見張って、息を呑んで、それから声を出して笑った。


「そうだな。そうしよう。手を伸ばせばショウコとクロがいる家を建てよう。」


 それといつかは……ね。あとはわたしの勇気だな。

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