真銀週間(1)
あっという間に五月になって、大型連休だ。コッティラーノ第一ダンジョンのダンジョンクラス認定のための検査が行われ、無事、ハイクラスに認定された。全く喜ばしくない事態である。
それでも上の下といったところなのは、ドラゴンがうじゃうじゃいるだけでトラップが少ない、というところがポイントになったという。ちなみに評価員であるSランクパーティが潜る頃にはオーク軍は復活していたそうだ。飛び地の内装、わたしたちの報告より豪華になっていたらしい。
んなこと言われたら速攻で取りに行くよね、コートさんが。
コートさんがキィさんに双子コーデの話をしたら、キィさんわざわざわたしを訪ねて来て「お願いショウコちゃん、巻き込まれて!」と懇願された。どうやら双子コーデは不可避らしい。バルトの婚約者として出席し、ゼーキン家は軍務大臣であるバジー・ト・ウーフー氏筆頭の派閥、つまり元ゼーキン派を蔑ろにはしていないという政治的均衡を保つ為のパフォーマンスをして欲しいとのことだった。
新年の夜会ではなく、今回五月の夜会に。ドレスが間に合ってしまったから。
「婚約した記憶がないんだけど?」
「そこは呑み込んでくれ。」
「もっと言い様があるでしょ。」
「御老人たちにとって大っぴらな男女交際は即ち結婚を前提としている。よって、恋人になった時点で婚約者であるということなんだ。対外的にはその方がショウコを守れる。でなければ、前回のように下心のある者が擦り寄って来るからな。」
そうだった。ヨックバール派でもウーフー派でもない派閥の若者が挨拶にやたら来てた。ヨックバール派は総統子息の嫁候補として、ウーフー派はゼーキン家の血を繋ぐ番候補として、そういった方向の話に関しては全てわたしのお相手はバルトであるという前提で話をしていた。大した問題もなかったが、スキル発動したくなる程度には面倒なものではあった。
「婚約期間は年単位に及ぶこともあるし解消する者たちもいる。余り深く考えなくていい。」
「いや、それはいいんだけど。バルト以外と結婚することないし。」
大変驚いた顔をしていらっしゃる。だってそうじゃん。孤独という地獄に突き落とす覚悟なんて、いくら考えても出来そうにない。だったら、ずっとバルトといる。その覚悟の方が余程簡単だ。かなり消極的な考え方だから口には出さないけど。
感動したのか、ぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまった。本当に本能封印してんのかよって思うくらいバルトは暑苦しい。黙ってりゃ怜悧な美貌の麗人って感じなのにな。ソヨウさんもそうだったらしいけど、ジュンさん曰く「ソヨウは表情が豊かだから冷たく見えるのは余程腹が立ってるか余程腹が空いてるときよ」と言っていた。ソヨウさんよ。
バルトに関しては恋人に対する行動の基準が封印前、本能的にわたしにしたくなったことのアレコレだそうだ。封印してもしなくても余り変わらないんじゃないか?意味あるのか?
そういうわけでこれから首都。コートさん一家と一緒に行くことになったので、車にした。ラーメちゃんがまだ小さいし、飛んで行くと上空は寒いので風邪でも引いたら大変だ。運転は私とバルト。バルトも佐山くんに運転の仕方を教わったそうだ。我々より上手いのは何故。
「いやぁ、いいね。この自動車とかいうの、かなり楽だ。」
「この車、わたしたちの世界でも高級車ですよ。いいに決まってます。」
「サヤマくんは上流階級の出身だったの?」
「お父様が会社経営をしているそうです。」
娘さんたちは後部座席でクロと遊んでキャッキャしている。楽しそうだ。追突は他に車がなくてまずないのも安心。後はドライバーがぶつけなければ問題はない。一応、シートベルトはしてもらってるけど。チャイルドシートなんてよく出せたな、佐山くん。キィさんと子育て談義で盛り上がってた。
「へえ、そうなんだ。」
「ユキヒトも来れば良かったのに……。」
運転しながら気を散らすなよ。バルトが佐山くんのこと好き過ぎてちょっと嫉妬する。
「仕方ないよ。サヤマくんは依頼を受ける代わりに中央府と距離を置くって自分で言ったんだから。」
「旅行くらいいいじゃないか。夜会に出なければ問題ない。」
そうは言っても依頼が立て込み過ぎてスケジュール調整出来なかったんだよ。彼、毎日一心不乱に文字書いてるよ。仕事手伝っててびっくりした。邪念を消したいらしい。何の邪念。
そんなわけで首都到着。デッタちゃんとラーメちゃんのクロお泊まりしてぇ〜!攻撃がすごかった。後日ヨックバール邸に遊びに来ることで何とか矛をおさめてもらった。キィさんがコソッと「デッタはオーショックくんが憧れなのよ」と教えてくれた。まさかデッタちゃん、元々そっちが目的?やるな。
「まあまあまあ!こんなにおみやげ?」
行く度にカーテンの色が変わるオーク布。わたしは休暇までオーク布を手に入れるためだけに飛び地目指してダンジョンにせっせと潜っていた。戦闘はしていない。せっかくなのでゾーワ夫人にもお分けする。もちろん、長男ガーメッツ氏の奥方コーワ夫人にもだ。黒髪黒目で親近感がある。
「コーワはこの真紅がいいんじゃないか?」
「やあよ。ただでさえ黒髪でキツそうに見えるのに、真紅なんて着たら更に怖がられるじゃない。」
黒髪はキツそうに見られるのか。ちょっと衝撃。
