戸川祥子の日常(6)
飛び地はオークの巣だったようで、コートさんはその後も小隊を見つけるとクロに狩り取らせていた。オーク、いすぎなのではないだろうか。
「みんな飛び地の地下に向かってってるように見えたね。」
「そうですね。地下に本拠地があるんでしょうか。」
「オークキングはいるんじゃないかなぁ。」
「じゃないかなぁ」と予測風に言っているが、先程からコートさんは意識を周囲に張り巡らせている。侮れない人だな。彼への評価が大分変わった。
「キングのところまで行きますか?」
「キングは高位ランクだからね。私には討伐義務があるから。二人はスキルで消えてていいよ。雑兵を適当に散らしてくれると楽かな。」
マッタさんに頼まれた仕事の一つだ。冒険者の個人やパーティ、モンスターにランク付けがあるように、ダンジョンそのものにもランク付けがある。ハイクラス、ミドルクラス、ロークラスの三種別になっていて、コッティラーノ第一はずっとロークラスの中でも初心者向けだった。今回大幅な更新の後から続々と高ランクモンスターが現れるようになり、ミドルクラスを飛び越えてハイクラスになるのではないかと噂されている。わたしたちの仕事はその評価のための事前調査でもある。実際の評価は本部所属のSランクパーティが行うそうだ。
「オークキングくらいならまだミドルクラスでいいんだけどなぁ。ハイクラスになられると仕事が増えちゃうよ。でも、高位ランクのドラゴンの目撃情報もあったしなぁ。そうなるとSランクパーティ常駐じゃないとマズイぞ。」
「そういえば、コートさんってパーティ組んでたんですか?」
「ああ、そういう話も知らないのか。んとね、私とジンでコノに来て、当時のギルマスの紹介でコッティラーノ出身の!ブンボとネンドとウチの奥さんとで組んでたんだよ。一応、パーティランクもAだった。Sに上がるのはジンが断固拒否で。あはは、アイツ面倒臭がりだからなぁ。他の三人は首都に行きたくないって言うし。ウチの奥さんが妊娠して引退してからはしばらく四人でやってたんだけど、ブンボとネンドも結婚したし、子どもも出来て、それじゃあみんなで支部に就職するかって話になってパーティは解散したんだ。」
「それは相当強かったんでしょうね。」
「それなりにね。まあ、それでも第一のスタンピードでは……ま、この話はいいか。」
「あんまり皆さんその話をしませんね。無理もないですけど。」
「そうだね。シディーゴ第一がもっと早く踏破出来てたら、あの時、ポーションがもっとたくさんあったら、まあ、色んなこと考えるよ。去年の第三もね。」
「そうですね。」
わたしのマジックバッグには今、大量のポーションが入っている。これがあれば、サンちゃんは助かっただろうか。そんなこと、今更考えたって意味はないのだけど。
「冒険者に別れは付き物だ。気持ちを切り替えるのと故人を偲ぶのはまた別の話。まずは自分が生き残ることを考える。次にパーティの仲間が生き残ることを考える。敵を倒すのはそれからでいい。逃げたっていいんだよ。」
「そうなんですか?」
「逃げて、戦える人を増やして戦う。戦略的撤退ってヤツさ。若い子たちはその辺がどうしても逸ってしまうから。第三のような水際だって、そこを守れていればいい。まあ、まさか、バルトが来て一発解決になるとは思わなかったけど。来訪者の中でも竜人、エルフ、魔族は特別なんだ。それが王政時代のこの国を支えていた。ま、その魔族の代表であるマ総統がそれを壊しちゃったわけだけど。」
特別な竜人という種族の末裔であるバルト。縛り付ける為に国は彼にゼーキンの名を継がせた。そう考えるとわたしたち来訪者とバルトは同じような存在なのかもな。
「あとは特別というとサヤマくんだな。ユキヒト・サヤマの存在はどの国でも大きいよ。他国からの招待や依頼が山盛り来てるらしいじゃないか。」
「あー、彼、今すごく忙しそうです。荒んでます。」
「そうか。まあ、その辺は保護責任者のバルトが捌いてくれると思うけどね。デートの時間は取れてるんでしょ?」
「一応、それくらいは。」
「アイツ、ソヨウ夫人が亡くなってからいつも自分はひとりぼっちみたいな顔してたから、ショウコとくっついてくれてうれしいよ。誰といても独りなんて悲しいじゃないか。私たち、幼馴染だっていうのにね。家族にだって線引きして。」
それだけソヨウさんの存在がバルトの中で大きかったということだ。バルトはソヨウさんが自分の為に命を落としたと思ってたんだから。
「アイツのこと、幸せにしてやってね。」
「頑張ります。お互い、手探りですけど。」
「まあ、男と女なんて深ぁーい溝で区切られている。それはどのカップルや夫婦にもある。するべき努力は溝を埋めることじゃない。架け橋を作ることさ。」
上手いこと言ったと自信満々にドヤるコートさん。
その顔をしなければいい話だったんだけど。
そこで、気配を探りながら先頭を歩くクロが足を止めた。コートさんは既に剣に手をかけている。
「クロ、偉いぞ。キングの認識阻害に気付くなんて。野生の勘は素晴らしいね。」
コートさんの褒めて伸ばす教育法、わたしも参考にしようと思った。




