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ダンジョンは危険がいっぱいだけど、全部スルーしていきます  作者: 里和ささみ


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恋人になろう

悩まれる方がいらっしゃるのでタグに恋愛を入れました。

ジャンルはこのまま行きたいと思います。

「あ、その、なんだ。」


「何?」


「今の話は、その、ショウコが私を好いていると、思っていいのか?」


 確かに肝心な言葉を言ってない。


「それともこれは私の思い上がりか?」


「そんなことない!その、えーと、あの、好き、だよ?」


 え。何でそんな顔すんの。八の字眉で、悲しそうな顔。自分でもちょっと情けない告白だったなと思ってるんだが。


「なんで疑問系なんだ。」


「ご、ごめん。恥ずかしくて……。」


 つい手で視線を遮ってしまう。だって恥ずかしい。いい歳した女が、こんなに照れて。年齢は関係ないか。わたしがこういうのに慣れてないだけだ。今までの恋人には、「好き」と言われたら「わたしも」と答えるだけで自分からきちんと気持ちを伝えたことがない気がする。これからは治していかなきゃ。


 深呼吸!でも、結局早口になってしまった。


「えー、好きです。わたし、バルトが好き。」

「いつから?いつ、ショウコは自覚した?」


 食い気味。対面に座ってたのに身を乗り出して来た。久々に顔が近い。額をぐいと押し戻してこちらも体勢を整える。


「それ聞く?」


「聞きたい。」


 いつから?いつだろ。自覚が曖昧だな。どこを自覚した瞬間とは決められない。強いて言えばだ。


「第三ダンジョン……かな?」


「結構前だな。」


「そうだね。今考えればって感じだけど。助けに来てくれたとき、名前を呼ばれて、すごくホッとした。ゴーレムに向かってく背中を見てからああ、もう大丈夫だって、なんでか思ったんだよね。」


「だが、あの後、私に番にはならない、私を好きではないと言ったぞ?」


 覚えてたんだ。覚えてるか。あのときにお友だちから始めましょうと言ったんだから。実質、フッたようなモンだ。通用しなかったけど。だけど、食い下がることを期待して提案を投げた。バルトに期待を持たせたかったんじゃない。わたしが期待した。この期に及んでまだ期待するのかと自分でも思った。試し行動というヤツなのかもしれない。わたしの課題はここだな。治せる気がしないが。

 翠色と橙が不安げに揺れている。イケメンにしか似合わないって佐山くんは言った。確かに、バルトによく似合う。青みのある銀髪に翠と橙なんて取り合わせ、普通の人ならガチャガチャするだけだと思う。

 細くないのに切長の目。高く筋の通った鼻梁。形の良い薄い唇。色の白さからか中性的な顔立ちを引き締める男らしい凛々しい眉。


 言ったら喜ぶかな。バルトの顔、本当はすごい好みだって。顔で選んだわけじゃないけど。


「番にはならないって言ったけど、恋人にならないとは言ってないよ。」


 それは屁理屈では?と言われた。確かにそうだけど。あのとき、わたしはバルトを試したんだ。わたしのことを本当に好きなら、本能に打ち勝って欲しいと心のどこかで考えたんだと思う。偉そうだな、わたし。


 まさか佐山くんのスキルで封印するなんて思わなかった。そこはまだちょっと引っかかる。


「恋人……。」


「恋人でしょ?もう。」


「隣に座ってもいい?」


 バルトがクロにしたように、わたしはソファの空いてる隣をポンポンと叩くとバルトは即座に飛んで来た。はや。本当に本能封印したのかとちょっと疑ったわ。


「ねえ、封印解けてない?」


「解けてると言ったら?」


「本能に打ち勝つまではおあずけかなぁ。」


「何を?」


 言わせる気か。いやらしい目で見てくんな。まだそういうコトはしたくない。いや、してもいいんだけど。そもそも話が終わってない。


「それでね。」


「話が続くのか。」


「続きます。それで、キョウちゃんの元カレとわたしを引き合わせたことあったでしょ?」


「あったな。」


「あの時にさ、色々話して、他にも理由はあるけど、あの辺りくらいから、わたしのために、わたしがどうすれば喜ぶかとか、わたしが何を望んでるのかとか、一生懸命に考えてくれてるなって感じるようになって。うれしいけど、先回りして道を整えようとするのはやめて欲しいかな。自立したいって何度も言ったのに。特に!わたしへの質問はわたしが考えて答えるから、これからは勝手に返事するのやめてよね。相手に対しても失礼だよ。」


 思い当たる節がありすぎるのか、バルトはしょんぼりして肩を落とした。


「善処する。」


「絶対だよ?」


「頑張る。」


 なんだそれ。可愛いな。少し口を尖らせたのは拗ねてるのかな。ちゃんと実行してよ、ホントに。魔王様のリゾートご招待だって最初は勝手に断ったし。

 指で頬をぶにっと潰す。頬の皮、柔らかいな。引っ張ったらよく伸びそう。


「あと高額な贈り物もなしね。」


「うん。」


「でも誕生日プレゼントはうれしかった。マ総統の付与、すごい助かってる。クロにまで影響あるみたい。わたしの所有物扱いだからかな。」


「クロの毛並みが美しいのはそれが理由か?」


「さあ。元から綺麗だけど、ダンジョン潜りまくってる割には確かに綺麗だよね。」


「クロ……今日は一緒に寝られると思っていたのに……。」


 分かる。分かるよ。猫と一緒に寝るって憧れだよね。だけど体験して分かった。寝づらい。寝返りがうてない。バルトもそのつらい幸せを味わうといいよ。


「まあ、今夜は諦めるか。子どもに見せられないしな。」


「まだ話終わってないんだけど?」


「しながらでも聞ける。」


「わたしが話出来ない。したいの?」


「したいよ。」


 即物的過ぎない?時間置きたいんだけど。


「ダメか?」


「ダメではないけど……。あ、全然関係ないんだけど、シディーゴ第一の、む!うー、は、だから!」


「何ともない?」


 キスされた。唾液を流し込むのはデフォルトなのか。だけどコイツ、多分わたしが全部初めてなんだよな。じゃあ、あの日したキスもファーストキスってことか。いきなり舌突っ込まれて唾液流し込まれたけど。


