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冒険者になろう(8)

 野営の調理は冒険者にとって必須スキルである。


 ハナちゃんを除く。


「えー!アタシだけじゃないよ!キョウさんもだよ!」


 マジか。まあ、上流階級なんて料理人雇ってるから料理なんてせんか。舌は肥えてるだろうが。


「とりあえず、下拵えの仕方が間違ってること、料理の失敗は慣れない人が目分量で調味料を入れること、火の通り加減の見極めが出来てないことのどれかだと思うんだよね、個人的に。」


「ふんふん!よく生煮えって言われる!」


「あー、やっぱり。」


「でもいつモンスター出てくるか分かんないのにじっくりゆっくり料理してらんないよ。」


「だけど他の人はちゃんと火を通してるんでしょ?」


「そーだけどさぁ!」


 ダンジョン料理は基本、汁物、干し肉もしくは干し魚(一夜干しじゃなくて鮭とばみたいなヤツ)、パン、以上。あとはピクルスみたいな漬物も持っていくらしい。


「汁物作れればいいんだよね?」


「うん!」


「それじゃ、この定番野菜で一つ作ってみよっか。」


 たまねぎ、にんじん、じゃがいもと保存が効くモノばかりだな。マジックバッグは冷蔵庫とはいかないまでも冷暗所程度には涼しいらしい。キャベツ、ピーマン、トマトなんかの類もある。字に書くと違う名前だけど、勝手に知ってる野菜は日本語の名前で翻訳されている。あ、たまごもあったわ。


「んじゃ、野菜はこれくらいに切って。」


「え!そんな細いの!?」


「だってすぐ火が通るでしょ?」


「野菜は大きく切った方が美味しいってお母さんが言ってたもん。」


「それはじっくりコトコト煮込んでられる家庭料理だからだよ。美味しいのは分かるけど。」


 切るのは別に苦ではないらしい。刃物の扱いは冒険者として必須スキル。モンスターの解体とかするしね。

 ハナちゃんが野菜を切ってる間にふと外に目をやるとゼーキン氏が背中に哀愁漂わせながら帰って行くのが見えた。あの手紙、他に何が書いてあるんだろ。ま、いっか。


「あー、大きさバラバラになっちゃった。」


「それくらいならいいよ。つながってるところだけバラしてね。それで、油は持っていくんだよね?」


「外の獣狩りの時は生肉焼いたりするからね。」


「そっか。んー。」


 たまご入れたいんだけど、どうしよ。


「どしたの?」


「先にたまごを油で炒めたのをスープを入れると腹持ちがいい。スープに直接流してかきたま汁にすると胃に優しい。どっちがいい?」


「みんな二十前後だからお腹は元気だよ?」


「じゃあ、先に鍋に油入れて、炒り卵……オムレツ?なんて言えばいいんだろ。作ってみよっか。いきなりたくさんでやると失敗するかもだから、とりあえず二人分で作ってみるね。残りの二人分はハナちゃんがやってごらん。」


 熱した油に溶き卵を流し入れ、木ヘラでゆっくりまとめていく。半熟……はマズイかな。ここのたまごの衛生基準分からん。生たまごは日本でしか食べたくない。さらば、我が青春のたまごかけご飯よ。好きだったよ。


 たまごをお椀に二つに分けて盛り、ハナちゃんにも同じようにやらせてみる。


「あ、勢いよくヘラ動かしちゃダメ。ゆっくりでいい。それじゃスクランブルエッグになっちゃうよ。」


「うえ〜、ゆっくりって難しい!腕がプルプルする!」


 スキル〝怪力〟の影響なのか?単に大雑把なだけ?


「ここを超えたら大丈夫だから!がんばれ!」


 多少見栄えは悪いがなんとかたまごに火を入れられた。火加減の話もちゃんとしてある。火を使わないカセットコンロがあるので、それで調理が前提。


「で、油もったいないからこのまま残りの油使って、野菜入れちゃいます。少し炒めるだけで美味しくなるから。塩はこの量ならふたつまみくらい?」


 若者だから多少多めに油使ったっていいだろう。活動量も多いしな。なんせ冒険者だ。それにしても、冒険者はみんな大食漢なのか?結構な量の野菜を使ったぞ。


「これくらいね。野菜の表面が薄ら火が通るくらい。」


「はーい。」


「で、水を入れる。スープペーストとやらを出してください。」


 固形はないが、瓶詰めで売られているスープの素があった。


「で、沸騰したら弱火にして、スープペーストを入れます。中火にして少し煮立たせて、あ、ここ沸騰させちゃダメね。ペーストの風味飛ぶよ。うん、もういい。これをたまごを入れた器に注いだら完成だから。」


「いい匂い!焦げてない!火が通ってる!すごい!あ、ジュンさん呼んでこなきゃ!」


 その間にわたしはパンやらピクルスやらを用意。夕飯にはもう一品がくらい欲しいな。とっておきのチーズ入りジャンボソーセージでも焼くか。チェダーチーズっぽい濃いチーズ入ってて美味いんだ。試食で一口惚れしたんだわ。トマトもスライスして、オイルと塩で、うん。これでいいや。


「いい匂いじゃない。」


 ジュンさんが来たので、調理台でそのまま三人でいただきます。スープは四人前だけど。家庭科の調理実習みたいだな。


「アンタ、ホントよく食べるわね。」


「アタシのスキル燃費悪いんだもーん!」


 身体強化系スキルは燃費が悪いらしい。メーガー氏が教えてくれた。ゴズさんもそうだって。これだとスープ足りないんじゃないか?


「もう一品作ろうかな。」


「それならセラーからワイン持ってこようかしら。」


「いいの!?やった!」


「頑張ったご褒美よ。赤?白?ロゼ?スパークリングもあるけど。」


「全部!」


「このバカ娘!ショーコは?」


「あ、じゃあ、白で。」


 というわけで、その間に同じ精肉店で買ったハムを薄切りにし、チーズを乗っけてオーブンへイン。セロリとキュウリもあるからディップするか。クリームチーズベースのハーブ入りディップソース。これも作り置き。冷蔵庫あって助かった。自分の部屋にも欲しい。たまごがなぁ、生でイケるならなぁ、マヨネーズ欲しいんだけど。あとは作り置きの南蛮漬け風魚のマリネも出しちゃおう。醤油ないから魚醤で作ったやつ。ワインをご馳走になるんだから出し惜しみはナシだ。


「うわぁ、一品どころじゃなかった!」


「ほぼ作り置きだけどね。」


 ガラスのスクリューキャップがあるんだから、ダンジョンにも作り置き持ってけるんじゃないか?熱湯で空気抜けば保存もいいだろうし。マジックバッグの容量次第だけど。


「あら、豪華になったわね。」


 ジュンさんにもお褒めの言葉をいただき、これからちょいちょいつまみを作る約束をさせられた。いや、それはいいんだが、それも依頼になるんか。マジかよ。


 冒険者とは。

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