表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/136

戸川祥子の日常(7)

 オークの王様が認識阻害を使っている。


 とはいえ、わたしのスキルは認識阻害の蚊帳の外。オールスルーをすれば見える。ただ、干渉は出来ない。そうすると、攻撃も出来ない。高位ランクモンスターのオークキングの相手は出来ない。よって、コートさんに全面的にお任せするしかない。


「ひ・さ・び・さ・に!やっちゃうぞぉ!」


 コートさんのこのノリは面倒だなぁと思うけど、奥様のキィさんには「そういうときはほっといて」と言われているのでスルーする。

 オークキングは部屋の入り口そのものに認識阻害をかけているらしく最奥を行き止まりに見せている。まあ、暗くてまだ奥が分かんないけど。


「下っ端が二十、隊長クラスが四、将兵クラスが一、王様が一。結構多いな。うーん、課題はどうしようかな。最初の失敗を生かしたものがいいなぁ。」


 てことは我々が倒して来た小隊と同じ数だけいるわけですね。


「ショウコ、ネクター持ってる?」


「はい。売るほどあります。飲みますか?」


「売るほど!はは!クロに飲ませてあげて。私は何にも力を使ってないから大丈夫だよ。」


「一応、一本渡しておきますね、エリクサーも。」


 エリクサーもネクターも似たような効果ではあるが、エリクサーが治癒効果、ネクターは体力回復に優れている。まあ、どっちの効果をより高く求めるかでその時々で使い分ける感じだ。

 10ml瓶で配布された理由も、戦闘中にサッと飲み切れる量ということらしい。瓶はその辺に投げ捨てればいいし。理にかなってる。マラソンの給水みたいだな。わたしはペットボトルやタンブラー持ち歩く感覚でいたから全然用途が違った。


「ありがとう。使わなくてももらっていい?」


「もちろんです。」


「太っ腹だねぇ。」


 確かに最近腹はちょっとヤバいかなと思ってる。冒険者は運動量も多いけど、わたしは歩いてるだけなのでそんなに腹筋使わないしな。単に飲み過ぎと言われたら否定出来ない。

 いや、コートさんがそういう意味で言ったのではないということは分かっているが。


「というわけで、これからオーク軍と多勢に無勢の戦闘になる。クロは小物を蹴散らしながら隊長を二体獲ってごらん。分かるかな?ちょっとだけ大きいヤツだよ。」


「さっきの大きい方ね。大丈夫?」


 クロは頭を一度クイと持ち上げた。了解の合図だ。分からないときは頭を下げる。コマンド訓練のひとつとして覚えている。賢い。

 シャパリュは狡猾で残忍なのに、クロはとてもいい子。さすがウチの子。


「ショウコはクロが取りこぼしたのにトドメを刺してくれると早く終わるかな。いける?」


「はい、それくらいなら。」


「クロ。いいかい?ショウコのスキルでレベル9ならオークはすぐには気付かない。だけど、ジェネラルとキングは何者かが侵入したことには気がつくだろう。クロのやるべきことは撹乱して敵の統制を乱すこと。そこから私が切り崩していくから。分断された兵列に斬り込んで行って、まずさっきのオークの大きい方を獲っていこう。その後は小物を掃除していてくれればいいよ。大丈夫、私はオークキングくらいに遅れは取らないから、こちらのことは気にしない。下手に手出しをしたら、クロまで斬ってしまうからね。危ないから来ちゃダメだよ。」


 クロがもう一度頭を上げると、「いい子だ」と言ってコートさんはクロの頭を撫でた。


「ここから最奥には五分。あちらはもう構えている。ショウコは突入寸前にレベルMAXで。いきなり気配が消えればあちらは動揺する。そのまま二人は先に本拠地に侵入してくれ。待機場所は……そうだな。右翼側がいいかな。侵入二分後にクロはまず隊長、オークウォリアーを一体狩る。ショウコはさっきやったみたいにクロの攻撃を見極めて攻撃のインパクト直前にスキルレベルを9に。この切り替えが重要だ。クロ、首は一発で落とすんだぞ。頑張れよ。ショウコはインパクト直後にまたレベルMAX。クロが一体目を斬り落としたら私が入る。クロがウォリアーを二体獲ったら、その後はレベル9維持で二人で下っ端オークの殲滅に取り掛かってくれ。左翼はこっちに丸投げでいいよ。」


「分かりました。」


 そこからトコトコ歩いて五分。コートさんとアイコンタクトを交わし、わたしは〝オールスルー〟を唱えてクロとオーク軍の本拠地に潜入した。時計を見つつ、クロを攻撃位置につかせる。ドキドキするな。クロは早く戦いたくてウズウズしてる。やっぱりモンスターだからかな。戦うことは好きらしい。

 ボス部屋並みに広い空間。ここが本拠地、飛び地だから裏ボス部屋だな。オーク軍は直前に消えた気配を警戒し、既に臨戦態勢だ。おお、あれがオークキングか。想像より大きいな。天井に頭が届きそうだ。図鑑にある身長ではイメージが湧かなかったけど、実物はこんなに大きいのか。


「クロ、GO!〝オールスルーレベル9〟!〝オールスルー〟!」


 わたしたちの気配が突然現れて消えたことで虚をつかれたオーク軍に動揺が走る。コートさんが気配を顕にして走り込んで来て大きく跳躍。本当にコートさんの戦闘スキルは〝鉄拳〟〝剛腕〟だけなのか?