「暑くないか?」


「暑くないね。」


 番の体液はお互いにとって媚薬。熱に浮かされたような心地になる。かなりつらい。本能封印しても竜化出来たし、体に影響ないと思ってたからこういうのも変わらないのかと思ってたな。この前は飲み残しのグラスについてた微かな分だけでも飲み過ぎたみたいになったのに。


「何でだろ?」


「気にして欲しいところはそこではないんだが。ショウコもそういうところに疑問を持つんだな?」


「も?何で?普通に仕組み気にならない?」


「ユキヒトが本能によって脳から分泌される物質が止まるのではないかと言っていた。竜化が出来るということは、番に対面したときに出るホルモンと竜化は違うホルモンであろうと。理解出来るか?」


「まあ、ざっくりと。」


 佐山くん、さすが賢いだけある。ノリと勢いだけではなくてきちんと考察もしていた。


「本能封印っていつしたの?」


「前回飲んだ後だな。グラスの飲み残しでショウコが酩酊状態になって、ああいうことが頻繁にあると危険だと考えたんだ。」


「じゃあ、旅の前か。ずっとこのままの予定?」


「そのつもりだ。竜化出来るなら特に困らない。仕事にも使うわけじゃない。そもそも竜化自体も飛翔スキルを使うときくらいにしかしないから。」


 そうかもしれないけど、いいのかな。わたしの発言が原因とはいえ、これでいいのかな。バルトは薬で無理矢理自分を変えているようなものだ。それって本当にバルトと言えるんだろうか。本能に打ち勝って欲しいというのは完全にわたしの我儘だ。

 戻してもらった方がいいんじゃないか?でもまたアレになるのはなぁ。いや、旅の前に本能を封印したのなら、佐山くんと話してからあの飲み会までそこそこ時間があった。その間も、アピールは結構控えめだったぞ。それってわたしの考えに寄り添って努力してたってことだ。

 しかし本当に体に影響がないのだろうか。お付き合い始めましたー、病気になりましたー、じゃ洒落にならないぞ。だって、佐山くんのスキルで肉体改造したグレップの人、碌な結果になってないじゃないか。


「その方がショウコも安心だろう?」


「え、そんなことは……体も不自然な状態が続くことになるから心配だし、なんか、最近のバルトはバルトじゃないような、ちょっと寂しいような……。」


「意外だ。」


「わたしも意外。」


「だけど、これからは恋人だから。話し合いをして、落としどころを見つける。そうだろ?」


 キョウちゃんの元カレと会った日に言ったことだ。わたしの話をちゃんと覚えてくれているのがうれしい。


「うん。あ、でも、佐山くんのスキルはいずれ解いて欲しい。グレップの話、聞いた?」


「何の話?」


「不老不死の皇帝もそうだけど、スキルで疲れ知らずに肉体改造した兵が最後は狂っちゃったって話。やっぱり不自然な状態は体に負担がかかるんじゃないかと思うんだよね。だからさ。」


「そうなのか……。だけど、今はいい。少しこのままでいる。また迷惑はかけたくないからな。」


「え、いいの?」


「うん。」


「でも、竜人としてのバルトのことも、ちゃんと受け入れるからね。話し合いは必須だけど。」


「分かった。そうだな……結婚したら解いてもらうか。」


 結婚。するつもりなのか。いや、そうだよな。こっちの初婚年齢は二十代前半。わたしたちはかなり遅れている。わたしは常識が違うから気にはしてないけど。


「不安?」


「う、まあ。」


「ひとつずつ話し合って不安を解消して行こう。そうして大丈夫だとショウコが思えたら、私と結婚して欲しい。」


「それって、最終的なプロポーズはわたしがするってことにならない?」


「男から申し入れるのが普通かもしれないけどな。私はショウコのタイミングでいいと思う。」


 気遣いなのかもしれないけど、それはそれでハードルが高い。困った。


「急がなくていい。待つのは得意だ。」


「ウソだぁ!」


「母ほど待たなくていいんだから、短いものさ。」


 バルトの母、ソヨウさん。会ってみたかったな。


「お母さんのお墓って首都?」


「ああ。」


「お墓参り行きたい。」


「五月に行こう。」


 そうだ。佐山くんにお願いして、おじいちゃんとおばあちゃんのお骨を取り寄せてもらおう。位牌も。写真も。本物じゃないかもしれないけど、わたしはわたしを愛してくれなかった人じゃなくて、わたしを愛してくれた人、愛してくれている人だけを想って生きていきたい。


 愛されなかった過去は、愛してもらっている今で上書きしてしまおう。


「ねえ、お墓建てるのっていくらかかる?」


「話が唐突だな。」


 だって、バルトにも会わせたい。わたしが家族だと胸を張って言える人たちに。

次回からは日常回の予定。

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