冒険者になろう(5)
すみません。貨幣単位、プロローグの祥子さんの年齢、少しいじりました。
混乱させて申し訳ございません。
売店に連れてってもらい、マジックバッグのカタログを見る。
「ショウコは体力つきゃあかなり深く潜れるようになると思う。金に糸目つけないんなら最初から最上位ランクのヤツ買っといた方がいいぞ。」
「何、彼女、そんなに有望なの?」
「ああ。なんせ領司様の看破で見抜けなかったくらいの認識阻害だからな。まあ、類似スキルってだけで同じもんじゃねーんだろうが。」
「マジかよ!?」
怪我をして引退してから売店の売り子をやっているというマイドアーリ・ガトーさん。元ゴズさんのパーティ。ゴズさん、奥様、マイドアーリさん、キントーさんの四人でこの街一番のパーティだったそうだ。マイドアーリさんとキントーさんがスタンピードにて治癒師の力及ばぬ怪我を負い、引退。その後、夫婦でダンジョンに潜っていたが、奥様が妊娠を機に引退(復帰はするつもりらしい)、ゴズさん一人でもそこそこやれるのでソロ活動してたけど、家事育児を手伝うためにギルドの正式な職員となり、教官をしている。
ギルドの雇用形態は二通り。正式な職員であるギルドマスター、事務員、解体師、整備士、治癒師、訓練士。師業は国家資格がいるので高級取りらしい。士業もランクがあるが、それぞれの組合の行う試験でのランクなので民間資格。なくても仕事は出来るが、あると資格手当がつく。彼らは正社員と言っていいだろう。
一方で冒険者は派遣社員というか、何だろ?歩合制の芸能事務所の芸能人みたいな?一応、ある程度の支給はされるが、成果が出なければ簡単にクビを切られる儚い存在だ。実力が給料に直結する。難しい案件だと国家公務員の冒険者(というより専門職の兵士)の派遣を要請したりするし、低ランクしか所属してなくても何とかなるらしい。
このマイドアーリさんとキントーさんはよりによってジュンさんが長期休暇で街を離れている時に起きたスタンピードでの怪我で、それぞれ義手と義足をつけている。千切れてすぐならくっつけることもできたが、数日経過してからではハーフエルフの力では治せるものではないらしい。キントーさん、義足だったのか。
「マイドアーリさん。」
「アーリでいいよ。」
「アーリさん、どれがオススメですか。」
んー、と唸ってカタログをめくり指差しながら教えてくれる。ここの人たち口が悪いけど親切だな。口の悪さは人のこと言えないけど。
「コレなー、時間停止機能っつっても完全じゃねぇんだ。時間の経過がゆっくりになるだけ。完全な時間停止機能ってのは本当に一点ものなんだよ。オーダーメイドなの。」
そういやハナちゃんも言ってたな。
「安い方から高い方へ順々にその効果が高い。モノによっちゃ熟成を進められる逆のヤツもある。まあ、そんなもん、酒蔵でしか使われてねえけど。雑菌は入んねえから腐敗はしねえ。生命活動があるもんは入れらんねえからな。噂によればあるって話だが。」
へえ、逆に時間を進めることも出来るのか。熟成肉とか食べたことないけどいいんじゃないか?
生命活動があるものを入れられるマジックバッグもあるのか。危ないんじゃないか?
「んで、決め手は時間と容量のバランスだ。ダンジョンも低層階になるとバカでかいモンスターやバカでかいお宝があるわけ。安いのだとそれを手で詰め込まなきゃなんねえし、モンスターだと解体しないとまず入れらんねえんだよ。モンスターは貴重な素材だ。ダンジョンの恵みの最たるものと言ってもいい。だが、死んだらすぐに消化吸収が始まる。素材の回収は時間との戦いだ。出来れば形そのまま持って帰りてえからな。その方が買取価格が高値になる。そこでコイツ。コレ、市販の中で容量が最上位な。」
「あー、コレな。何度コイツが欲しいと思ったか。」
「な!コレはしまいたいものに口をつければあっという間に回収出来ちまう優れ物なんだよ!ドラゴンでも山のような金塊でも何でもだ!最下層の最奥にゃあ、お宝がぎゅうぎゅうに詰まった部屋もあるくらいだ。普通のバッグじゃ入り切らねえくらいにな。だが、コイツはそれを入れられる。ただし、時間停止機能はオマケ程度の効果しかついてねえ。もっといい時間停止機能付きだと完全なオーダーメイドだ。これですら屋敷一軒分の値段はする。そうだな、領司館くらいは建てられる。」
お値段を見て目を丸くする。が、払えなくはない。
「ちなみにオーダーメイドで完全な時間停止機能とこの容量でマジックバッグを作った場合はどれくらいのお値段になりますか?」
「あ!?え、えー、分かんねえな。コレで領司館一軒分だから、そうだな。首都の一等地に屋敷建てるくらいはすんじゃねえの?」
「現在の残高がこの街の一等地に今まで世話になっていた領館の離れに広い庭をつけて、馬車止まりまでついた屋敷を購入して使用人や料理人、庭師、馬丁の給料を支払っても十年は維持出来るくらいあるんですけど、それで購入出来そうですか?」
「そんなにあんの!?想像つかねえんだけど!?」
だよな。わたしも0の数数えんの面倒臭いもんな。確かに家の規模にこだわらなきゃ一生遊んで暮らせると思うよ。だけど、あのクソバカアホクズ下半身脳味噌野郎からもらったモノで得た金で生活したくないんだわ。これだけは譲れない。
「ち、地価が違うから分かんねえよ!見積もり取るか!?」
「お願いします。」
「ショウコ、本気か?」
「本気です。」
「マジ?」
「ですからマジです。あぶく銭なのでパァッと使いたいと思いまして。」
「オレの酒代、残る?」
「奥様へのお礼代は何とか残してみせます。」
時間停止機能を少しケチればいくらかは残るだろう。なんせ屋敷を建てるのも土地から買った場合の値段だ。超高額。
「あー、所有者認定はつけられっから盗難の心配なくなるけど、どーする?」
アーリさんは頭を掻いてフケを飛ばしながら見積もり依頼書を早速書き出した。舞い飛ぶフケを避けるのに思わず仰反る。
「それもお願いします。」
「コレ、もう全部盛りだな。おっそろし!」
「とりあえずありとあらゆる機能を付けて見積もりしてもらってください。高過ぎたらそこから削って行きます。」
「はー、もう異次元の話だわ。分かった。それで出しとく。冷やかしだと思われねえかな!?」
「来訪者だから大丈夫だろ。」
「そういう問題かよ……。」
後日、アーリさんの予想通り、〝こちらのお見積もりでお間違いありませんか〟という質問が来た。胃の辺りをさすっていたアーリさんにはキントーさんとこでおごってあげた方がいいのかもしれない。なんならキープボトル何本か付けてあげてもいい。