「それはお前の目付きが悪いからグフゥッ!」
ガーメッツ氏はみぞおちに肘鉄を喰らった。デリカシーないのがデフォルトの兄弟なのか?いや、バルトですらここまでじゃないぞ。総統閣下だって普通だし。
「だけど、お前赤好きだろ!?こないだだってプレゼント何がいいって言ったら血赤ダイヤがいいって!」
「好きだけど好きだからワンポイントとか小物で使うんでしょ!ドレスにしたら派手になり過ぎるから!」
「二人ともおやめなさい。もう、いつもこうなのよ。ごめんなさいね、ショウコさん。」
「いえ、男性のお客様ってこういう方多いですから。女性のこだわりが分からないんですよね。みんな一緒くたで。その逆もまた然りですけど。コーワ夫人、この金などいかがですか?シャンパンゴールドでも少し落ち着いた色味なので、金と言っても派手になり過ぎない色ですよ。赤いダイヤモンドにも合いますから。この黒も光沢があって綺麗ですし、色の刺繍やレースを重ねれば充分夜会でも通用すると思います。」
「ふふ、ショウコさん、商会の方みたいね。」
まあ、元、ですが。
「黒、赤、金……クロの色だな。」
「あ、そうだね。」
「新年に向けてクロの色で仕立てるか。」
黒いドレスにゴールドのチュールレース。逆でもいいな。そういうのならアリかも。前回は何故かパステルカラーのドレス用意されてゲンナリしたもんな。女といえばピンクって思考が短絡的過ぎる。せめてくすみピンクなら良かったのに。
ちなみに男性陣にはダンジョン産天然皮革を贈呈。バルトの靴も注文済み。佐山くんの靴とわたしのブーツもだけど。
「お前も毎度ここに帰って来るのではなく、そろそろゼーキン邸に人を置け。ショウコさんを迎え入れるなら必要なことだろう。」
晩餐にて、御帰宅された総統閣下が仰った。現在のゼーキン邸はたまに清掃員と庭師が入る程度でほったらかしらしい。ていうか、まだ結婚は決めてないんだけど。
「まあ、いいじゃありませんか。思い入れのないあちらで過ごすよりも実家であるこちらで過ごす方がよろしいに決まってますよ。」
ゾーワ夫人は反対らしい。確かにほとんど使わない屋敷に人を置くのはお金の無駄だが、かといって毎度こちらでお世話になるのも気が引ける。
「あちらはそろそろ売りに出そうかと考えております。」
「お前な……それが許されるとでも?」
「許されます。私が当主ですから。」
「今年の人事は免れたが、来年はどうなるか分からんぞ。タブロイド誌にお前とショウコさんのことが載ったことで、官僚共はお前を中央府に戻そうと考えている。ガーメッツでさえも敷地内だが別宅に住んでいるのに、お前はこのままここに住むのか?他家の当主が?」
「私は中央府には戻りません。任期を終えた際に辞職するつもりです。そのままコノで暮らします。」
閣下だけでなく、他のみんなもさすがに呆れ返っている。確かに私も極端だなと思う。だからといって中央府に来るとなると冒険者を続けるには本部に席を移さなければならない。Aランクとなった今、こき使われることは目に見えている。それはお断りしたい。
「ショウコさんはそんなに首都に来るのはイヤ?」
ゾーワ夫人に尋ねられた。
「イヤというか、単にコノに愛着があるんです。冒険者仲間もおりますし、もうあちらでの暮らしに慣れてしまったので。第二の故郷だと思ってます。」
「そう……。」
「バルトはそれでいいのか?」
「生活出来れば職は選ばないので。冒険者になるのも一興だと思っております。」
ガーメッツ氏はあからさまにしょんぼりとした。こういうところ、兄弟だなって思う。顔の造形は似てないけど。
「いいではないですか、コノ。コッティラーノは特筆すべきところのない領ですけれど、気候も温暖で穏やかな気風がありますから。それに、あの、自動車?あれに乗ればすぐに来られるのでしょう?」
まあ、丸一日はかかりますけど。バルトのスキルで飛んで来れば五時間くらい。車だと朝イチに出て夕方に着く。山道が多いから時間はかかるが直線距離ならそんなに遠くはない。
「む、あれを再現出来れば良いのだが。」
「佐山くんに設計図でも再現してもらいますか?」
余り進んだ文明を取り入れるのはよろしくないと彼は言っているので佐山くんの判断次第だけど。
「またお会いしたいです。サヤマさんのお話はとても面白かったですから。」
気が合うのだろうか。佐山くんもオーショックくんによろしくと名指しで言っていた。
「夏はこちらには来ず、アイラン島に行くのだろう?」
「ええ、その予定です。ユキヒトも連れて行きます。」
「伯父上、僕も同行してよろしいですか?」
「オーショが行きたいというのなら構わないが。マ閣下もお喜びになるだろう。」
むしろひ孫ちゃんに会える!って狂喜乱舞しそう。
「ワイーロたちもドラゴンが見たいと言っているからな。我々も夏はアイランに行くか。」
「そうね。わたくしもようやく動けるようになったし。」
末っ子長女のマイーナちゃんは魔族の特性を受け継ぎコアを持っている。その為、成長がとてもゆっくりだ。しかも三年もコーワ夫人のお腹にいた。産後は母体の疲労が強すぎて、一年経っても回復しなかった。前回来た時はまだ寝たきり状態で、わたしたちがエリクサーだのネクターだのを大量に採取したお陰で、ヨックバール家でそれを一本買取りようやく復活。お元気になられて本当によかった。
夏の旅行は賑やかになりそうだ。




