冒険者になろう(4)
「なんだか昨日は大変だったみたいだなぁ。」
ゴズさん、その話には触れないで。
「領司様がジュンさんに首根っこ掴まれて大通り引き摺られて行ったらしいぞ。」
「この街であんなこと出来んの、ジュンさんくらいだわ。上流階級は上流階級同士ってね。まあ、問題なく帰ってくれて良かったよ。」
問題は大ありだ。このギルドマスターの部屋に来るまですれ違った人物全てがわたしを不躾に見ていた。「領司様の番」と噂話をしている者もいた。最悪だ。
「んじゃ、通行証出して。ギルド証に書き換えするから。」
「はい。お願いします。」
わたしの通行証を受け取ったのは昨日寮への侵入を試みたあの男を阻んでくれた方である。女性でありながらギルドマスターの職に就いているという女傑。アラフォーくらいだろうか。浅黒い肌で、鍛え上げられた腹筋を惜しみなく晒す謎のデザインの服をお召しになっている。いや、ファンタジーっぽくてカッコいいんだけど。
「へえ〜、スルースキルって意味分かんないね。」
通行証に登録されてる個人情報を紙に書き付けていたギルマス、マッタ・コーンドゥさんはさすが来訪者と笑いながら文面そのまま写し取る。プリンターでもあればいいのにな。
「離婚歴アリ。」
「はい、まあ。」
「再婚の可能性もあるよな。うーん、まあ、長く働いてくれると嬉しいんだけどね。一応、託児所併設してるけど。あ、でも、使えんの三歳からだから。」
なんと。福利厚生がしっかりしている。
「ウチも下のが三歳になったら嫁さん復帰する予定だからな。上の子はもう預けてる。片親だけでもギルドに所属してれば使えるから、金は取られるが悪くねえぞ。」
「街中にもあるけどね。どの道、仕事のある日はギルドに来ないといけないし、冒険者はギルド内託児所を使うことが多いよ。」
へえ。わたしには縁のなさそうな施設だな。
「あと風呂な。大浴場がある。寮はシャワーだけだろ?」
「そうですね。大浴場ってことは湯船があるんですか?」
「あるよー。傷と体力の回復早めてくれる薬湯風呂。使用料は一回50ゲンキン。タオルのレンタル入れて100ゲンキン、アメニティ貸し出し入れると150ゲンキン。ま、女の子は大体自分の持参して来るね。更衣室のロッカーに荷物突っ込んでる。後でロッカーの場所案内するからね。外出る時はロッカーに貴重品入れてって。ギルド証が鍵代わりだから、ロッカーを物理的に壊さなきゃ盗まれないよ。今までそういうことは一度もなかった。」
「女子更衣室はだろ?男子はめんどくさがって鍵かけてなかったりで、財布の中身抜き取られたってことあんぞ。」
「そりゃアンタ自分のことでしょ。まあ、そういう輩がいないわけでもないから気をつけて。あと来訪者といえど、そういうことしたら即刻クビだよ。」
わたしは素直に頷いた。むしろちょっとした小金持ちのわたしは通行証こそ大事に持ち歩かなきゃならないな。小さな店や露店だと現金支払いの店もあるらしい。電子マネーの普及は進んでいるが、一方で現金のみの店があるとか、なんだか日本のようだ。
それを聞いて財布買わなきゃなと思ってたら、ゼーキン氏からの貢物の中になめし革の財布が入っていた。女性が好むデザインではなかったが、しっかりした作りの高級品というのは分かる。アイツ、人の趣味も知らんのに勝手に物を買うなと言ったのに。サプライズは嫌いなんだよ。
「ギルドの規則は覚えてくれた?故意ではない軽度の違犯は初犯はまあ多少の目こぼしあるし、ショウコは来訪者だから当分目をつぶるけど、なんもない方がいいに決まってるから頭に入れといてね。」
「はい。何度も読んだので大丈夫だと思います。」
ん、と言うとマッタさんは書くことに集中した。しばらく待って、個人ファイルの一ページ目に挟み込んだ。受けた依頼の履歴なんかも残すらしい。後々クレームか来たりすることもあるらしいし、依頼の受注管理は大事なことだそうだ。外の仕事だと任務中に命を落とすこともある。常に全ての所属冒険者のことを把握してなければならない。
「よし、書き終わった。あ、と、は、登録書き換えだな。……はい、おしまい。これでコレ、ギルド証になったから。」
