戸川祥子の日常(2)
「み!」
「マジで猫。」
「モンスターなのに幼体だ。」
「きゃわうぃ〜ね、まだ声が赤ちゃん!」
「クロ、おいで。」
「みゃ!」
マッタさんに呼ばれて応接ソファとローテーブル経由でギルマスのデスクに飛び乗る。いとかわゆし。
「賢いな。」
「コマンド訓練したの?」
「いいこちゃんでしゅね〜!オジサンのお膝にもおいで〜!」
「みゃう!」
「おい、コート。気持ち悪いぞ。」
コートさん、猫好きなの?
あとコートさんにオジサンて言われると年上のわたしの立場が。
「モッフモフ!毛並みもいい!」
コートさんはクロに頬擦りして嫌がられている。ちょっとしつこいよね。
「それで、クロの訓練だっけ?」
「はい。お願い出来ますか?」
「誰がやる?」
「ハイハイハーイ!私がやります!」
「ジンがやった方がいいんじゃないか?コート、ウザがられてるぞ。」
「ジンはオールラウンダーだしなぁ。」
なんとハイスペック。ハンちゃん、ジンさんは高嶺の花だぞ。
「でもでもでも!私の〝危険予知〟は獣の勘に近いから!そういうの鍛えるには私が適任だよ!」
正直言って、一緒にダンジョンに潜るならとっつきづらいジンさんよりコートさんの方がいい。
「わたしとしてはコートさんにお願いしたいです。シャパリュとしての能力を伸ばすとなると、確かにコートさんが合ってると思うので。」
「それはそうだけどね。でも戦闘だけならジンのが上だよ?」
「そこまで一生懸命モンスターを狩るつもりないですから。トレジャーハンターなので。」
最後の一言が効いたのか、マッタさんはクロのコーチをコートさんで許可してくれた。ホッとしたわ。ジンさんだとバルトが不安がるからな。
そんなわけで、コートさんと訓練メニューの打ち合わせだ。右手にペン、左手にじゃらしを持ち、クロの相手をしている。器用だな。
「どうする?低層階まで行く?」
「出来れば……。ご家族の方は問題ありませんか?」
「まあ、最近滅多に外泊はしてなかったけど、大丈夫だよ。下の子ももうそこまで手がかからないから。」
「なら、低層階までお願いします。」
「そうだね。低位や同程度のモンスター相手にしててもあんまり意味なさそうだから。」
「一度、お家にご挨拶に伺ってもいいですか?」
「あはは!そんな心配されないから大丈夫だよ!あ、でも娘たちがクロに会いたがるかもなぁ。今日帰ったら絶対自慢しちゃうからなぁ。」
娘さん、八歳と五歳だっけ。確かに喜びそう。
一週間は地上で戦闘訓練となったので、その間にご挨拶に行くことになった。手土産に焼き菓子を焼き、数日後にご挨拶に。
「どうも、ご無沙汰してます、キィさん。」
「ショウコちゃん、久しぶり!色々おめでとう!」
色々にまとめられている。
「あ〜、嬉しいわぁ!これから夜会に連行されてもショウコちゃんといればいいんだから!」
出た。セレブリティ問題。
「にゃんこだぁ!」
「違うよ、シャパリュだよ。モンスターだからね。」
「モンスターはパパがやっつけるんでしょ?」
「この子はショウコちゃんの手下だからやっつけないんだよ。」
手下って。八歳児の発想よ。
「手下じゃなくて家族かな。パートナーでもいいよ。」
「ショウコちゃんのパートナーはバルトおじさんでしょ?」
子どもにまで話が広がっている。思わずコートさんを睨むとお手上げポーズをした。
「ごめんごめん。でも、その内タブロイドにも載るんじゃないかな。なんてったって、バルトは最後のゼーキン家だからね。」
「そんなにゼーキン家ってこの国で重要なんですか?」
「まあ、この国最初の来訪者の家系だからね。直系を絶やしてはならぬってみんな思ってるんだよ。」
「それって、マ総統の考えと真逆では?」
「あはは!鋭いな!」
「ほらほら、難しい話はやめにして、食事にしましょ。クロちゃんのご飯はどうしたらいいかしら。」
「持って来ましたからおかまいなく。」
「一応、お魚焼いといたんだけど、食べる?」
「なんでも食べるので大丈夫ですよ。」
佐山くんにはそろそろ例のブツをあげてもいいと言われているので用意している。子どもウケ間違いない。
「うんわあ!かわいい!」
「ペロペロしてる!」
「わ!手もなめた!」
思った通りの評判だ。ここが日本ならCMに出したいところだ。動画はバッチリ撮っている。
「いや〜、シャパリュ飼いたいとか言われたらどうしよう!」
「猫くらいならいいんじゃないですか?」
「そういう習慣がないからなぁ。」
「わたしの国では個人宅でペットを飼うのは割とポピュラーですよ。」
「文化が違うんだなぁ。」
食後のお茶をいただきつつ、可愛いクロと可愛い娘さんたちの戯れを眺める。
「それで、結婚はいつなの?」
「ぶふッ!」
「やだ、ショウコちゃん、照れちゃって!」
いや、いきなり豪速球投げて来たのキィさんだよね?
