ショウコ、冒険者ギルド辞めるってよ(4)
「え、俺がいなくなってから三百年以上経ってる……?」
「そう。だからグレップ帝国は地図から消えていくつかの国に分かれてる。中心地だったところにノブドって国があって、佐山くんの書いた紙が残ってるの。わたしはノブドの依頼でそれを翻訳したってわけ。」
「マジっすか。」
復讐に怯える佐山氏を説得中。なかなかウンと言わないのでわたしの滞在時間が伸びていく。上で心配してるかも。
「出る気になった?」
「でも結局来訪者は囲われてんじゃないですか。監禁じゃなくなっただけいいですけど。」
監禁されてたのか。人権もクソもないな。そんな時代に来なくて良かった。
「だけどずっとこのままでいる気?さっき自分でも言ってたじゃん、つまんねーって。」
「そりゃそうですけど……。」
「来訪者支援制度で半年は身柄は保護した領預かりだし、今の世界情勢とか常識も教えてくれるよ。どっちみちスキルレベルリセットされたならまたレベル上げしてかなきゃいけないのに、ここにいたら効率悪くない?紙もペンもなくなったらどうすんの?」
佐山氏のスキルレベルは前人未到の∞だったはずなのに、転移に気付いて戻ろうとしても発動せず、試しに一文字だけで発動させてスキルが変わってないかを確認。そこからはレベルを上げる為にひたすらレポート用紙に文字を書いては〝実現〟していたそうだ。
「コレは複製出来るんで大丈夫です。もうストック作ってあります。」
「あ、そう……。」
手慣れてる。当たり前か。一度はレベルが天元突破した伝説の来訪者なんだから。
「あ、そういえば、佐山くんが不老不死にした王様?まだ生きてるよ。」
「どうなったんですか?」
「気が狂って山に篭ってたのを来訪者で魔族の魔王様が保護して現在南の島でリハビリ中だって。」
「そのまま捨て置いてくれて良かったのに。」
「もう三百年経ってんだから許してあげなよ。」
「俺にとっちゃまだ二年しか経ってないんすよ。無理です。」
佐山氏、まだ大学生らしい。わたしがノブドの使者に見せてもらったのは試し書きだったそうで、完成版はスキル発動と同時に紙が消えるよう書いておいたそうだ。戻る場所の住所、日時、自分の肉体年齢などなどその他条件付けをみっちり書き込んだんだと。
だから何事もなかったかのように十九歳の自分として戻り、現在二十一歳。都内の有名な私立大学の経済学部に通っている。頭いいな。漢検一級持ってんだからそりゃそうか。
スキルを持ったまま戻ろうとしたけど、その紙は使えなかったと言う。さすがにそんなズルは出来ないのか。
「じゃあ、殴りにでも行けば?」
「手、痛くなるじゃないすか。」
「文句は言った方がいいと思うよ。相手も何言われても仕方ないだろうし。わたし、夏にそこに行くから一緒に連れてっていいか聞いてみるよ。」
その前に佐山由紀人本人が現れたって知ったら魔王様飛んで来そうだけどな。この子、また腰抜かすことになるのでは?
「ていうか、わたし、君のことギルドに報告しなきゃいけない義務があるから。同行者が心配するからもう戻るけど、多分、後で無理矢理連れ出されると思うよ?」
「同郷の人間売る気ですか!?」
「『全美女我妻』で腹上死しかけたヤツに言われたかないね。子孫、生きてるってよ。」
「げ!」
「わたしのスキル、他人に付与出来ないからとにかく通路開放して。でないと魔王様が直接来るからね。ヤバイよ、あの人。佐山くん、無事でいられるかなー?」
「うわやだこわいやばいマジでやめてください!」
「じゃあ、一緒に行こ?悪いようにはならないよ。」
「ここの領司?信用出来ます?」
「大丈夫。それは太鼓判押しとく。」
佐山氏は大きく嘆息して、『迷宮通路全開放』と書いてスキルを発動した。彼が転移してきた時点で通路は出来ていたと教えてくれた。ここに来たのは一か月くらい前だそうだ。
彼は国の命令でダンジョンに潜ることもあったから、仕組みも理解している。何もない空間なので転移先が新規ダンジョンであると踏んだ彼は、モンスターのいない状況を維持するために『迷宮生成停止』を発動させた。だけどいずれは誰かに見つかると思って『通路閉鎖』も使用したらしい。
彼のスキルはレベルによって使える文字数が上がっていく。レベル五まではすぐ上がることは分かっていたから、とにかく徹夜で書いて書いて書きまくったって。そんなに怖かったのか。
「戸川さんも通路から戻ります?」
「その方がいいかな。いなくなられても困るし。」
「逃げませんよ。前に透明人間になってエライ目に遭いましたから。」
何があったのか知らんが君、色々やらかしすぎだよ。
「あ。ここ片付けます。ちょっと待ってもらえますか?」
「ここのもの持ってくの?」
「出来れば。ゴミとかも回収していきたいです。ダンジョンにビニール袋のこと覚えられても困るし。」
「どういうこと?」
「知らないんですか?あー、ダンジョンは学習するんです。吸収した物の構成とか。モンスターとかも昔はいたのかもしれないですね。それこそ来訪者なのかも。ここで生まれるものは全部コピーなんですよ。」
「え。ちょっと待って。初めて聞くことばっかなんだけど。」
「ないんですか?ダンジョンの取説。ダンジョンは3Dプリンタ付きの生きたでっかいコンピュータみたいなモンですよ。」
「はあ!?」
なんだそれ。ダンジョンの取説なんて知らんし、仕組みの全貌は解明されてないって教わったぞ。やっぱダンジョン生きてんのか。どういう存在なんだ。
「とりあえず荷物はマジックバッグに入れてあげる。」
「そんなのあるんですか?変わったなぁ。」
前回の時はなかったのか。まあ、三百年以上経ってれば国もなくなりゃ技術も発展するよ。
「ショウコ!ショウコ!」
バルトの声がした。開いた通路から降りて来たのか。
バルトが開いた入口から入ってくる。もちろんゴズさんとコートさんも一緒だ。うわ、腕もう部分竜化してる。佐山氏が怯えるから引っ込めてくんないかな。
「ショウコ、無事か!?その男は誰だ!?」
「ちょっと落ち着いてよ。初対面の人に失礼でしょ。あとその腕、元に戻して。怖いから。」
「綺麗だと言ってくれたじゃないか!」
「いや、わたしが怖いんじゃなくてね。彼が」
「男と二人で密室など!危ないだろう!?」
お前が言うな。一時間以上ここで話してたから心配してたのは分かるんだけど。一回戻れば良かったな。
「彼は大丈夫だから。わたしと同じ世界の人だし。」
「まさかこの男が元婚約者か!」
「人の話を聞け!あー、なんかごめんね。この人今、冷静さを失ってるみたい。」
「お知り合いですか?」
「一応、この領の領司だよ。」
「めちゃくそイケメンすね。」
見た目はな。とんだド変態だけどな。
すると、コートさんがバルトを羽交締めしながら聞いて来た。
「彼、もしかして新たな来訪者?」
「そうです。あ、ちょっと違うか。彼は佐山由紀人くんです。またこの世界に転移して来たそうですよ。」
「はあ!?」とゴズさんとコートさんは声を上げた。
「ユキヒト・サヤマがショウコを捨てたのか!?そこに直れ!貴様を斬り捨ててやる!!」
「ひぎゃあ!なんだあの手!やっぱ出たくねえ!!」
「だから違うってば!」
番バカもいい加減にしろ!話を聞け!
佐山!お前は人を盾にするな!




