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ダンジョンは危険がいっぱいだけど、全部スルーしていきます  作者: 里和ささみ


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ショウコ、冒険者ギルド辞めるってよ(3)

「クッソォ!やっぱりやっぱりやっぱりじゃん!」


「ハン、うるさいわよ。」


「お前ら二人とも裏切り者だうわああああん!!!」


 わたし、ハンちゃん、フェイちゃん、キョウちゃん、ジュンさんで料理しながら飲み。料理してるのわたしとフェイちゃんだけだけど。

 今日は若者組が第二から戻って来るので、たらふく飲み食いさせてやろう、お袋の味で、という会。多分、今頃ギルド支部で報告書書いてるはず。ていうか、いつからわたしはあんなデカい娘たちの母親になったんだ。


「落ち着いてよ、ハン。」


「キョウ!キョウは裏切らないよね!?」


「あのね、ショウコ言ってるでしょ?あれはただのウワサ。まだ結婚どころか付き合ってもないって。」


「付き合ってもない男と腕組んで歩くワケないじゃん!公衆の面前で見せつけるようにイケメンにしなだれかかるワケないじゃん!」


 わたしがバルトの体液を誤飲した日、ハンちゃんはパーティで泊りがけで第一に潜っていたのでいなかった。事情を知らないまま噂だけを耳にしたらしい。


「ショウコがいなくなったら酒のアテに困るわねえ。」


「作りに来ますよ。」


「毎日依頼出そうかしら。」


「あはは、それでもいいです。」


 何日か考えて、わたしは一度ギルドを辞めることにした。もちろん冒険者は続ける。フリーになる。手取りが減ることになるが、潜る日数を増やせば何とかなると思う。週四回潜ってるのを週五回に増やすくらいだが。


「領館に住むの?」


「フェイちゃんまで。どこかに家を探すか、宿泊所利用しようと思ってる。」


 フリーは根無草なので家を持たない人も多い。緊急連絡先は必要だから、そういう人は大体実家にしてるという。わたしは実家がない来訪者なので、緊急連絡先は保護責任者のバルトになる。


「領内巡る感じ?」


「そうだね。四月には第三の閉鎖も解かれるっていうから一か月くらい行くつもり。」


「あ、ウチも五月には行こうって話してる。」


「そうなの?なら一緒に行こうかな。」


 キョウちゃんはソロをやめてパーティに加わった。フェイちゃんの後釜になったのだ。三月末日付けでわたしとフェイちゃんは同時に退職し、わたしはフリーの冒険者に、フェイちゃんは食堂の若女将となる。


「寂しくなるわねェ。」


「本当はもっと寮にいたかったんですけどね。ここ好きだし。第二の実家っていうか。」


「夏は旅行出来るんでしょ?」


「それはもちろん。マ総統にも返事しちゃったし。」


「領司様はフリーになることについてはなんて?」


「ギルド経由で報告したけどまだ返事ない。」


「あっちもあっちで大変でしょうね。それどころじゃないのかも。」


「そうなんですか?」


「アラ、聞いてないの?」


 やたらと忙しいってことしか知らないよ。何かアクシデントでもあったんだろうか。


「聞いてないのかよ!冷たい嫁!領司様カワイソ!」


「だから嫁じゃないっての。」


「領内に新しいダンジョン発生の予兆が発見されたのよ。近々現地調査にあの子直々に行くらしいわ。」


「ジュンさん詳しいですね。」


「これでも一応ギルドの正規職員だからね。」


「噂話は耳にしたけど、本当なんですね。」


「正式発表は現地調査が終わってからだけどね。第二が出来れば冒険者も増えて収益も増えるでしょ。正規職員が足りてないくらいよ。」


 と言っても、人里離れた場所にあるため、街道の整備や管理施設の建築、代行管理する自治体の選抜など、色々とやることがあるので実際に入れるようになるのは一年後らしい。

 ダンジョンにも寿命があって、コノ周辺にもかつては難易度高めだがなかなか旨味のある第二があったが、スタンピードが起きた後にただの洞窟と化した。そのスタンピードがアーリさんやキントーさんなどの被害者を生んだ大規模一級討伐レベルの大災害だったそうだ。

 寿命があるということは新しく誕生することもある。地脈がどうたら歪みがどうたらというのは理解が出来なかったが、とにかく以前の第二の地脈の延長上に新たな第二となりそうなダンジョンが発生したということを覚えておけば問題ない。


「楽しみだな。どんなダンジョンなんだろ。」


「ね。」


 ふと顔を上げると窓から若者たちが帰って来るのが見えた。うん、みんな元気そう。良かった。


「ただいまぁ!」


「お母さん、お腹すいたー!」


「先に手ぇ洗って着替えてらっしゃい!」


「ホントにお母さんみたい。なんかやだ。」


 ノッてやったんだからノッて来てよ。そっちが振って来たんでしょうが。


 あー、やっぱり寮から離れたくないな。寂しいよ。他人と暮らすことに抵抗感があったけど、それを簡単に吹き飛ばしてくれたこの寮の仲間には感謝してる。


 三月になり、わたしはBランクに上がった。と同時にギルド経由で領の仕事を請け負う。新ダンジョンの調査員として派遣されることになった。現地調査について来いということだ。

 領の仕事ということはつまりバルトが大元の依頼主。既に一週間前から現地に赴いて、二月の面会は延期になっていた。高ランカーの冒険者と共に既に調査を始めているはずだ。ゴズさんだって出張中。なんかあったのか?