「結婚披露会には呼んでね!」
「まだ結婚はしません。」
「あら。でもショウコちゃん、離婚歴あるし三十でしょう?今すぐしたって遅くないわよ?」
「あー、それなんですが、実際は結婚してたわけじゃないんです。」
「そうなの?」
「婚約中に浮気されまして……。あちらは初婚年齢も高いので。」
「やっぱり文化が違うんだなぁ。」
それで済ませられるコートさんの懐の広さ。全然放蕩息子じゃない。
「まあ、バルトは浮気の心配ないから安心だね!」
「そうですかね。」
「だって竜人でしょ?特性がほとんどない子孫でも一途な人が多いんだよ。」
そうなんだ。知らなかったな。結婚を先延ばしにしたのはわたしの問題だ。バルトがどうのは関係ない。
「子育てって……大変ですか?」
「大変よぉ、毎日バッタバタ!」
「乳母もシッターも頼んでもいいって言うのに、嫌だって言ったの自分でしょ?」
「庶民は乳母もシッターも頼んだりしないのよ!託児所と学校だけで充分!お金もったいないわ!」
キィさんは元冒険者で現在日中はどこぞの商会で荷出しをしているらしい。スキルがハナちゃんと同じ〝怪力〟だからな。ちなみに姉さん女房。わたしの一つ上だ。
「私の個人資産があるから別にいいのに。」
「やだわボンボンって。金銭感覚が違いすぎて。」
「わたしもそれはちょっとどうかと思います。」
「でしょう!?」
「愛情もお金もかけてあげたいじゃないか。」
「愛情があれば充分!」
コートさん、愛情には溢れてるからな。この二人、おしどり夫婦で有名だし。たまにめんどくさいとキィさんと娘さん二人は言っている。
「あ!デッタずるぅい!こーたいして!」
「ラーメはさっきずっと抱っこしてたでしょ!」
「毎日ああなのよ、すぐケンカして。あなたたち!クロちゃんがイヤイヤしてるでしょ!やめなさい!」
どうやらクロの取り合いが始まったようだ。なんでだろう、クロが一番大人かもしれない。仕方ないなという顔をしている。
「まあ、こんな感じだよ、子育てって。」
「そういえば、コートさんはどうして正規職員に?というか、なんでコノに?首都のセレブな生活を捨ててわざわざ来たんですか?」
「ん?知らない?ゴズさんに憧れて来たんだよ。ジンもそう。Sランクはね〜、案外叩き上げの人がいないんだよ。みんな元貴族の血を引いてるの。スキルを複数持つっていうのが王政時代の平民と貴族の線引きだからね。やっぱり高ランカーはそういう人が多い。そんな中で、〝一撃必殺〟のみでのし上がったゴズさんはコソアードの少年にとって憧れなのさ。」
「そこでセレブのコートさんとジンさんが憧れる理由が分かりません。セレブじゃないですか。スキルだって複数あるのに。」
「それはやっぱり……男の子だから?」
「男の子。」
「そ。男の子。」
男の子と言われても分からん。英雄譚が好きとかそういうことなのだろうか。それよりもゴズさんってそんな有名人なのか。
「あ、でも、ジュンさんがここにいる理由は?」
「あー、なんでだろうね。五十年くらいここにいるらしいけど。ソヨウ夫人の教育が終わって、あ、アレか。夫人の番が見つかった辺り?総統閣下がいるからもうお守りはいらなくなったみたいなこと言ってた気がする。」
ジュンさんはソヨウさんのことが好きだったと言っていた。話を聞いてると、普通の恋愛感情ではなさそうだけど、可愛くて仕方なかったって感じはする。なんだろ、どちらかというと親子的な。
「それでなんでコノ?」
「一番安定してるからじゃないかな。案外、他の領は忙しないからね。だからバルトが異動してきてビックリしたけど、これも運命なのかな。それでショウコに出会えたんだもんね。」
いんや、かなり仕組まれてると思うけどね。
ソヨウさんに。
キィ・ウ・ムーケイ(31)
スキル〝怪力〟
元Bランク冒険者
コノ出身
セレブリティなお付き合いは面倒臭い
祥子という庶民仲間が出来て喜んでいる
奇異荒唐
デッタ・ウ・ムーケイ(8)
ラーメ・ウ・ムーケイ(5)
デタラメ姉妹
コノでは美少女姉妹で有名
パパには塩対応がデフォ
バルトのことをおじさんと呼ぶ
デッタちゃんの初恋はオーショくん
派閥に阻まれた恋路というのを理解しているおませさん
ゴズの息子ウシーはラーメが好き
ラーメはウシーがいじめてくると思っている




