冒険者になろう(3)
そういえば、避妊したのか?
いや、そんなもん聞かなくても分かってる。してない。最悪だ。安全日ではあるが不安になってきた。このまま子どもが出来たら働くことなく囲い込まれるに決まってる。
これならまだ国に囲い込まれた方がいいわ。働かせてもらえるし。公務員だし。あの男の囲い込みは幽閉に近い。だって、総統閣下がそう言っていた。息子と番わないのなら、いや、番ったとしても、国家公務員にならないか、と。
なので、ダンジョン潜るの慣れてもっとレベルが上がったら国のお抱えのトレジャーハンターになることも出来る。優秀なトレジャーハンターは国内のみならず国外へも依頼で派遣されることもあるそうだ。手に入れたアイテムはもれなく取り上げられるが、報酬はそれこそ日本で働いていた時の十倍はもらえるらしい。成功報酬という名の手当を含めてだが。なんと素晴らしい。
閣下的には番った場合も執着が酷過ぎて距離を置きたくなることがままあるから、そうやって仕事で物理的な距離を置くことが精神衛生上大切なのだと語った。経験者の言葉は重みがある。
まずは避妊薬だ。存在しなかったらアウトだ。だが、花の十七歳のハナちゃんに聞くのは躊躇われる。ワンナイしたと言って軽蔑されたらどうしよう。
「しつれぇい?」
「ジュンさん!」
ノックもなしに入って来たのはまさかのエルフだった。ゼーキン氏と並べば威圧感たっぷりになるであろう美貌。特徴的な耳、絹糸のような髪、その豊かな、豊かな、豊かな、胸がないだと!?
「アンタがショーコ?」
わあ、口の悪いエルフ。声も低い。でも、仕草は女性らしい。え?オネエなの?オネエのエルフなの?
「はい。はじめまして、戸川祥子です。これからここでお世話になります。」
「アタシはジューン・ビ・バンタン。みんなアタシのことジュンって呼ぶわ。自分で言うのもなんだけど、ここのお局よ。下のってアンタの番?」
オネエのエルフは準備万端さんだった。そしてなんかバレてる。
「断じて違います。」
「そう?匂いがするからそうかなって。マーキング済みなんでしょ?」
思い切り眉間に皺を寄せてしまった。知られたくなかったのとデリカシーのない発言とハナちゃんに聞かれた気まずさからである。全ての元凶はあの男だが。
「やあねえ、栗の花の匂いぷんぷんさせて。まあ、ここの娘っこどもはみんなそうだけどサ。」
やめてくれ!わたしのライフはもうゼロだ!なんと恐ろしいエルフの嗅覚。
「その様子だと合意の上じゃないのね。」
「お察しの通りです。」
「まあ、竜人の体液って、番にとってはとてつもない媚薬だから。酒に仕込まれたのかしら?仕方ないわね。」
それもそれで気持ち悪いが普通に直接注ぎ込まれた。唾液を。いいか、唾液だけだ。信じてくれ。
「あああの、ジューンさん。」
「ジュンでいいわよ。」
「ジュンさん。ちょっと内密なお話が。ごめん、ハナちゃん。ジュンさんと話してくる。」
「はぁ〜い!いってら!」
部屋から出て廊下にこれまたバカでかいオネエエルフを壁ドンする。初対面で礼を失してはいるが、今はそれどころじゃない。
「避妊薬って、どっかに売ってませんか?」
「ああ。あるにはあるけどあんまり効果ないわよ。ホンモノは法外な値段がするし。」
「あるにはあるんですね!?」
「でもこんな地方都市には売ってないわよ。」
「そんな!」
あばばばばばばばばば。どうしよう。いや、こっちに来て多少周期が乱れはしたが、恐らく一週間以内には生理が来るはずだ。その間になんとかその法外な値段の避妊薬を手配してもらって、ま、間に合うのか?
「しょうがないわねぇ。ホラ。」
ジュンさんがわたしの腹に手を当てて来た。ジュンさんの手、あったかいなぁ。何か腹の中に違和感があるけど。
「これで大丈夫よ。今回はお近づきの印にタダにしてあげるけど、次回からはお金取るからね。」
「はい!?」
「避妊よ、避妊。魔法で避妊してあげたから。事後一日も経ってないんでしょ?安心なさい。」
なんと!さすがエルフ!魔法が使えるのか!魔法は来訪者の固有能力以外はないと聞いて残念だったが、こんなところに魔法を使える人がいたなんて!オネエだけど!