 期間は三日間と言われた。旅支度は簡単で良いや。どうせダンジョンにいるんだし。ランク上がったばっかの三月一日に依頼出して明日すぐ出発しろっていくらなんでも早過ぎじゃない?前から用意されてたんだろうな。


 治癒師も必要ってことで、ジュンさんと二人乗りで馬で向かった。そんなに難易度高いダンジョンが生まれたのだろうか。


 半日かけてダンジョンに到着するとギルドから派遣されているゴズさんは外に出ている。中に入ってるんじゃなかったのか?


「ショウコ、待ってた。」


「ゴズさん、どうしたんですか?他の人やバルトは?」


「領司様は今コートと中にいる。他のヤツらは怪我してんだ。ジュンさん頼む。」


「オッケ。行ってくるわね。」


 他の職員に案内されて怪我人のところへ行ってしまった。潜って三日目と聞いたが、そんなになのか?


「まだモンスターの生成前段階だが、やたらとトラップが多い。みんなそいつにやられてる。やべえな、ココ。やたら広いし、第二階層から下の階層がない。ショウコの法則使っても降り口は見つからなかった。」


「それ、第二階層が最下層ってことですか?」


「ダンジョンの常識的に言えばNOだ。最下層は大体一つの部屋になってるからな。巧妙に隠されてんのか、領司様の看破ですら分かんねえ。んで、お前が呼ばれたってワケ。」


 バルトの看破のレベルは知らないが、50は超えていると言っていた。ここ数年、調べてないらしい。コートさんの危険予知も反応しないってことは危険がないからなのか?わたしに求められていることはすり抜けを使って通路を見つけることか。


「ダンジョンの壁や床をすり抜けて探ればいいですか?」


「おう、そういうことだ。そんなに深くねえから土ん中で迷子になっても上へ上へと行けばいい。こんだけだだっ広くてなんもねーとこならどっから見てもあのキャンプ地が見えんだろ。分かんなくなったらあの高い山を目印にすればいい。」


「分かりました。」


 万が一迷子になってそれが森の中ならお手上げだ。本当の迷子になる自信しかない。見晴らしがいいのは助かる。ここ、まだ雪解け中だけど草原地帯なのかな。ピクニックには良さそうだ。


 ダンジョンに潜るとスライムすら出てこない。ダンジョンの発生はまず初期の大まかな構造が出来て、支道が出来、その後にトラップ、アイテムと続いて最後にモンスターと言われている。生物の生成は最後なのか。

 まだ構造生成終わってないんじゃないか?横に広いと言うから、そこまで手が回ってないだけでは?


 抜け道はまだないそうだけど、左手の法則を使って作った地図を片手に最短で下層へ向かう。


「やー、コレ、特殊ダンジョンの括りでいいんじゃないの?もう諦めたら?」


「また無視なの!?お前、子どもの頃と何にも変わってないね!」


「ショウコちゃんにだけ愛想良くしてさぁ、あの子、そういう対応の使い分けする人、絶対好みじゃないよ!」


 コートさん、それは合ってるけど声デカい。モンスターがまだ出てないから油断してるのだろうか。実力相応だからだろうか。コートさんもSランク並みの力はあるそうだし。


「戻ったぞー!」


「ゴズさん!ショウコ!助かった!もうバルトと二人やだ!」


 コートさんがわたしに抱きつこうとしてバルトに首根っこを引っ掴まれて「ぐえ」とカエルのような声を出した。冗談だよ、この人愛妻家だから。


 他の冒険者は怪我をして、領の職員は退避中。トラップはゴズさんレベルなら対処出来るものだった。わたしはオールスルーで消えていたので問題なし。

 ダンジョンが発生したら冒険者ギルドは本部へ、領は国へ届出しないとならず、その為の調査ではあるのだが、領司自ら赴くことはない。それが新ダンジョン発生の報告を国へ上げると「お前強いんだから自分で行って来いよ」と意見書が来たらしい。犯人はシディーゴ第一で会った議員の派閥だ。国軍、と言っても警察を兼ねている、関係の役職に就いている人たちが多く所属し、ゼーキン家も元はその派閥だったがヨックバール総統閣下とは対立派閥。要するに、嫌がらせだ。普段の仕事が滞るのも知らん顔で意見書という名の命令書が来たのだ。


 この国、もう一度魔王様に世直ししてもらった方がいいんでは?