「ありがとうございます。」
冒険者ギルドに所属すると通行証はギルド証に書き換えられる。これがあれば、門の出入りに通行料はかからない。フリーの冒険者は取られる。ギルドに所属してても、一定の成果を上げられなければクビを切られるそうだ。その為の優遇制度なんだから、当たり前なのかもしれない。
「何か質問ある?」
特にないな。働き始めて疑問が湧いたら都度聞いていくことにしよう。
あ、そうだ。マジックバッグのこと聞いておかないと。
「あの、マジックバッグが欲しいんです。時間停止機能付きの。」
「あー、新品をカタログから選ぶなら店まで行かなくてもココで買えるよ。後で売店行っといで。時間停止付きは基本、一点ものだから。中古なら街にある道具屋に行った方がいいね。でも、結構するよ?」
「ショウコはあの指輪の元々の持ち主だぞ?」
マッタさんは目を瞬いて、ああ!と声を上げて机を叩いた。
「そういやそうだった。頭ん中で繋がってなかったわ。結構な金になったんだろ?働かなくても生きていけんじゃん。」
「いえ、あれはあぶく銭ですので。あれを手にした経緯が経緯なので、なかったことにしてなるべく手を付けないようにしたいんです。」
「あぶく銭なら使っちまった方がいいんじゃないか?」
「一応、マジックバッグ代はそこから出すつもりではいます。」
「パーッと飲みに使おうぜ!」
「お前、たかる気だな?」
マッタさんで白い目で見られてゴズさんは頭を掻いた。
「んなことしなくたっていいからな。」
「はい。分かってます。あ、でも、ゴズさんわたしの指導で泊まりがけでダンジョンに入ることもあるんですよね?」
「ん?そう説明したろ?」
「その間は奥様がお一人でお子さんを見なくちゃいけませんよね。その分、何かお礼したいです。」
現在は日勤のみの契約をしているゴズさんだが、わたしの指導のためにダンジョンに潜ることは決定している。訓練計画の中に野営というのが複数回あった。ダンジョンに潜った際はついでに中層階でもアイテム回収をして欲しいとマッタさんから頼まれているというのもあるらしい。ここのギルドの成績不振はゴズさんの奥さんの産休から始まっているそうなので、その代理を務められるわたしとゴズさんのペアで挽回したいんだそう。
しかし泊まりがけになるとお子さん三人の面倒を見なくちゃならない。大変そうだ。
「そこまで考えてくれなくていいぞ。」
「いえ、こういう時は奥様に媚を売った方がいいんですよ。快く仕事に送り出してもらえるように。」
「そういうもんか?」
「そういうもんです。」
「そういうもんよ。」
男性には分かんないかな。事前に頼んでおけばケータリングしてくれる食事処もあるそうなので、野営訓練の日は食事を差し入れようと思う。好きなもの選んでもらおう。あと夫が見知らぬ女と二人で訓練など女からすれば不安要素しかない。一度ご挨拶に行った方がいいな。普通の認識阻害についても話を聞いてみたいと思ってたし。
その後は誓約書にサインして、施設の案内、職員への紹介などをしてもらい、通りすがりの冒険者とも挨拶をした。相変わらず好奇の目で見られるが、ハッキリと口に出して来る者はいなかった。わたしに気を遣ったんじゃないな。あの男の権力を恐れたんだ。
月一の面会以外は会わないぞ。レベルアップのためにもスキル使いまくって逃げ切ってやる。
マッタ・コーンドゥ(42)
バツイチ
成人済みの子ども二名 孫あり
長女イッカ(23)長男キット(20)
スキルは千里眼(透視がレベル50で変化)
また今度さん。
ギルドマスター
スキルレベル50以上
公的に評価される功績があるAランク以上の冒険者
他薦候補者から投票で決まる
任期は辞めたくなるまで
定年はあり、55歳
冒険者ランク
上から順にS、A、B、C、D、E。
ポイント制導入。依頼によってポイントが決まっている。他、ランク毎にいくつかの条件がある。
依頼以外の功績もその評価によってポイントがつくが、討伐系の依頼をこなさなければいつまで経っても上位ランクには上がれない。規定は世界共通。