「ありがとうございます!お金ならあるので今回も支払わせてください!」
「いーのいーの。ここの子たちもみんな一回はアタシんトコ来るから。ハナは温情で二回も無料でやってあげたのよ?ホントいい迷惑だわ。」
ハ、ハナちゃん……そんな……。
軽くショックを受けたが気持ちを切り替えよう。
「本当にありがとうございます。助かりました。」
「アレ、今後大変よ?今からアタシがシメて来るけど夜道は気をつけなさい。」
「はいッ!ありがとうございます!」
夜道を歩くときはスキルを使おう。あの男にもバレはしない。絶対に安全だ。シメてくれるというのも本当に有難い。恐らく名前からして貴族であろう。というか、エルフってことは来訪者なのか?
「おかえり〜。」
「ごめんね、一人にして。」
「いーよいーよ!コレ何処に置く〜?」
「あ、それはそっちの棚。」
ハナちゃんにジュンさんのことを聞くと、彼女ではなくやはり彼で、そしてオネエで、ハーフエルフなんだそうだ。他国の来訪者の子らしい。この街には五十年ほど住んでいるとのこと。ここの寮母兼ギルドの治癒師をしている。年齢は聞くとガチギレするから聞いちゃダメ!とハナちゃんからの忠告は絶対に守るぞ。なんせ恩人だ。頭が上がらない。
「さてと。こんなもんかな。」
「お料理道具、いろいろあるね。」
「教えるって約束したでしょ?一緒に使おうね。」
「うん!うれしいな!」
可愛らしい女の子にギュッとハグされるのはよき。当分男のハグはいらない。
コンロが一口の簡易キッチンしかないが、共用のキッチンもあるのでオーブンなんかはそこを使うといいらしい。お茶淹れるくらいのためのものなんだな。
「これ、下に置けるよ。」
なんと。共同キッチンには個人の調理器具を置くスペースもあるのか。早速行ってみることにした。
「ねえねえ!なんか作ってよ!」
「材料がないよ。」
「待って!アタシのバッグに入ってる!えっとね〜、コレと、コレと、コレと、コレと、コレと」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?え!?その小さな袋にそんなに入ってるの!?」
「マジックバッグだもん。当然だよ。安物だから時間停止機能ないんだ。あ、コレ腐ってるぅ、最悪ぅ!」
マジックバッグなんかあるのかよ。魔法ないって聞いてたからないと思ってた。来訪者とその子孫が魔道具の職人でそういうのを作ってるとハナちゃん情報。来訪者自立支援では法律とか習慣、最低限の生活知識しか教えてもらえてないんだな。こういうことこそ知りたかった。
「それ、いくらしたの?」
「中古で十二万ゲンキン。」
金の単位がゲンキンなんだよ。意味分からん。しかし中古で十二万かぁ。時間停止機能がついてないってことはついてるやつもあるんだな。そしてお高いんだな。
「どこに売ってるの?」
「道具屋さん。あ、でも、ギルド経由でも買えるよ。欲しいの?」
「ちょっとゴズさんに相談してみる。」
「あると便利だからね〜。レンタルも出来るけど買った方がいいよ。こうやって私物もずっと入れとけるし。」
「うん、買う。絶対に買う。」
多少高くても屋敷代にはならんだろう。ゴズさんに相談して、優良な店を聞いてみよう。中古でもいい。時間停止機能がついてるヤツ。
「自分のマジックバッグがあると、あー、冒険者になったんだなぁって思うんだよね。みんなまずはそこが第一目標なんだよ。」
「そうなんだ。」
簡単に買える金持っててスミマセン。よし!まずは冒険者になった記念にマジックバッグ購入だ!明日以降に!
「あ、外、静かになったみたいだね。」
「元々静かだったよ?」
街の外れの方だしな、ここ。
「ショウコってば、いじっぱりだな〜。」
なんとでもお言いなさいお嬢さん。人生、スルースキルが大切なのよ。
ジューン・ビ・バンタン(363歳)
オネエだけど両刀
ただし、好みは偏っている
寿命はあと二百年くらいある