「ショウコ、ここを真っ直ぐ下に進んでみてくれないか?」


「ここ?」


 思い切り地面だけど。


「何か分かったのか?」


「この下に空間がある。だが通路がない。」


「通路がねえのは確認したけどよ。」


「仕掛けがあって、通路が開くとかじゃないの?」


「それらしきものがないんだ。」


「〝看破〟でも分からないの?」


 隠し事や誤魔化し、嘘を見抜く〝看破〟はわたしのスキルには通用しないが、物には覿面に効くと言っていたのに。なんだろね。


「とりあえず行ってくんね。」


「ああ。すまないな、私の力不足だ。ショウコの手を煩わせるなんて。」


「何で謝んの。わたしだって冒険者なんだから仕事の内だよ。依頼出してくれてありがと。報酬分、キッチリ仕事させてもらうよ。」


「やだあ!この二人ダンジョンの中でイチャイチャしてるぅ!」


「コートさん少し黙ってもらえます?〝オールスルー〟」


「ショウコちゃんまで冷たくなった!」


「コートがウザ絡みするからだろ。」


「モーギュ殿の言う通りだ。」


 コートさんはキャンキャンうるさいからさっさと潜ってみよう。真下ね。秘儀!すり抜けスライダー!空間すり抜けて落っこちても衝撃もなければ怪我もしないというのは検証で試した。メーガー氏の提案で、テーブルの上に立ってそのまますり抜けするという実験を行ったのだ。ストンと落ちたが足裏にも感覚はなく、衝撃がない。

 物は試しと天井すり抜けを行ったが、それも空気抵抗すらなく、ただ落下するだけ。停止の反動もないくらい静かなエレベーターに乗って降りてるくらいの感覚だ。歩こうと思えば空気中も歩ける。世界にいないことになっているから何をしても自由らしい。その内、時間の概念にまで置いてけぼりにされるかもしれないとジュンさんに言われた。それはちょっと想像つかなくて怖いな。

 ただし、わたしの身体能力以上のことは出来ず、歩く速さでしか歩けないのでバルトの飛翔のように長距離をひとっ飛びというわけにはいかない。物理法則の蚊帳の外であっても、わたしはわたしが出来ること以上のことは出来ない。


「お、着いた。」


 およそ二階層分降りたところで上と比べれば大したことないがそれなりの広さのある空間に到着した。


 あれ。なんかいるな。人型モンスターなのか?黒髪の普通の人間に見える。服装はこの世界の服よりも、わたしの出身である世界の服に近い。というか、あっちの服そのものだ。近付くとチノパンにネルシャツ、黒いリュックに、黒縁メガネのそこそこ若い大学生くらいの男が一心不乱にレポート用紙にシャープペンで何かを書きつけている。


 てか、布団とかあるんだけど。菓子パンの袋も散乱している。ペットボトルやコンビニおにぎりのフィルムもだ。もっと栄養考えた方がいいと思う。炭水化物ばかりじゃないか。


「〝実現(リアライズ)〟!」


 リアライズ?


「クソ!まだ十文字いかねえ!もう九文字でやりたいこと思い浮かばないぞ!」


 それって佐山氏のスキルなのでは?


「あー、暇だー、でも出たくねー、ぜってー恨まれてるー、いやだー」


 恨まれてるから引きこもってんのかな。ダンジョンだぞ、ここ。あ、『迷宮生成停止』って書いて千切ってある紙がある。なるほど、コイツのせいでダンジョンの生成が止まったのか。彼のスキルが佐山氏と同じ〝実現〟ならばレベル上げしてんだな。

 ていうか、スキルによく気付いたな。この世界のことを知らないと出来ないことだ。


「グレップどうなったかなー、俺見つかったら殺されるよなー、なんでまたここに来たんだよもー!ふざけんなクソが!」


 本人確定でいいか?戻ったのにまた来たのか?


 とりあえず現状打破の為には彼を保護しなくてはならない。あのドラゴンのように。仕方ない、キャンセルするか。


「〝キャンセル〟」


「ん?うわ!ギャーッ!」


 ギャーッ!て。化け物かよ、わたしは。


「こんにちは。あの。」


「な、な、な、何でいんだよ!誰だあんた!」


「誰だと言われましても。わたしはコソアード国コッティラーノ領で冒険者をやっている戸川祥子と申します。」


 一応、初対面だからな。丁寧な挨拶をしておこう。


「に、日本人……?」


「そうです。まさかとは思いますが、貴方、佐山由紀人さんですか?」


「ギャーッ!やめろ!やめてくれ!俺はそんな名前じゃない!殺さないでーッ!!」


 佐山由紀人本人のようだ。この反応、間違いない。


 恨まれてるようなことした自覚あるんだな。反省はしてないようだ。


 さて、どうしたもんか。

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