冒険者になろう(9)
「んじゃ行くぞ。」
あれから音沙汰ないゼーキン氏。別に待ってはいない。自分からも行かないし。何もなさすぎて不気味なだけだ。
ダンジョンから戻ったら会いに行く約束ってダンジョン滞在時間三時間でも行かなきゃならんのか?めんどいな。返事するとき嘘でいいってゴズさんに言われたし、嘘ついたってことでいいわ。
「よろしくお願いします。」
「お願いしますッ!」
おお、キョウちゃん気合い入ってんな。
「つっても、キョウには楽勝すぎねえか?」
「いえ、ゴズさんの華麗な剣捌きを拝見したく!」
「華麗……?無骨とはよく言われるけどなぁ。」
本人は首を傾げているが、キョウちゃんには華麗に見えてるんだろう。キョウちゃんがそう思ってるものをわざわざ否定する必要はない。
久々に街の外へ出る。久々というか、ここに転移して以来のことだ。
ダンジョンまでの道はしっかりと舗装されていた。ダンジョンにも寿命があり、廃ダンジョンというのもあるらしいが、この領内でダンジョンは三つ。コノという今いる街の側にひとつ、少し離れた山の中にひとつ、あとは湿地帯にひとつ。基本的に人里離れたところにある。というか、ダンジョンから離して集落を作っている。モンスターが漏れて来ることがあるから。
あと正規の入口以外にも出入口になる穴があって、体格の小さい小物のモンスターなんかはそこから出て来たりするわけ。その討伐も冒険者の仕事。まあ、わたしはやらんけど。
「ショウコ。高層階の代表的なモンスターは?三つか四つ挙げてみろ。」
「スライム、ゴブリン、マタンゴに、ええっと、アルミラージ?です。」
「ん。そんなもんだな。まあ、大して強かない。お前の気配など探れない低レベルなヤツらだ。かといってスキル無し、戦闘能力無しならお前では命の危険もある。今日はスキルを使わず、ちょっくら歩いてみよう。基本、モンスターと遭遇したらオレとキョウで対応する。ヤバそうなときは指示出すからスキル使っていい。」
わたしはしっかりと頷いた。初心者マークのまま死にたくないし足手まといも嫌だ。ゴズさんには絶対服従の姿勢でいこう。
馬がない人用のダンジョン行き定期便馬車を使って、門を出て一時間ほど進むとダンジョンの入口に到着した。ん?ちょっとした村?
「結構栄えてません?」
「栄えてるっつーか、保存食とか売ってたり、わざわざ街に戻って治すまでもねー装備の補修とか、新人はここの宿泊所で雑魚寝して毎日潜ったりとかそんなんくらいだぜ?」
「ギルド自体こっちに持ってくるってことはしないんですか?」
「昔やってたけど、役人の目の届かないところで不正が横行したとかなんとかで街に戻ったんだと。今は宿泊所兼ねて派出所置いてるだけだ。ここは領都に近いからギルド管理でやっててこんなんだけど、もっと外れの方だと近くの村の人間に管理委託して代行でやってもらってるからここまでじゃねーよ。」
具体的に不正というのは習得物のチョロマカシだったり、所属冒険者数の虚偽申告による脱税だったり。ギルマスから下っ端までギルドぐるみでやらかしたそうだ。
「ま、今はクリーンな経営だから。安心しな。」
「あのギルマスが不正するわけないですもんね。」
「あの領司様の看破に太刀打ち出来るヤツもいねえしな。」
ふうん。あんなんでも役立つところはあるんだな。
屋台のいい匂いにつられながらも、まずはダンジョンの入口を目指す。受付で入場許可をもらい、いざ!
「この辺は人工的に作った出入口だ。ダンジョンそのものじゃねえからな。ココはいつもこのまんまだ。一本道だから関係ねえけど。」
ダンジョンは地中に出来た空洞。要は洞窟だが、ダンジョンそのものをモンスターと捉える説、星の記憶説、古代テクノロジー説、来訪者のスキル説と色々あるらしい。
「他国だと湖の底にあるところもあるよ。伝説だと、かつて飛翔のスキルを極めし者が巨大な雲の中にダンジョンを見つけたんだって。それはいつの間にか霧散してしまったけど、新しい雲のダンジョンもあるのかもね。空飛ぶ魔物がいる説明つかないもの。」
へえ、壮大なお話。雲の中のダンジョン。想像つかん。
「んで、ここからがホンモノのダンジョンだ。」
堅牢な石造りの城の廊下といった風情だな。岩肌剥き出しよりは歩きやすいだろう。
テクテク歩いて行くとジェル状の物体が天井から落ちてきた。失敗した、とでも言うようにプルプルと不安げに揺れている。
「これがスライムだ。ここは最上階だからスライム以外は滅多に出ない。コイツの体液かけられると皮膚が爛れるぞ。弱っちいが無害ってワケじゃない。気をつけろ。」
一応、防御の為のヘルメット被ってるけど、強酸性なのか何でも溶かしてしまうらしい。頭上に落っこちて来たらすぐに振り払えと言われた。
音を置き去りにしてゴズさんは剣を振り抜くとジュワッと液状になって床に染み込んでいった。
「こんなんでも欲しがるヤツはいるんだけどよ。使い道は色々あるから。」
「何に入れるんです?」
「琺瑯の専用容器がある。マジックバッグに生きたまま入れられりゃいいのにな。」
耐酸性のある革手袋で生捕りにすると教えてもらった。わたし、取り放題では?あ、でもマジックバッグに入れられないからなぁ。サイズも野球ボールから幼児用の大きいゴムボールサイズまである。中層階以下だと巨大なスライムもいて、そいつらはそこそこ手強いんだそうだ。ゴズさんですら余裕で倒せはしても素材としての回収は難しいと言う。中身だけ抜き取れないかな?
その後も数匹スライムが出て来た。気付かなかった
けど最初のスライムが落下して来たのはゴズさんの剣圧のせいだった。剣、抜いてたの?剣圧って漫画でよく聞くけどそもそも何?
「お、コボルト。」
「珍しいですね、最上階にいるの。」
「どっかに抜け道でも出来たかね?」
「まあ、コボルト程度なら別にって感じですね。
真下とつながってるだけでしょうし。」
「んだな。」
冷静だなぁ。あっちはメッチャ気がたってるっていうのに。でも多分ゴズさんが怖いんだろう。攻撃しあぐねている。
「キョウ、やってみろ。」
「はい。」
「あ、ショウコ。ちっとばかしグロいけど耐えろよ。練習だと思って。まあ、吐いてもダンジョンが喰ってくれるからいいけど、クセェのはクセェからな。」
内臓飛び散る系ですね。理解。把握。
「分かりました。」
今後、下層に入るに当たって同僚の死を目の当たりにする可能性は大いにある。慣れなくちゃ。冒険者は死と隣り合わせなんだから。
自分で選んだ道なんだから。
次回、グロ注意。