 オークの小兵の頭を飛び石に次のオークウォリアーにクロが向かい、可愛らしい猫の手をパーに開いてかまいたちだ。


「〝オールスルーレベル9〟!〝オールスルー〟!」


 この連携訓練も先週後半でたくさん行った。本日初実戦でオーク軍というのもなかなかハードルが高い。それでもここまでの行程はクロのスキルレベルを上げる為にわたしのスキルはほぼ使わずに来た。クロもネクターで体力を回復したことだし、わたしたちに関しては不安要素はない。

 コートさんがジェネラルオークの首を狙う。速い!コートさんの剣はミスリルとオリハルコンの合金らしい。つなぎになんだかの金属がもう一つ入っているとは言っていたが、基本的に切れないものはない。この世界の現代では失われた技術なんだそうだ。伝家の宝刀じゃないか。何で自称放蕩息子のコートさんが持っているのだろう。


「〝オールスルーレベル9〟」


 そのままキングに狙いを定め、振り上げられた巨大な斧を剣でいなしながら腹に一発拳を打ち込んだ。低位モンスターならコートさんの拳を一発で砕け散る。剣も剛腕を使ってレイピアのような細剣とは思えない重さを感じる一撃。うーん、この人、やっぱり何か秘密がありそう。

 左翼側のジェネラルオークの一体がキングを守るために動く。すかさずダガーを投げつけ牽制。かと思いきや、そのまま絶命してしまった。ダガー、貫通したんですけど。しかも投げた三本全部当たってた。

 オークキングはオーク語で何かを叫んでいる。ブモブモ言ってるだけなんだが。これで細かい指示が伝わるのが不思議。もう一体のジェネラルオークが投擲して来た斧をマントで巻き込んで進行方向を逸らした。その隙に上から降って来たキングの斧をいつの間にか己の武器に変えたジェネラルオークの斧で横殴りにして回避。


「ショウコ!自分の仕事忘れないで!」


 あ、そうだった。コートさんマジですごいな。ちゃんとこっち見てたんだ。クロは今が狙い目と武器を失ったジェネラルオークに近づく。オークウォリアーはまだクロの気配を追えていない。ジェネラルの方も警戒はしているがオークの頭をランダムに飛び移っているからか大まかな方角しか分からないらしい。


 ていうか、クロ!それはクロの仕事じゃないよ!


「〝オールスルー〟!」


 雑兵狩りの手を止めてレベルMAXに切り替えた。


「クロ!」


 あ、ダメだ。興奮状態で耳に入ってない。


 飛び上がって猫パンチの体勢に入る。ジェネラルの手には既にウォリアーから借り受けた斧がある。インパクトの瞬間を狙わないと巨大に似合わぬ素早さを持つクロがジェネラルオークに反撃を喰らってしまう!


 よく観察しろ、わたし!「〝オールスルーレベル9〟!〝オールスルー〟!」いった!!


 ズズン……と地響きがしたと思えば、コートさんはオークキングを仕留めていた。ここからはもう小物しかいない。将や王を失ったオークが散り散りになり、わたしはスキルをレベル9にしてパニック状態のオークたちを殲滅していく。

 クロとコートさんが大量に屍の山を作り、そこから逃れて来たオークを入口付近で待ち構えて槍でひと突き。オークは頑丈だからのたうち回っててもなかなかしぶとく動いている。ひっくり返って足をバタバタしてる姿はまるでGのようだ。うげ。首を突いてトドメを刺したらぐったりした。


「クロ!ショウコの援軍だ!こちらはもういい!!」


 コートさんがそう叫んで一分後にはもう戦闘は終わってしまった。コートさんはオークキングとジェネラルオークをマジックバッグに仕舞い込んだ。


「クロはまだ幼いんだな。戦闘で興奮してしまって作戦を忘れたね?」


「みう。」


 怒られたのが不本意っぽい。しっぽの先をしぱたしぱたと床に叩きつけている。


「なんて言ってるのかな。」


「さあ。討ち取ったんだからいいでしょ的な感じですかね。」


「全く。予定と違う動きをすれば計画が狂ってパーティ全滅ってこともあるんだよ?今日のオーク軍は力押しで何とかなるレベルだったけど、これからは気をつけてもらわないと。こういうのはバルトの指導の方が聞くかもなぁ。一度、一緒にダンジョンに何日か潜ってもらった方がいいよ。まあ、アイツに暇があればだけど。」


 うーん、言えば行ってくれると思うけど……休日にゆっくり出来ないのは可哀想な気がする。わたしは自分で調整して平日に休めばいいけど、バルトは出来ないしな。


「ここの第一はハイクラスになるから、行くなら第二かどこか別のところだな。さすがに領司様には旅行の予定調整が難しいかぁ?」


「五月に首都に行くのでシディーゴのダンジョンに潜るのはアリですか?」


「うーん、出来ればロークラスの低層階からをオススメしたいんだけど……ミドルクラスの中層階でも変わんないかな。それならシディーゴ第二か第四に潜ればいいと思うよ。なんだ、五月は首都に行くの。」


「ええ。カーテン領司、あ、元領司にクロの鑑定をしてもらいに。」


「なるほどね。だったらキィも夜会に一度くらい付き合ってくれるかな。」


 わたしが夜会にお付き合いしたくないのですが。


 あ、それよりも気になる発言が。


「あの、第一、ハイクラスになるんですか?」


「あは、気付いてなかったのか。今回のオーク、キングじゃなくてエンペラーだったんだよ。キングにしては大き過ぎだったでしょ?」


 並んでもらわなきゃサイズ感が分かんないんだよ。キング見たことないから知らないよ。

キングとエンペラーの違いはサイズだけ

群れの中の役割は全く一緒

ペンギンと同じ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